第三十九話 武闘会の予選
次の日、輪廻達はアルト樹の傍にある闘技場にいた。
武闘会はたまたま貼紙を見た翌日だったので、貼紙に気付いた輪廻は運が良かった。アルト樹で受付をしていた運営の人に武闘会のことを聞き、ルールはこうなっている。
・参加条件:C〜Sランクまで
・石畳の上で闘う。石畳の外側に押し出されたら敗北になる。
・会場には、結界が張られており、結界の中で傷付いたり、死んでしまっても、石畳の外側で傷が癒え、復活する。
・参加者が多い場合は、八つのグループに分けて、バトルロイヤルをして、それぞれのグループで生き残った者がトーナメント戦に参加することが出来る。
「思ったより多いな」
「エルフも沢山いますね。どれも年増ですが、年増エルフよりは若いですね」
「どうせ、私は二十代よっ!! ピチピチの肌……、恨めしいわ……!!」
テミアは”鑑定”でステータスを見ていたため、殆どのエルフは100歳を超えているのがわかっていたが、シエルより下で十代が多かった。
シエルは親の敵を見るような目で恨めしそうにエルフ達を見ていた。
どうやら、シエルは歳のことを気にしていたようだ。このままでは、殺気が漏れ出そうなので、輪廻は宥めることにする。
「2人とも、綺麗だから気にしなくてもいいんだよ。隅々まで見たことがある俺が言うんだ。ねっ?」
「し、少年!? あ、ありがとう……」
「御主人様から褒めていただき、恐悦至極にございます」
褒める時は、一緒に褒めた方が摩擦は少ないと判断し、2人同時に褒めたのだった。
隅々とは、夜のことを言っており、シエルは顔を赤くしていた。シエルは俯きながらも、テミアはメイドの鏡と言えるお辞儀をしてお礼を言っていた。
殺気は出なかったが、桃色空間が出てしまい、周りにいる男性陣からは嫉妬、怨念の視線を輪廻に向けていた。女性陣は「あんな小さな子供が2人を!?」と驚かれたようだ。
「とりあえず、受付は昨日の内に終わらせてあるから、組み合わせがそろそろ発表されるはずなんだが…………」
「あ、あそこにエルフの王がいるわ」
「ん?」
アルト樹の前にある大きくて立派な館、あれはエルフの王が住んでいる場所らしい。ティミネス国の王城は堅牢なイメージがあったが、目の前の館は後ろにあるアルト樹と調和していて、自然を感じられた。
その館を背に、闘技場で台のような場所にエルフの王と親衛隊が現れた。
「皆、良く来てくれました。知っている者が多いかもしれませんが、自己紹介して置こうと思います。私の名は、ジェネス・ラウドで、ここの王をやっています。
武闘会の歴史はまだ六回目になる短さだが、沢山の人々が来て下さって、嬉しく思います!
私が開催する武闘会を始めよう!!」
ジェネス・ラウドと名乗った者は、白く長い髭が特徴になるだろう。まさに、長老! と言ったような雰囲気を持っていた。ステータスを確認しようとしたが、隠すスキルを持っているようで、全く見れなかった。
(あの長老みたいなエルフはやるな……)
ステータスは見れなかったが、立ち振る舞いと雰囲気から強者だと判断した。
ラウドが親衛隊に指示を出し、魔道具を発動するのが見えた。
「これが、グループ分けになります。A〜Hと順に予選を始める。Aグループに入った者は石畳の上に立ったままに居て、他は観客席に向かうように」
魔道具により、登録していた名前が浮かんでいる。それらがA〜Hグループに別れていて、輪廻はBグループにあった。
全員は戦いの場になる石畳の上に立っており、Aグループは残って他のグループは観客がいる観客席に向かうようにと指示があった。
石畳は上から見ると、綺麗に丸の形になっている。参加者は全てで144人はいる。
全員が冒険者であり、Cランク以上の猛者ばかりなのだ。
その人達が8グループに分かれて、18人が戦い合う。
「全員がバラバラになったのは良かったな」
「はい。御主人様はBグループで、私はFグループですね」
「私はHグループだったわ。とりあえず、トーナメント戦に出れるように頑張らないと」
見事に、皆はバラバラになっており、勝ち残れば、全員がトーナメント戦に進める。
予選が始まるので、3人は観客席に向かって行く。
「では、Aグループの予選を始めよう。後は、審判に任せます」
『任されましたー!! 私はラウド様から審判を指名して頂いたレディナと言うね!!』
レディナはエルフではなく、兎の獣人である。ピンと立った可愛らしいウサミミがチャームポイントになっている。
レディナは解説席に座り、マイクと言う、音を増幅させる魔道具で戦況を観客達に説明する役割もあるようだ。
『ではっ、第六回の武闘会、Aグループの予選を始めます!! レッツ、スタートォォォォォッ!!』
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予選が終わり、結果は輪廻とテミアだけトーナメント戦に出ることになった。シエルだけは残念ながら、Sランクの強者が混ざっていて、負けてしまったのだ。
「うぅっ…………」
「残念エルフ、さっきの負け方はないと思いますよ?」
「うぅ〜〜〜〜、わ、私だってわかっているのよ……、でもあの技を出されたらそうなるのも仕方がないでしょ!!」
シエルは逆ギレになりつつだった。確かに、あのようにされてしまっては、闇魔法をここで使えないシエルは何も出来ないだろう。
シエルがいるHグループでは、Sランクが1人いて、大量の水を発動して結界内にいる17人を外まで追い出されてあっという間に決まったのだ。
Sランクであるその女性は足元から大量の水を高い壁のように波を作り出して、女性の周りにいる17人を波に飲み込まれて、外側まで押し出されていた。シンプルだが、大量の水を使われたら、魔法を使わない限り、防ぐのは無理だろう。
「あんな水の壁は斬ればいいだけです」
「そんなことが出来るのはメイドだけだよ!?」
…………うん、テミアだったら剣一本はあれば何とか出来そうだな…………。
まだ漫才が続いているが、放って先程の戦いを思い出していた。
シエルは残念だったが、テミアは見事に勝ち残った。だが、子供には見せられないような悲惨な戦況になっていた。解説席にいるレディナも顔を青ざめて声が出なかったぐらいだった。
何せ、テミアの相手をした選手の全員が…………
手足がないダルマになっているのだから。
手足を斬られただけで死ねなかった選手は、立っているのがテミアだけになるまで放っておかれたのだ。
今回の結界は、傷がついても外側に出るか死ねば、外側で復活する仕様になっている。だが、テミアがしたように、ダルマにして外側へ逃げられなく、急所を外しているから死ぬには死ねない状態にしたら、傷は癒えないし、復活もしない。
そんな生き地獄に皆は絶句していた。さらに、ダルマにされて残されてしまった選手は「殺してくれ……」と願う姿があり、ホラーのようだった。
結局、残ったのがテミアと手足がない選手で、ようやく悲惨な戦況が終わると思って、観客達は安堵していたが、テミアは動かなかった。
観客達は何故、トドメを刺さないの!? と騒いでいて、まだ顔を青ざめているレディナがテミアに聞いてみた。
『あ、あの……、テミア選手? トドメを刺さないのですか? もう見ていられないのですが……』
「えっ、血が足りなくなって死ぬまで放って置こうと思いまして……」
『貴女は鬼ですか!?』
なんか雲行きが怪しくなりそうなので、そこで輪廻がすぐに終わらせろと、介入したから全員の首を飛ばして、テミアがトーナメント進出することになった。
予選が終わった後に、テミアと一緒のグループではなくて良かったと言う声が多かった。テミアと戦った者はテミアの顔を見ると、ひぃっ! と声を上げて逃げ出す人もいた。
というような結果があったのだ。輪廻はどうしたのかと言われると、テミアのようにインパクトのある試合をしたわけでもないのだ。
輪廻は敏捷の高さを上手く使って、敵の後ろに回り込んで、首にナイフを刺すのを繰り返すだけ。重力魔法も紅姫を使わずに勝ち残った。BグループはC、Bランクだけだったようで、そんなに強い相手はいなかったから楽でつまらないものだった。
だが、トーナメント戦は強い者が勝ち残っているのだから、そっちを楽しみにしている。
『ハイハイ!! これで予選は終わりました!! あるグループを除いて、いい戦いだと思いました。トーナメントではどんな戦いを見せてくれるのか、楽しみにしておりますっ! では、トーナメントの組み合わせをくじをして決めましたので、苦情は受け付けません!!』
また魔道具で文字が浮かび上がる。トーナメントの組み合わせはこうなった。
第一試合 リンネ(B)vsロニー(D)
第二試合 テミア(F)vsエリス(H)
第三試合 ディクリュ(G)vsタオ(A)
第四試合 ネミア(C)vsセイバ(E)
輪廻は受付の時、リンネと登録してある。そのリンネは第一試合になっており、テミアは第二試合で、相手はあのSランクの女性だった。
「負けていて良かったぁぁぁ!!」
「チッ」
もし、シエルが勝ち残っていたら、テミアと闘うことになっていたのだ。あんな悲惨な試合を見た後では、テミアと戦いたいとは思えなかっただろう。
テミアの舌打ちからにして、シエルが出ていたらさっきより酷いモノになるのは予測出来るから、シエルは負けて良かったと思っているのだ。
もし、輪廻とテミアが勝ち残ったら次はお互いが闘うことになる。輪廻はテミアにどのくらい通用するか楽しみにしている。
そして、トーナメント戦が始まると解説席から声が上がったのだった…………




