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第百九十九話 切り札




 大量のフリスピーから啓二達を守ったのは、啓二の後ろに隠れたままの彼方。


「貴方って、戦えたのね?」

「ひぃっ」

「……本当に貴方だよね?」


 防いだのは、彼方のはずだが……、クレアが声を掛けただけで、彼方は恐怖の表情を浮かべて、完全に啓二の後ろに隠れてしまったので、本当に彼方がやったのかと疑わしくなっているようだ。


「おらっ! もう終わったのだろ? なら、お前も戦闘に加われよ!」

「ひぃぃぃぃぃっ!」

「ケイたん、無理矢理は駄目だよ?」

「でも、今はこの彼方が一番強くなっている筈だから、少しは手伝って貰わないとね~」

「あら……貴方が一番?」


 クレアは今まで、啓二が一番高いステータスを持っていると思っていたが、裕美の言葉では、彼方が一番強いと言っていることから気になっているようだ。

 戦闘に参加させないなら、周りにいる召喚者みたいに、結界外で隠れていればいいのだが、彼方は結界内におり、戦う為にいるように思える。なのに、その本人は怯えており、全く戦闘出来る様には見えなかった。


「大丈夫だ! お前は俺らが守るから、攻撃だけをすればいい!! 時間も少ないから、覚悟を決めろ! ここに来る前にやめる選択も出来ただろ、戦うと決意したのは、自分だろ?」

「う、うぅぅっ……、うん、頑張るよ」

「……さっきの防いだのは驚いたけど、戦えるようには見えないけど?」

「ふん、戦ってから言えよ」

「ふぅん、なら、こっちも攻撃を――――っ!?」


 彼方が戦うことに覚悟を決めた瞬間に、クレアも眼を開く程の魔力が膨れ上がったのだ。




「じ、情報は念話で送ります。残りは15分ですぅ!」

「こっちも後15分だ。……よし、大体の情報はわかった!」


 彼方が言う残り15分はなんなのかはクレアにはわからないが、啓二の方は、自分を強化しているスキルの時間制限だとわかった。

 今は更に強くなっており、20分までに伸びていたのだ。だから、残りは15分。


「い、行きます! ふ、“フリスビー”!!」

「嘘!?」


 なんと、彼方がクレアの玩具魔法である、“フリスビー”を発動したのだ。その魔力から、クレアがいつも使っている“フリスビー”のと変わらない強さだとすぐわかり、呆気に取られていた。


「コピーのスキル? いや……」

「行け――!」

「はっ!!」


 クレアも“フリスビー”で対応し、撃墜していく。だが、彼方から放たれる“フリスビー”が全く減る事もなく、追加されるので硬着状態に入ってしまう。その撃ちあいでクレアはさっきも今のように、“フリスビー”を撃墜して守ったのを理解した。


「威力も完全に同じ……!」

「敵は1人だけじゃねぇぞ!」

「っ、邪魔を!」


 いくつか数を啓二にも向かわせるが、彼方も同じように動かして、啓二を守っていた。操作も完璧に出来ているようで、隙もあるようには見えなかった。それがクレアにはおかしく感じられていた。


(戦闘の経験はないじゃなかったの!? あるなら、蟲王の時に活躍していた筈――――!)


 “フリスビー”を操作するのは、簡単そうに見えても、大量の魔法を扱うのと同様に繊細な技術が必要になる。そう、経験がないと今のように咄嗟に啓二を守る事も出来ない筈だった。


「おらおらおらおら!!!!」

「っ!」


 クレアであっても、これだけの“フリスビー”を相手に撃墜しながら、啓二を相手にするのは骨が折れる。なんとか連撃を避けるクレアだったが、彼方が動いてからほんの10秒ぐらいで擦り傷程度だが、傷を付けることに成功していた。


「け、啓二さん! 直撃しても、油断はしないで下さい! “おままごと”で1日に3回分の致命傷を避けることが出来るので!!」

「何故、そんなことを貴方が知っているのよ!?」

「言ったろ、敵に教える余裕はこっちにはねぇよ!!」


 一度も見せたことも無い魔法をあっさりと見破られ、その内容も詳細に語られた。召喚者やパーティを組んで、短いゲイルは“おままごと”と言う魔法を見せたことはないが、魔王の部下と戦った時、“フリスビー”で同士討ちをした時に使っており、服ごと無傷で生き残った。その代わりに身体から人形が生まれてボロボロになったことがあり、それこそが、“おままごと”の効果だ。

 “おままごと”とは、両親2人、子供1人の設定になっており、その人形にダメージを移す能力であり、1日に3回だけ致命傷になるダメージを人形に移すことが出来るのだ。


「これは余裕を見せている場合ではないわね。“ピコピコハンマー”!」

「は、離れてください! “ピコピコハンマー”! 広がる衝撃を一点に集中して攻撃をするので、接近戦は危険です!」

「また!」


 “フリスビー”だけでは倒せないので、他の魔法武器を出すが、それも彼方も“ピコピコハンマー”を発動して、対応してきたことに驚きを隠せない。同じ魔法を使われるなら、『武神』の身体強化で高い筋力を持って叩き潰そうとしたが、受け止められてしまう。次に『神速』で啓二達を置き去りして、彼方の後ろを取ろうとするが……


「嘘……」

「ひぃぃぃぃぃっ! 怖いよぉぉぉ……」

「おい! また俺の後ろに隠れるんじゃねぇ!……と言いたい所だが、よく動けたな」


 クレアが彼方の後ろを取ったと思ったら、彼方も同時に動いており、一瞬の内に同じ『神速』を使って、離れていた啓二の後ろに隠れていたのだ。


「なんなの、貴方は? それだけ動けて、戦えていて無名なのが、信じられないのだけど?」

「ぷ~、教えないと言っているでしょ? でもね、あえて言うなら、ステータスはこの中で一番高くなっているだけと言ってあげる」


 それは先程に聞いたことだ。でも、少しの間だけで啓二より格段に強いと理解できた。ステータスを見ようと、『上級鑑定』を使うが……弾かれる。


「『上級鑑定』が弾かれたことから、少なくとも私より上。それか、全く同じ数値か……」

「うえっ!?」


 同じ数値と言った瞬間に、彼方が反応したことにクレアは見逃さなかった。


「まさか、私と全く同じステータス? 私の特異魔法である玩具魔法を使えていることから、私そのモノを再現した……」

「あわわわっ……」

「はぁっ、彼方は隠し事が下手だからね……」

「チッ、ばれたとしても、問題はねぇだろ? 行くぞ!!」


 啓二は彼方のスキルなら、ばれても問題ないと考えていた。それよりも、話をして時間を無駄されることに問題があった。だがら、急ぐように行動していた。


「あら、貴方だけが飛び出しても、私には勝てないわよ?」

「問題はねぇと言ってんだろ? さぁ、覚悟をしろよ! “大魂弾”!」

「大きな攻撃を当てようとするなら、隙を作らないと――――成程、隙は貴方が作る訳ね」

「あわわっ、“モグラ叩き”!」

「憎たらしい程に、適切な魔法を使ってくるわね!!」


 彼方が使った魔法は、対象物の上と下から攻撃を加えることが出来る、“モグラ叩き”。正面からは巨大な魔力が練り込められた大玉、上からは大きなハンマー、下からは爪が伸びたモグラのカラクリが出てきている。後ろに逃げることも出来るが、適切な魔法を使ってきた彼方を考えると、何か罠を掛けているとクレアは予測していた。横はハンマーの衝撃を受けてしまうのは理解出来たので、選択からはずしていた。

 その予測は当たっていた。もし、後ろへ下がれば、既に発動していた魔法がクレアを飲み込み、大きな隙を作り出していた。


「あはっ、私なら後ろに罠を掛ける。なら、ここは全てを受けるのが正解!」

「お、“おままごと”で攻撃を受けるつもりです! 啓二さん、放ったらすぐ後ろに! すぐ攻撃が来ます!!」

「おう!」


 彼方もクレアがやることを予測し、クレアの持つステータス、魔法、スキル、経験・・からこれから起きる事を予知させてみせた。

 その予知に近い予測は全て当たっており、クレアは後ろに下がらず、全ての攻撃を1体の人形へ移し、すぐ啓二へ攻撃をしていた。指示が早かったことで、啓二へ攻撃は当たらず、啓二側は無傷で“おままごと”の1体分を減らす事に成功していた。


「気持ち悪いなぁ~、まるで、もう1人の私と戦っている気分ね……」

「ひぅっ」


 そう、クレアが言ったもう1人の私と言う言葉は今の状況に合っていた。

 彼方の使っているスキルは、2つ。元からあった『完全分析』、新しく手に入れた『完全再現』により、2つのスキルがあって、今の状況を作り出せていたのだ。まず、『完全分析』でクレアの全てを知ることから始まる。最初の五分、その分析をする為の時間であり、次に『完全再現』とは、彼方が知りえる情報を元に再現する。彼方が再現出来たのは、『完全分析』で知り得たクレアのステータス、魔法、スキル、経験の全てであり、もう1人のクレアを再現させていたのだ。

 強力な特異魔法や経験までも再現してしまう完璧に近いスキルコンボだが――――、デメリットは勿論ある。それも、強力なデメリットが。『完全分析』はいつでも使えるが、『完全再現』の方は、1ヶ月に1回しか使えないし、それもたった20分・・・しか再現出来ないのだ。仲間と協力すれば、『最強』のクレアさえも押さえ込めてしまう、強力なスキルだが、ロスディ・クリアと言う組織がいることから、バンバンと使えないことに勿体無いと思うだろう。だが、そのスキルを今に使うと決めた理由がある。


「俺らのパーティもあいつらに遅れを取るにはいかねぇんだよ。だから、彼方。今は頼りにしているぞ!」

「は、はい」


 そう、今までは強力な魔物、魔人が現れた時はほとんどが輪廻のパーティに任せっぱなしだったのが悔しかったのだ。だから、目の前にいる重要人とも言える、ロスディ・クリアのメンバーであるクレアを逃がすにはいかなかった。一ヶ月に1回しか戦えない彼方に頼ってでも、輪廻達の負担を軽くさせたかった。

 その理由からあって、啓二達は頑張っていた。現にその頑張りは成果が出ていて、『最強』の二つ名を持つクレアを追い詰めていた。周りにいる召喚者や兵士達もこちら側が優位であることに歓喜の声を上げていた。




――――だが、追い詰められている筈のクレアは……




「ふ、ふふふ、ふふふふふっっっ!!」

「何を笑っていやがる……?」


 顔を俯いたまま、笑い声を上げていた。その様子に眉を潜める啓二。




「ふふふっ、それで、私の全てを抑えた気になっているのがおかしくてね」

「なんだと?」


 間違いなく、優位なのはこっちなのに、怖気がする気配を発するクレアに更に警戒を高める。




「見せてあげる、私の世界・・・・を」











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