第百九十話 テミアの母の元へ
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では、続きをどうぞ!
今、西の大陸にいる。もちろん、魔界のだ。
魔王城からの道は、西の大陸に繋がっている。テミアの母はちょうど、西の大陸を統治する王なので、一日も移動に掛けず、すぐ会えるのは良い。それは良いのだが――――
輪廻達は魔人達に囲まれていた。何ゆえに?
「貴様ら! あの事態を起こした犯人か!?」
「ひ、酷い、綺麗な森だったのに、あんなことをするなんて……」
「ごるあぁぁぁぁぁ!! 許さんぞ! 許さんぞ!!」
囲まれる原因になったのは、テミアが作り出した景色にある。オルトロスと戦いで半径十キロ内は死の森となって、復興の見込みが感じられなくなっている。それで、ここから少し見えていた街から魔界に住む魔人達が輪廻達を囲んでいる訳だ。
「テミア、どうすんだよ。これは」
「すいません、すいません……」
この状況はテミアも流石にやり過ぎたと理解したようで、謝っていた。輪廻にだが……
「その様子じゃ、そのメイドがやったことだな!? ……って、人間が何故、いる!?」
魔人のリーダーっぽい人が前に出て、ここに人間がいることに気付いた様子だった。
「あーうん、うちのメイドがやり過ぎてな。百体以上のオルトロスに襲われたから、反撃をしただけなんだけど……」
「…………これは流石に庇うことは出来ん。百体以上のオルトロスに襲われたのは同情するが、俺達はお前達を捕まえて、王へ進言することには代わりはない」
「ん、王へ進言?」
「そうだ。これだけの大きな事を起こしては、ただの警備員である俺達には手に負えん。だから、王へ進言して話を聞く。大人しく着いてくれるか?」
魔人達にはこっちの実力がどれくらいあるか大体は理解しているようで、感情のままに襲うこともなく、警戒態勢を作るだけに留めていた。この元凶を作り出したような相手に真正面から戦おうとは思わないようだ。輪廻は魔人達の心情は理解できるので、大人しくすることに決めた。このまま、警備員である魔人達に着いていけば、テミアの母である王へ会えるようなので、大人しく着いていく。
「どうして、人間がいるか気になるが、それも王へ話すように」
「はいよ」
(で、テミアよ?)
(なんでしょうか?)
輪廻は大人しく警備員と一緒に行くことに決めたのはいいが、気になることがあって、念話でテミアに話しかける。
(お前はここの大陸の王、ベルゼミア・アルデウスだったけ。お前の母親だよな。そいつらはそのことを知らないのか?)
(私もこの人は会った事が無いので。それに、今の私は前と種族が変わっていて、魔力の質も比べにもならないのですから)
(あぁ、成程)
テミアは病魔族から魔瘴族に成長しており、魔王の覇気を持った存在になっている。もし、警備員の中で前のテミアを知っている人がいても、気付く可能性が低いのだろう。それに、見た目も人間の身体を模しているので、テミアの母親が自分の娘だと気付いてくれるか心配になる輪廻だった。
(お前の母親は気付いてくれるのか? 自分の娘だと)
(それは大丈夫かと。身体や魔力の質が変わっても、私の本質は変わってはいませんので。……もし、気付かれなかったら、グレます)
(おいおい、気付かれない可能性が微レベでもあるのは困るんだよ。気付かれなくても、暴れないでくれよ……)
(わかりました。その時は慰めて下さいね?)
微笑を浮かべるテミアを見て、自分の母親が気付いてくれると信じていると理解できた。輪廻も瘴気状態だったテミアが人間の姿を模っていて、それに母親が気付くか気になるところだが、テミアが大丈夫だと言うので、信じてみようと思うのだった。
輪廻達は大人しく警備員のリーダーに着いていって、街の中へ入っていく。街はそれ程に特徴なく、ゼアスのティミネス王国と雰囲気に似ているとしか感想がなかった。中心にある王城はとてもなく大きかったが、ゴテゴテとしておらず街に合った情景だと思った。
「思ったより綺麗な街だな」
「人間でもわかるか? ここは俺らの誇りだ。他の街より、結構いい街だと自負している」
「他の街って、ここの王以外が統治している所のこと?」
「そうだな。前に北の地を統治している街に行って見たが――――酷い物だった。ここで生まれた俺は、そこで過ごしたいとは思わないな……」
リーダーの男は相手が人間であっても、色々と教えてくれる。目の敵にしているのはメイドだけのようで、まだ子供の輪廻までに敵対の視線を向けてはいなかった。
(ゼアスのとあまり変わりはないことから、ある程度の文明は持っているってことか)
輪廻の感想は、魔界の文明がゼアスのと変わらないことから、鏡の映しのようだなと思った。ふと、思ったが、先に世界が生まれたのはどちらなのか気になった。ゼアスが先か、魔界が先に出来たか、どのようにと二つの世界が裏表のように繋がっているのか。
暇が出来たら、ゼアスと魔界の繋がり、関係を調べるのも旅の目的にしてもいいかもしれない。そんなことを考えながら、王がいる場所まで案内され、扉一つまでの距離へ近付いた。
「ここが王の間だ。失礼の無いように」
「ん、武器は取り上げなくてもいいの?」
輪廻も気付いたことだが、皆は武器を取り上げられておらず、魔法を封じるような結界も展開されていないのを感じていた。その状態で王へ会わせてもいいのかと、シエルがリーダーへ聞いていた。
「問題はない。王は強いから、俺らが守ってやるような存在ではない。武器や魔法を使われても、我が王は絶対に死なん」
リーダーだけではなく、他の人も頷いていた。もし、輪廻達が王へ襲い掛かっても、王は絶対に負けない、死なない――――と信じているようだ。
「では、入れ」
リーダーが大きな扉を開き、王の間への道が開かれる。そして、そこにいたのは――――
「こんにちは。我が娘とその主人になる人間の子供、旅の仲間達。ようこそ、魔界へ来た目的は全てわかっていますわ――――」
王座に座っていた女性は強者の気配を感じさせ、気品をも忘れない存在を放っていた。魔界に来た理由など、ここにいる警備員のリーダーにだって、話してはいなかった。そして、種族も変わっている筈の娘をすぐ娘だと見破り、更に輪廻がテミアの主人だとわかっていた。なんでも知っているような笑顔を浮かべた、穏やかな女性こそが――――
「あら、まだ子供なのはわかっていたけど、ここまでカッコ良く、強い男だとは思っていませんでしたわ。テミア、良い男を見つけましたわね」
西の大陸を統率する王、いや、その女王こそが、テミアの母親であり、ベルゼミア・アルデウスと言う存在なのだ――――




