第四十話 第一試合
輪廻は第一試合目からスタートになっているので、観客に囲まれて相手と向き合っていた。
目の前の相手はDグループで勝ち残った男性のエルフ、ロニーと言う。ロニーはAランクの冒険者で、予選を見たが土魔法を良く使っていた。
「初めまして、私はロニーと言います。まさか、15歳も行かない少年の相手になるとは思いませんでしたよ」
「まぁ、俺は輪廻と言うが、少年だと舐めるのは止めた方がいいぞ。さぁ、楽しませてくれよ?」
「ふふっ、戦闘が好きな人の事を、『バトルジャンキー』と言ったかな? 輪廻君もそうみたいだね」
ロニーの得物は双剣のようで、両手に刀のように細く、両刃になっている。輪廻も紅姫とナイフを構える。
『さぁさぁ! 第一試合、右がリンネ選手、左がロニー選手となります!! リンネ選手はまだ11歳と聞いておりますっ! 11歳でBランクになったリンネ選手は類い稀なる才能を持っているのが予想出来ます!
それに対して、ロニー選手はAランクになったばかりですが、エルフは長寿で様々な経験と努力を積み重ねていると思われます!
互いは異なるタイプですが、勝ち残るのはどっちだぁぁぁーーーー!?』
レディナは長々しい解説をしていたが、戦いは始まっている。まだお互いは動いていないが、先を読むためにどの手で行くか選択しているのだ。
先に動いたのはロニーだった。
「先手を貰う!」
指の形を拳銃の形にし、風の弾を撃ち出した。”風球”の魔法だが、ロニーは口に出さずに何発も撃っていた。
それらの技術は魔法の発動に慣れてしまえば、出来ることだが、風の球は全て輪廻に当たるように細かく調整されていた。
だが、簡単にそれを喰らう輪廻ではなく…………
「まず、様子見か?」
輪廻が手を出すだけで、風の球は何かに弾かれたように、全て上に流されていた。
「なっ! 輪廻君も風を……?」
「さぁな?」
魔力から壁で防がれたのはわかるが、見えなかったことからロニーと同じ風魔法を使ったと予測したが、それは間違いである。
今度は輪廻が動き、前に走りながら”重球”を発動する。本来の”重球”は見えないのだが、”縮星”にすると黒くなるのだ。その違いは確実ではないが引力に関係があると思う。今回は弾きとばすために”重球”を使う。
”風球”と同じように見えない球がロニーに向かうが、見えなくても魔力を感じ取れることから咄嗟に横へ避けていた。
「やはり、魔力をハッキリと感じ取れるみたいだな」
ボソッと呟き、今度はナイフを剣に打ち込む。次は剣の技術を感じておきたいと思い、ナイフで剣に挑む。
「まさか、ナイフで剣に挑むのか!?」
まさか、ナイフで打ち合ってくるとは思っていなかったのか、驚愕していた。
剣とナイフではリーチが違い、ロニーを斬るためにはそのリーチ分を潜り込んで行かなければならない。
予選でもナイフを使って戦っていたのだが、ロニーは輪廻の戦いを見てなかったかもしれない。
(トーナメント戦で相手になるかもしれないのに、予選を見てないのは馬鹿じゃないか?)
それか、見なくても勝つ自信があったのか…………。
「くっ!」
ロニーは輪廻から距離を取る。ロニーは剣が得意ではなくて、魔法を使うために離れたかもしれない。
「潰れろ!」
輪廻の立っている横に土壁が二つ出来て、輪廻に迫っている。土壁で潰そうとする魂胆だろう。
だが、この程度では輪廻はやられない。
「脆いぞっ!」
”重脚”で土壁を壊して、ナイフでロニーの肩に傷を付ける。首を狙ったのだが、紙一重で避けられ、肩に当たったのだ。
「いっ、近付かせるか!!」
「おっと?」
今度は土の球を乱れ撃ちをしてきて、さらに砂煙が漂う。
土の球は砂煙を作り出すために乱れ撃ちをしたのだ。ロニーは姿を隠そうとする魂胆だが、それは同時に輪廻にとっても、チャンスである。
”隠密”で輪廻の気配を隠し、ロニーは輪廻を見失う。
「あ!? 何処に……」
「ここだ」
輪廻は既にロニーの死角に潜り込んでおり、気付いたロニーは次の手を打とうとするが、もう遅かった。
「Aランクはこんなものか?」
「な……ぐぃえっ!?」
下から腹を”重脚”で蹴られて上に三メートルほど浮き上がる。それで脇腹が何本か骨折したが、それで終わらずに”空歩”でロニーに向かう。
『り、リンネ選手が、空を蹴った!? そのままロニー選手に向かっていき…………』
レディナは興奮したように解説をしていた。
輪廻は気にせずに、これで終わらせようと、トドメに踵落しをする構えになるが…………
「ま、まだだぁぁぁ!」
風魔法の華である”飛翔”が発動し、ロニーは浮力を得て、踵落しを避ける。
「ほう、まだやれるんだ?」
「ははっ、お前は強すぎんだろ……」
今のロニーは重傷で、なんとか意識を繋ぎ止めている状態だったので、大技で終わらせるつもりだ。
震える両手を前に出し、”地星”を発動した。”地星”は大きな岩を隕石のように落とす魔法だが、逃げ道がない石畳の上に落とされては避けきれない。ロニーは上空にいるから巻き込まれる心配はない。
「さぁ、どうする!!」
「大きいな……」
その”地星”は四メートルぐらいはある。それが上空から落ちてきてクレーターを作りそうな勢いだ。
(”重壁”では防げないし、”重脚”だと大きすぎるから蹴り飛ばすのはムリそうだな)
方法は二つある。一つ目は”空歩”で空へ逃げる。だが、輪廻は迎え撃つつもりだったので、却下する。
なら、もう一つの方法は…………
「”居絶”」
この大会で初めて紅姫を使う。五メートルの範囲に入った瞬間に、魔力の刃が”地星”を切り裂く。
「”地星”が!?」
『うおっ! ロニー選手が大きな岩を落としたが、リンネ選手はそれを切り裂いた!?』
”地星”は真っ二つに切り裂かれ、輪廻の横に落ちた。唖然となっているロニーに近付き…………
「”居絶”」
「しまっ……!」
隙を見せてしまったロニーは”居絶”を避けきれず、首を落とされた。
空中に浮いていたロニーはそのまま落ちて消えた。
『お、おおおっ!! リンネ選手がロニー選手の首を落として決着を付けました!! 進出となったのはリンネ選手になりました。皆さん、拍手を!!』
いい試合だったのか、観客席からぱちぱちと拍手をしてくれる。
石畳の外側には、倒れているロニーの姿があった。
「はぁ、負けたか……」
「手数は多かったけど、最後に出した魔法が俺に対しては切り札になりえなかったのが敗因だったね」
「まさか、あれを斬るとは誰も思わねぇよ」
ロニーは負けたが、いい勝負が出来たからなのか、笑っていた。
「次は負けないぞ」
「そりゃ、無理だね。次も俺が勝つからな」
「くくっ、可愛くねえな。それに、使っていた魔法が気になるんだが……」
「秘密だ」
「やっぱりね……」
別に魔法の名前ぐらいは教えてもいいが、今は大会の最中なので、それは勘弁してもらう。
お互いは握手をして、観客席に戻っていく。
「おめでとう!!」
「さすが、私の御主人様ですね」
観客席に向かうと、予想していた通りに2人が寄ってきた。
「ありがとうな。次はテミアだが、油断はするなよ?」
「はい。私の相手はSランクのペッタンコ娘ですからね」
「こ、声が大きいよ……」
シエルが窘めるが、周りの観客達に聞こえていたようで…………
「おいおい、Sランクの相手にそんな口を……」「ペッタンコ娘……ぷぅっ」「あのメイドは楽に死ねないな……」「くわばらくわばら……」
そのように、観客達が伝染していき、エリス本人まで伝わってしまい、こっちを睨んでいた。だが、テミアはさらに、火に油を注ぐような真似をしてしまう。
「……フッ」
「……っ!?」
テミアはわざと胸を張って、見せ付ける。さらに、エリスの胸を見て笑っていた。
エリスは胸がないことを気にしているのか、怒りが増幅しているように見えた。
「テミアの毒舌は平常運転しているなー」
「あははっ……」
そんなやり取りがあったが、観客席で闘いとはならずに、テミアとエリスは闘技場の中心に立つ。
『次の試合は、予選で残虐さを見せたテミア選手! 主であるリンネ選手以外に止める者は現れるのか!? その相手をするのが、この大会でたった1人だけのSランクである、エリス選手!! 予選では、凄まじい技で三秒も掛けずに進出を決めた魔術師。この試合では、何を見せてくれるのか!?』
レディナはノリノリで審判と解説役をこなしていく。その間、テミアとエリスは…………
「貴女は楽に死なさせない……」
「おや? 口では勝てないから力ずくで抑えようとするなんて、見下げた女性ですね」
「どの口がっ……! 貴女こそ、予選では酷かったじゃない……」
「あらあら、その程度で酷いとは言わないわよ? 死なないんだから、私に歯向かった罰が苦しませるしか出来ないでしょう?」
「ゲスが……、あの主はまだ子供じゃない。あんな子供がゲスを連れているならあの子供もゲスってわけね…………っ!?」
急に殺気を向けられて、エリスは構えてしまう。テミアはまだ殺気を出しただけで、動いてもない。
「黙りなさい。御主人様を馬鹿にするなら地獄が生温い程の苦悶を教えてあげますよ?」
テミアのわかりやすい殺気に、周りの観客が身体を震わせて、怯える。
「……成る程ね。ただのゲスってわけじゃないわね。とりあえず、主を馬鹿にしたことは謝罪しておくわ。ただ、貴女には謝らないけどね」
エリスは得物である杖をクルクルと回し、テミアに向ける。
『あわあわ……、既に一触即発になっています!! レ、レッツ、スタートぉぉぉぉぉ!!』
今、二試合目が始まるゴングが鳴ったのだった…………




