第三十四話 ダークエルフの廃村
輪廻達は『幻惑の森』で魔物と戦っていた。その魔物は植物であり、肉を好むハエトリ草のような化け物が行き先を塞いでいた。
「蔓がウザったいな!!」
「蔓が多いけど、本体は3体!」
植物だから、シエルの”魔炎弾”が本体に当たれば簡単に倒せるが、周りが炎の海になってしまうのは避けたい。
周りは木や蔓だらけで、炎を使ったらあっという間に燃え広がってしまうだろう。
輪廻は”重圧”でハエトリ草の化け物を止めようとするが、動きを止めたのは本体だけで蔓は変わらないスピードで動いて来る。
”重圧”は範囲ではなく、指定によって重さを増やしたり、減らしたりするのだ。指定出来たのは本体だけ。つまり、一度に3体までしか指定出来ないのだ。
蔓は地面から生えており、本体が”重圧”の効果を受け付けているのに、蔓には何も受け付けてないことから、本体と繋がっていないのがわかる。
「”縮星”、俺が蔓を止めるからテミアとシエルは本体をやれ」
”縮星”で蔓の動きを止め、本体への道を作りだし、そこにテミアとシエルが突っ込む。
「苦しんで死になさいな」
テミアは瘴気を2体のハエトリ草に穴と言う全ての穴から入り込む。
ハエトリ草は毒が効いたのか、身体が枯れていた。
「へぇ、瘴気は植物でも効くんだ? ”魔法付加・雷”」
矢に雷を付加し、まだ動きを止めている最後のハエトリ草に撃ち出す。
一発でハエトリ草の頭? に当たり、パチパチと雷が鳴って電流が身体を焦がしていく。
これで3体のハエトリ草は死んで、輪廻が相手にしていた蔓も動かなくなった。
「お疲れ様。この蔓は生きている限り、常時発動する魔法みたいなものかな? それに、瘴気は植物にも効くんだな?」
「はい、説明が足りなかったようですね。私が操る毒はただの毒ではなく、魔力毒になります」
「魔力毒? 初めて聞く毒だな」
輪廻は暗殺関係で麻痺毒、睡眠毒等を扱うこともあったが、魔力毒とは聞いたことがなかった。前の世界には魔力が無かったから知らないのは当たり前だが、王城にいた時に図書室で毒のことも勉強していたが、魔力毒のことは出てなかった。
「前に魔界特有の毒と話しました。だけど、魔界特有の毒にも色々あります。それがたまたまこの世界では周知になっていない毒だったということです」
「成る程。この世界ではまだ見付かっていない毒か」
「はい。魔力毒は魔力を持つ者なら効きます。生き物、植物、無機物でも……」
「だけど、魔力を持たない者には効かないと?」
「そうです。相手によって使い分けます」
生き物、植物、無機物でも魔力を持っていれば、殺せると言う。魔力を持つ無機物はゴーレムなどで、魔力で動く魔物もいるのだ。テミアの毒は魔力を蝕み、狂わせて身体の正常な維持が出来ない状態にする。
「ようやく私の故郷に着きました。ボロボロですが……」
『幻惑の森』の中を歩いて半日、ようやくダークエルフの廃村に着いた。ちなみに、シエルはダークエルフの姿に戻っている。もし、仲間に会えたらダークエルフの方が説明しやすいからだ。
シエルの言う通りにボロボロで地面が大きく刔れており、潰れた家が焦げていたりしていた。
「確かに、ボロボロですね。真っ黒なダークエルフの肌のように……」
「これを見てそう言えるメイドは鬼なの? 人で無し!!」
「私はそもそも、人間ではありませんし」
「そうだった!!」
2人がまた漫才を始めていたが、輪廻は廃村になった周りの様子を見ていた。
大きく刔れた地面は竜の爪跡で家が焦げているのは炎を吐いたのだろう。傷跡からで竜の姿が見えて来る。
(この大きさは10〜15メートルといったとこかな?)
あと、人間の方は剣の切り傷も残っていたが、もしかしたらダークエルフの方かもしれないから判断は出来なかった。
「シエル、『暴竜』はどんな武器を使っていた?」
「うえぇぇぇん……、ふぇっ、武器?」
テミアに虐められすぎて、シエルは涙目になっていた。だが、輪廻に声を掛けられるとすぐに涙は引っ込んだ。
「確か、背中に大剣があったわ」
「大剣か……」
今度、アルト・エルグのギルドに着いたら聞いて見ようと思う。もしかしたら、敵対するかもしれないのだから、情報は多い方がいい。
「ここに用はなかったよな? 邪神の社は何処にあるんだ」
「ここに入った入口の反対にあります」
「なら、向こうか?」
「はい、向こうから魔物が強くなりますので、ご注意を」
先程のハエトリ草の魔物は『幻惑の森』では弱い部類に入る。輪廻1人でも倒せる魔物だが、大量に出て来たら面倒な相手でもあった。
それより強い魔物が大量に出て来るなら、シエルでは1人で進めなかっただろう。
「疲れは残っていないし、先に進むか?」
「はい、家の中を調べたのですが、殆どは持って行かれたようです」
輪廻とシエルが話している間に、テミアは半壊しているが、中に入れる建物を調べていた。中は家具だけで、金目の物は殆ど持って行かれた後だった。ということで、疲れもないからここに残る理由がない。
「はい、おそらく『暴竜』は奥に進んでいないと思いますので、社は無事かと」
「まぁ、社が『幻惑の森』にあるなら無事だろうな」
竜に乗って空を飛んで帰ったなら、社は見つけてない可能性が高い。もし、探し回っていたら、森が無事に残っているとは思えない。
「よし、進むぞ…………いや、先に集まった魔物を倒さないとな」
「あら、大きな狼ですね」
「子分みたいにぞろぞろと出てきているよ。あれは魔水狼だわ」
「魔水狼?」
名前からにして、水を操る狼だとわかるが、どうやって水を? と思ったら…………
「水魔法です!」
「あー、水魔法を使うわけか」
単なる水を口から放射すると思ったら、魔力を感じたので、水魔法を使えるとわかった。
前方から打ち出された水魔法は、”重壁”で防ぎ、テミアが前に出る。
「犬っころ、伏せっ!」
大包丁剣を刃ではない横の腹で叩き潰す。魔水狼は、潰れたが、かじろうとして、伏せ状態になっているのを見取れた。
これがテミアによる犬っころにする躾だ。躾を一回するだけで死んでしまうが。
「チンチンっ!」
今度は顎を蹴りでアッパー気味に打ち上げる。ただ、力加減をしており、顎を粉砕したが、吹き飛ばされずにチンチンをしているような形になった。それは一瞬だけで、すぐに倒れたが…………
「テミアにはペットの世話を任せない方がいいかもな……」
「動物虐待にしか見えない……」
テミアがする狼への扱いを見て、ペットを飼うようになっても世話は任せないと心に決めるのだった。
口でそう言いながら、輪廻も狼の視線がテミアに集まっている時、”隠密”で魔水狼の死角へ潜り、普通のナイフで首を斬る。
耐性が低いから普通のナイフでも斬れる。
「次に大きいのを……って、テミアがもう終わらせたのかよ」
ボスの魔水狼は既にテミアが頭をかち割り、事切れていた。仕方がないので、残った子分達を狙った。
「シエル、こいつらはハエトリ草の実力と同じぐらいか?」
「はい。奥にいる魔物はそんなに弱くはありません」
魔水狼のランクはDであり、水魔法は当たっても一撃で死なないからランクが低いようだ。なら、奥にいる魔物はAかBランクの魔物だと輪廻は予測する。
「まぁ、全て倒したし、もう行くぞ」
「はい」
「うわぁ、メイドが戦った狼は殆ど潰れている……」
テミアはその後も『伏せ』を連発しており、高いところから落ちたように、ぺしゃんこになっていた。
「外だからいいけど、ダンジョンではそれをやるなよ。魔石ごと壊してしまいそうだからな……」
「畏まりました」
「外はいいんですか……」
またぺしゃんこになる魔物を見ることになるのかと、溜息を吐きたくなるシエルだった。
テミアは元から物騒だからいいけど、輪廻も他の人と比べて、何処かズレているなと思うのだった。
その後もDランクの魔物が現れたが、3人の相手にならず、社への道を進んで行く。