第二百一話 様々な世界その1
ティミネス王国で事件が起こっていた中、輪廻達は――――
氷の世界
ベルゼミアによって、氷の世界へ飛ばされたルフェア。この世界は魔界にある極寒の地で、生物1匹も生きてはいない場所。そんな場所へ飛ばされたルフェアは、1体の怪物と相対していた。
――――そして、苦戦していた。
「氷も打撃も効かない魔物がいるとは、そんな相手をぶつけるなんて、酷いとは思わないのぅ?」
「えぇ、思いませんわ。さっさと倒して下さいな」
分身体であるベルゼミアはルフェアの戦闘方法を知っており、その弱点を突くように、打撃と氷が全く効かない相手をぶつけていた。生物1体も生きられない場所に、ルフェアの敵になってくれる相手がいないと考えていたら、間違いだ。目の前にいる怪物は、生物と言ってもいいかわからない存在なのだからだ。
「こんなの、存在しているこそが驚きだ。再び、聞くが……魔物ではないよね?」
「ふふっ、この怪物は魔物ではないわ。この環境で生まれた……いえ、作られた存在。『グロム』を倒せないなら、強くなるなんて夢の夢よ」
ルフェアが相対している相手は、『グロム』と呼ばれている、軟体非生物であり、生物に見えるが、スライムやゴーレムに近い環境が生んだ怪物。
(柔らかい体により、打撃は無効。それなら、凍らせてから破壊するだが……、『氷結無効』持ちとは、珍しい組み合わせだな)
グロムはスライムのような体を持ち、軟体の体にしては珍しい『氷結無効』のスキル持ちだった。非生物と言われる理由は、そのグロム』体温を持つ生き物を襲って凍らせるだけで喰うためでもなく、殺す為に動いている訳でもない。ただ、体温があった場所へ動き、意志も無く体温を奪って凍らせているだけで殺気も感じさせないからだ。
「レベルは300と高いですが、攻撃はただ捕まえて凍らせるだけですので、簡単に倒せるのでしょう?」
「それは、打撃と『氷獄魔法』による攻撃を持たない私の嫌味?」
「ですから、それ以外の方法を生み出せばいいだけでしょう?」
ベルゼミアはそう言うが、ルフェアの武器はナックル系だけで剣や槍などは持っておらず、魔法は特異魔法『氷獄魔法』がある為、基本魔法を使えないのだ。その為、他の戦闘方法があれば、簡単に倒せるグロムの相手に苦戦しているのだ。
「なら、これでどう!? “氷神姫”、“氷之儀”!」
本気を出すことにしたルフェア、後のことを考えるより、目の前にいる怪物を倒さなければならないと。“氷之儀”で生み出した天氷狼は『氷結無効』を持つ相手でも、傷を付けることが出来る。
これで終わる筈だった――――
「なっ!?」
「残念でしたね」
天氷狼は天を貫く勢いでグロムへ向かったが、グロムへ接触する瞬間に、天氷狼が砕けてしまったのだ。
「貴方は『氷結無効』を無視することが出来る攻撃を持っている。だけど、それは相手より弱くては意味がありませんよ」
「まさか……、レベル?」
ルフェアは今まで生きてきて、自分よりレベルが高い魔物と戦ったことはない。だから、気付けなかった。『氷結無効』を無視することが出来ても、天氷狼は自分よりレベルが低い相手にしか通じないことを。
「貴方は、確かに強い。レベル、ステータス、魔法はね。でも、気付いてない」
「気付いていない?」
「そう。それに気付くことが出来れば、グロムなんて、簡単に倒せるわ」
ベルゼミアの言葉では、相手のレベルが高くても今のルフェアに勝てる可能性はある。だが、気付いてないことがあるから勝てないのだ。
「さぁ、気付くのでしょうか?」
―――――――――――――――――
武器の世界
武器の墓場と言える場所には、ウルがいた。ウルの相手は騎士の姿をしており、得物はウルと同じ槍だが――――
「クソ! ゲイボルグ! ゲイボルグ!」
「だから、ゲイボルグは貴方の手元にないわよ。この世界の何処かにあるから、探すの」
「テメー! 私のゲイボルグを返しやがれ!!」
「返して欲しいなら、この世界で見つけることです。そして、目の前にいる敵を倒しなさい」
ベルゼミアに怒鳴るウルだが、話に取り合ってくれず、目の前の騎士が攻撃を仕掛けて来るのを必死に避けている。
「く! ゲイボルグが使えなくても、覚醒魔法で! “武昇格”!!」
適当に掴んだ槍を“武昇格”で強くして、騎士へ攻撃をしようとするが――――
「アマイ」
「なっ、なんであっさりと壊せるんだよ!?」
“武昇格”で武器の格を上げており、強硬な武器になっているのに一手だけであっさりと破壊されたのだ。
「周りにある武器はある程度の強さはあるけど、『ギルス』が持っている槍は『武器破壊』の効果があるわよ?」
武器が使えないなら、素手で戦う手も考えたが……相手の技量を考えると危険だと判断した。
「相手を倒す前に、貴方の武器を見つけることが優先だと何回も言っているでしょう?」
「そういっても、アイツが待ってくれねぇだろ!?」
武器の世界は広い。そこにある大量の武器から1つの武器を見つけるなんて、難しいことだ。ゲイボルグの形を知っているウルであっても、似たような槍が所々に置いてあるからすぐ見つけるのは時間がかかると思っていた。
「気付きなさい。貴方は武器を使うのでしょう。でも、ゲイボルグとの絆はその程度ですか?」
「はぁっ!?」
「私から言えることは、気付きなさい。それだけです」
必死にギルスの攻撃を避けながら、ベルゼミアの言葉を聞くウルだが、その意味はわからないままだった。
「さぁ、気付くのでしょうか?」




