第二十六話 魔鼠の群れ
読者の皆様に質問です。
数字のことですが、人を数える時、数字は普通の数字と漢数字のどちらが読みやすいですか?
普通の数字
例:1人、2人、3人、100人、153人、1000人、1530人…………
漢数字
例:一人、二人、三人、百人、百五十三人、千人、千五百三十人…………
教えてくれるとありがたいです。
武器屋を出てから、シエルが声を掛けてきた。
「あの、何故この武器を?」
”鑑定”を持っていないシエルには、紅姫は他のナイフより短くて、切れ味が良さそうには見えなかったのだ。
「ん、ああ……。シエルは”鑑定”を持っていなかったか。これは魔剣だ」
「えぇっ!?」
魔剣と言われて驚いたようだ。銀貨30枚で買ったから、魔剣だと思わなかったかもしれない。
「効果は……、まぁ、ダンジョンに行く前に試さないとな。森に着いたら見せて上げるよ」
「はぁ……、これが魔剣ですか……」
「立派な物には見えないからその気持ちはわかるけどね」
普段のナイフより短くて、切れ味が良さそうには見えない。見た目は綺麗な赤の模様が入っているが、実用的には見えない。他の人なら魔剣だと知らなかったら買おうとは思わないだろう。
森の中で魔剣の効果を試すことにする。
「テミア、今は人がいないけど、一応瘴気で周りを警戒しといて」
「畏まりました」
出来るだけこのナイフが魔剣だと知られないように、シエルに周りを警戒してもらう。
(ふむ、魔力の刃を作れると説明文に書いてあったが、魔法を使う感じでやればいいのか?)
魔力を紅姫に込めてみる。そうすると、紅姫の刃から薄い透明な刃が現れた。
「ほぅ。これが魔力の刃か」
「これは……、確かに魔剣の類ですね」
魔力の刃を最大五メートルまで伸ばすイメージをすると、一瞬とまでは言わないが、凄い勢いで伸びた。
「よし、重さは変わらないな。試しに木を斬ってみるか」
五メートルから一メートルぐらいの長さにして、木に向けて振る。
「はぁっ!」
スパッと紅姫を横から切ると、豆腐を切ったような感じに木を簡単に斬れたのだ。
(おや、斬った感覚が少なかったな?)
思ったよりの切れ味に驚き、次は伸縮による突きも試す。
「伸びろ!」
本来なら言葉を発する必要はないが、ノリで声を出して木に向けていた紅姫に魔力を込め、魔力の刃が木を突き刺した。
「突きも問題はないな」
「さすが、御主人様です。私もペットに向けて試してみたいですね」
「私が死んじゃうよ!?」
「あら、ペットしか言っていないのに、貴女にその自覚が……? ペットだと自分で認めるなんて淫乱なエルフですね!!」
「わ、私はペットじゃないし、淫乱でもないわ!! もうペットのネタは止めてよ!!」
「ははっ……」
漫才みたいなこともあったが、とりあえず紅姫の検証は終わったので、ダンジョンの地下20階に向かうことに…………
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ここは扉の前。中ボスは魔鼠だと聞いており、他の魔鼠の中に混じる中ボスを倒さなければ、魔石を手に入らない。
「時間を無駄にしたくないから全員で攻めるぞ」
地下20階の中ボスは経験値が物凄く少ないから、輪廻が1人だけでやる理由がない。なので、ここは全員で攻めることに。
扉を開けると、大量の魔法陣が出てきて、次々と魔鼠が現れる。
(モンスターハウスみたいだな! 思ったより小さいな)
魔鼠の大きさは30〜40センチ程度しかなかった。魔鼠は噛み付きしかしてこないという情報もあり、脅威ではない。
輪廻はまず、集まっている場所に向けて”縮星”を放つ。
「「「キュキュッ!?」」」
十数匹が”縮星”に捕まって動けなくなる。
「”魔牢”!」
シエルもまず動きを止めてから倒していくようだ。牢のような闇魔法が魔鼠が逃げられないように閉じ込める。
テミアは2人の魔法から漏れた魔鼠を動き回りながら瘴気の毒で殺していく。
輪廻とシエルは続けて”縮星”と”魔牢”を使って魔鼠達を捕まえ…………
「ある程度は捕まえたか。シエル、トドメを頼むぞ!」
「任せて! ”魔炎弾”」
シエルの魔法の中で一番威力が高い魔法。”魔炎弾”で動けない魔鼠を纏めて消す。
”魔炎弾”は一メートルの大きさがある黒い火弾で、当たったら爆発を起こし、余波で高い熱も出る。余波を受けたらただの人間では、火傷程度では済まない。
それ程の魔法が撃ち込まれた。
ドバァァァァァァァァァンッ!!
爆発によって砂煙が漂うが、すぐに落ち着いて周りが見えるようになる。
「ありゃ、呆気なかったな?」
ポツンと魔石が一つだけ落ちているのが見えた。つまり、中ボスも倒せたということだ。
新しい武器を使うことはなく、簡単に魔石が手に入ったが、依頼品をすぐに手に入れたから良しとする。
「簡単に手に入るなら、しばらく中ボスを倒し続けるか?」
「はい。魔石一個で金貨1枚だったので金稼ぎをするのもいいと思います」
「そうだね、魔力はまだまだ残っているしね」
今みたいにやれば、簡単に魔石を手に入るとわかったので、さっき通った扉から戻る。
そして、地下20階の中ボスを相手に何回も挑戦をし…………
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ギルド長室にて。
ギルド長のダガン、受付嬢のディアと輪廻達がいる。今回は護衛の人はいない。
「……はぁ? 何と言った?」
「あれぇ、私は耳が遠くなったのかしら……?」
ダガンとディアは輪廻の言った言葉を空耳だと疑った。何せ…………
「だから、中ボスの魔石を18個手に入りましたよ?」
輪廻がとんでもないことをさらりと言っているのだから。
「…………はぁ!? 全てが魔鼠の魔石なのか!?」
「空耳じゃなかったのね……、あははっ……」
ダガンは驚愕し、ディアは乾いた笑い声を出していた。輪廻はそのまま話を続ける。
「では、依頼品を除いて、金貨17枚ですね。確認出来たらすぐに払って下さいよ?」
「どうやって手に入れたか聞きたいが…………、話さないだろうな?」
「当たり前でしょう。自分の手を晒すわけはないでしょう?」
「…………はぁ、わかったわい。ディア、ギルドカードをBランクにして、魔石の確認次第、金貨17枚持ってこい」
「は、はい!!」
ディアは輪廻とテミアにギルドカードを受け取り、魔石を持って慌てて扉の向こうへ消えた。
「驚くことをしてくれるな。あ、Bランクになったら特典が付くのも教えないと駄目だな」
「あれ、特典なんてあったのですか?」
「ああ。シエルも知っているからあとで聞いてもいいが、時間が出来たから説明しようと思うが、いいな?」
「はい。お願いします」
Bランク以上になれば、特典が付く。それぞれのランクによって特典が違うが、上になるほど、良い特典が付く。
Bランクはギルドの傘下に入る宿屋で泊まる時、ギルドカードを見せれば、半額で泊まれるのだ。
ギルドの傘下なのかは、店長に聞かないとわからないが、冒険者にとっては、半額になるのは嬉しいことだ。冒険者は金が入りやすいが、一番金が掛かる仕事でもある。
宿屋が半額になるだけでも、財布の助けになるのだ。
「へぇ、それはいい特典だな。まぁ、沢山稼いでいる冒険者には、物足りないと感じちゃうけどね」
「まぁ、そうだろうな。お前達の実力ならすぐにAランクに上がるだろうな。その後の予定は決まっているのか?」
「うーん、旅をしたいから明日、ダンジョンに潜ったら明後日にこの国を出るかな?」
「おや、ダンジョンをクリアするつもりはないのか?」
ダガンは、ダンジョンをクリアしたいためにここに来たと思っていたようだ。
「ここに来たのはレベル上げのためだからな。少し上げたら旅を続けるさ」
「そうなのか。期待新人が出ていくのは勿体ないが、冒険者は自由にやる仕事だからな」
実力がある者を引き止めたい気持ちがあったが、ダガンに引き止める権利はない。冒険者は自由にやる仕事なんだから、騎士や兵士と違って命令を出せないのだ。
しばらくすると、扉がバタン! と開いた。
「大変です!! キングゴブリンが2000体以上のゴブリンやホブゴブリンを連れており、近くのザミール村を潰されました!! 現在はこっちに向かっていると!」
慌てるディアの姿が現れ、その理由がわかった。
「何だと? ザミール村と言えば、ここから一日の距離しかないじゃないか!! 冒険者達に緊急召集を掛けろ!!」
「は、はい!! 輪廻様、これが金貨とギルドカードになります!」
輪廻に金貨とギルドカードを渡し、ディアはすぐに戻った。
「……すまないが、ザミール村は近くにある村でな、ホブゴブリンやゴブリン程度では問題はなかったが、Cランクのキングゴブリンが魔物を率いて現れたとなると緊急召集をしなければならない」
緊急召集を掛けられたら、Fランク以外の冒険者が全員出なければならなくなる。もちろん、輪廻達もBランクなのだから出る必要がある。
もし、拒否したらギルドカード剥奪となるから断れないのだ。
(むっ、またトラブルが起こるな……)
またトラブルに巻き込まれ、溜息を吐きたくなるが、経験値稼ぎが出来るからいいかと納得しておく。
「わかりました。俺達は自由にやらせてもらうがいいよな?」
「構わない。冒険者達は兵士のように纏めるわけでもないから、自由にやってくれ」
キングゴブリン達がここら辺に着くのは明日になるので、輪廻達は一度、宿に戻って休むことに…………