第三十話 輪廻の行方
勇者のターン。
輪廻達は宿から引き取り、ティミネス国の反対になるラディソム国の北門から出た頃…………
「ここがラディソム国か〜。ティミネス国より人が多いな!」
「輪廻君、いるかな……?」
南門には、勇者パーティが揃っていた。皆のレベルが8に上がっている。 ゲイルもステータスが上がったのを確認し、ラディソム国へ行っても大丈夫だと判断し、ようやくラディソム国に着いたとこなのだ。
「まず、情報を集めるか?」
「そうね、情報を集めるならギルドが一番いいわね」
「そうだな。ギルドに向かうが、人が多いから迷子になるなよ?」
もし、迷子になってしまったら南口に集まるように指示を出し、ギルドへ向かう。
しばらく歩くと、ギルドに着いた英二達。英二はギルドの向かい側にある建物の一部が壊れていることが気になった。
「あれ、あそこの一部が壊れている?」
「おそらく、酔った冒険者が壊したか、私闘で壊れたのどちらだろうな」
ゲイルは前に冒険者をやっていたこともあり、冒険者について詳しい。ギルドの近くで、ギルド内には酒場もあるからそう推測したのだ。
「それよりも、輪廻君のことを聞かないと!」
「絢、慌てないの。ちゃんと聞いてくるから〜」
晴海が絢を落ち着かせてから、たまたま空いていた受付にいた受付嬢に話しかける。
「すみません。聞きたいことがあるのですが、いいですか?」
「はい。何を聞きたいのですか?」
その受付嬢は、ディアだった。
「ここに輪廻と言う少年はいる?」
ただ、いる? と質問しただけなのに、ディアに溜息をつかれた。
「はぁ……、またですか。輪廻様は新しい人をパーティに組まないと言っておりますので、諦めてください」
「え?」
話が食い違っていて、晴海は呆気を取られる。
「パーティ……って、何のこと?」
「あら、パーティに入れてほしいと言う人が輪廻様の居場所を聞きに来てばかりで、ウンザリしていたのですが、もしかして違いました?」
「違うわよ。って、何でそんなことに…………「ギルド長を呼んでくれ」」
輪廻がまた何かしたのか、気になったが、ゲイルが話を切り、ギルド長を呼ぶように頼んだ。
こういう時はギルド長などの偉い人に通した方が早い。
「……え、ゲイル様ですか!?」
「そうだ。すまないが、ギルド長、ダガンの奴を呼んでくれ」
「は、はい。お待ち下さい!!」
ディアは慌ててギルド長を呼びに行った。
「どうやら、輪廻は冒険者の間で有名になっているみたいだから、ギルド長に纏めて聞いた方が早い」
「有名に……?」
晴海がディアと話している時に、冒険者からある程度のことを聞いたようだ。
しばらく待つと、ダガンが現れ、ゲイルを見るとガハハッ! と笑いながら挨拶してくる。
「久しぶりじゃねぇか! 三年だったか?」
「ああ。隊長になったからおいそれとティミネス国から出られなくなったからな」
ゲイルは三年前に隊長に昇格しており、なかなか他の国まで足を運ぶことはなくなった。
「……で、お前がここにいるのは、後ろの子供達に関係することだな? それに、ディアに聞いたが、輪廻のことを知っているらしいな。よし、話が長くなりそうだから、ギルド長室に来い」
英二達はギルド長室まで案内されて、全員がソファに腰を掛ける。
まず、ゲイルが英二達と輪廻の関係から話すことになった…………
「っは! まさか、お前らが召喚された奴か。しかも、輪廻もそうなのか!!」
「ああ、ロレック様が期待されていた1人でもある」
「それが、黙ってメイドと一緒に城を抜け出して旅に出たわけか」
「あ、あの! 輪廻君は何処にいるか知りませんか!?」
絢は早く輪廻の居場所を聞きたかった。だが…………
「すまない、今日にラディソム国を出るとしか聞いていないんだ」
「えっ!!」
「今日に? 何処に向かっているかはわかりませんか?」
何処に向かっているかわかれば、追い掛けられる。しかし、現実はそう簡単には進まない。
「ワシも聞いたが、答えてくれなかった。期待の新人をみすみすと逃したくはなかったが、束縛を嫌うように見えたからな。しかし、お前達は何故、追い掛ける?」
「それは、旅が危険だから連れ戻そうと……」
「それは止めとけ。輪廻の奴がお前達に言われたとしても素直に戻るとは思えん」
「そんな、どうして……?」
絢はさらに落ち込んでしまう。
「やっぱりな。輪廻は旅をしたいのに、俺達が追い掛けて連れ戻そうとしたら無視されるか、敵と認識されそうだな」
貴一がそんなことを言う。英二がその言葉を聞き、注意をする。
「おい、敵と認識されるまでは言うなよ。輪廻とは友達だろ?」
「う〜ん、ゲイルさんはどう思いますか?」
「さすがに、注意しただけなら攻撃されるとは思えないが、強制的に連れ戻そうとしたら輪廻は抵抗するだろうな」
ゲイルは貴一のように直線的な意見じゃないが、条件によっては敵対されてしまう可能性があると言い切った。
「ガハハッ! あの輪廻なら有り得るな。このワシに殺気を向けたんだからな!」
「殺気を……?」
「え、なんで? 輪廻君と何があったの?」
輪廻が殺気をダガンに向けたと聞いて、何があったのか? と疑問が出た。
「次に、ワシが輪廻と会った時のことを話そうか」
ダガンが話を始める。輪廻達がまだEランクの時、100個の魔石を持ってきた。輪廻達をギルド長室に呼び、ダガンが輪廻を試すために護衛の人を嗾かけたり、依頼を頼んだり等を話した。
「成る程な。輪廻はもうやったんだな。いや、テミアもか」
「ああ。ではないと、あの殺気は出せないからな」
「何をですか? 話が見えないのですが……」
英二はゲイルとダガンの話が理解出来なかった。
「まさか、輪廻がそこまでやったと?」
貴一だけはわかったようで、2人に聞いていた。絢と晴海も英二のようにわからないままだった。
「……はぁ、こういう話はお前達が強くなってから話そうと思ったが、タイミング的には今がいいみたいだな」
「ここはそういう世界だと、早めに教えてやった方がいいぞ。ではないと、死ぬからな」
2人の話す内容から、いい話ではないのはわかる。だが、いつか解ることで、早めに知った方がいいことなのだ。
「言うぞ。輪廻は、殺人の経験がある可能性が高い」
「……は?」
「えっ?」
「嘘……」
「やっぱりそうなのか……」
やっぱり、この話は衝撃が大きかったようだ。
「ワシが受けた殺気は、1人を殺しただけでは足りないぐらいだ。おそらく、命が軽いと言えるほどに沢山殺しているだろうな」
「う、嘘よ!! 殺気を出しただけで、そんなことがわかるわけじゃない!!」
絢は信じられないと、喚いている。王城での輪廻を知っている絢には、信じられないことだ。
「……ねぇ、貴一。貴方は何故、やっぱりだと思ったの?」
「あー、輪廻は頭が良いからこの世界を理解していると思ったからな」
「この世界を?」
貴一の言っている意味を掴めず、再度聞く。
「だから、この世界は命が軽いんだよ。俺達も魔物を殺しているんだぞ。魔物も人間を殺すし、人間が人間を殺すなんて、珍しくはないと思ったんだよ」
「人間が人間を殺す……」
「ああ。ここは剣や魔法が普通にあるんだし、もし盗賊などが現れたらどうするんだ?」
「そ、それは捕まえるんだ!!」
答えたのは英二だった。だが、貴一は違った。
「馬鹿か? もし相手が魔法を使えたらロープなどで縛っても抜け出せるし、短剣を隠し持っていたら? 捕まえようとしても、向こうは殺しに来ている。簡単に捕まえられるとは思えない」
「…………」
確かに、向こうが殺しに掛かってきたなら捕縛なんて、実力に大きな差がないと出来ないことだ。
「ふむ、1人だけこの世界をよくわかっているな。3人は、このままでは、いつか死ぬぞ? まぁ、殺人はこの世界では駄目なことだと決められている……」
「っ、なら……」
「だが、正当防衛ならそれは認められる」
「…………」
「他にも、集団戦などで全滅から逃れるために仲間を囮にすることもある。…………で、魔物は殺せるのはいいが、魔人となると人間に近い形をしており、言葉も話せる。それをお前達は殺せるのか?」
貴一以外は口を閉ざして黙ってしまう。
「あー、話が変わるけど、輪廻はどれくらい強くなっているかわかる?」
「今はBランクになっているが、実力はそれ以上だとワシは睨んでいる」
「Bランク……」
「ほぅ、早いな」
ゲイルは感心していた。さらに、昨日に起こったことも話したら…………
「え、キングゴブリン討伐を3人だけで? しかも、無傷で2000体以上も倒した!?」
「なんと、そこまで……?」
次は貴一も加わって、ゲイルも驚愕の顔に変わっていった。3人はさらに、落ち込んでいた。殺しのこともそうだが、実力の開きが大きくなっていたことにもショックを受けていた。
特に、絢は強くなって一緒にいたいと思っていたが、今のままでは足手まといだと理解してさらに落ち込む。
「殺しは……わからないけど、そんなに強くなっているのは嫉妬しちゃうな……」
「……うん」
絢は輪廻にではなく、一緒にいるテミアと、新たに加わったエルフのシエルに嫉妬していた。二人は輪廻に実力を認められて、一緒にいると思い、嫉妬の炎が大きくなる。
「というわけで、輪廻の後を追い掛けるのは止めとけ。覚悟がない奴が追い掛けても無駄死するだけで、輪廻達は充分強いし、連れ戻す理由がなくなっただろ?」
そう、旅は危険だから連れ戻そうと旅に出ているのだ。だが、蓋を開けて見れば、輪廻達は短い間で、Bランクになっており、2000体の魔物相手に無傷で勝っているのだ。
それは理解している。だが、絢はそれだけで輪廻を追い掛けて旅に出たわけでもない。
「……い、嫌よ! 私は輪廻君と一緒にいたいから追い掛けるの!!」
絢はハッキリと答える。
「強くなって、輪廻君と肩を並べたいの!!」
「ほぅ、輪廻は殺人を経験している。それでも追い掛けると?」
「正直に言って、私には人を殺す覚悟は……わかりません。だけど、このまま何もしないのは嫌なのっ!!」
「ふむ……」
絢の覚悟を感じ取ったのか、英二と晴海も動く。
「……僕も弱いままでいたくない」
「私は絢を助けると決めているし、私だけが抜けるのは無しよ」
「ハハッ! 俺は輪廻が殺しを経験していようが、どうでもいいことだ。いつか、俺も殺しを経験することになるんだし、輪廻と一緒の方が面白そうだから、追い掛けるぜ!!」
4人の話を聞き、ゲイルはダガンに頼み込む。
「お願いがあります。元SSランクだったダガンに鍛えて欲しい」
「え、ダガンさんは元SSランクなのか!?」
「そうだ。引退してから、実力は少し下がっているが、まだ若い奴らには負けん! で、鍛えさせたければ、『奈落の穴』で地下40階を越えたら言ってこい」
まず、地下40階を越えられる程度の潜在能力があるか見たい。あまり強くなれないなら、育てても無駄だと考えているからだ。
輪廻の行き先がわからない今、勇者パーティはラディソム国に留まり、強くなることに決めたのだった…………




