第百八十五話 決着?
輪廻が右胸から左脇腹までにかけて、重傷に見える傷を負った瞬間に、ルフェア達は動き出していた。輪廻を戦いから離して連れて逃げる為に。だが、向かっていた脚はすぐ止まることになった。何故なら、輪廻が「来るな!」と大きな声を上げてルフェア達を止めたからだ。
落ちていく輪廻だったが、すぐ空中で体勢を戻して留まった。
『攻撃を受ける瞬間に、少しだけ後ろへ逃げることに成功していたか』
「っ、ごほっ! けほっ! ……まだだ」
『重要な器臓に傷を付けることは叶わなかったが、その傷は深いな?』
そう、輪廻は少し後ろへ下がって致命傷を避けたといえ、流血が止まらず、邪神の力を制御しにくくなっていた。少しずつ邪神の力が身体から剥がれていくのを感じられた。
『もう今回は諦めろ。治して、強くなってからまた挑めば良かろう?』
「ふ、ふざけんな、まだ見逃そうとしているのか……」
『その状況を見ろ。お前はもう戦えないだろう。邪神の力も弱っているようだが?』
「……そうだな。あと一撃だけしか放つことが出来ん」
『……まだやるつもりなのか? まぁいい、最後の一撃だけは避けないでやろう。さぁ、掛かって来い!』
これだけの絶望な状況を見せ、重傷の傷を与えたのに、まだ諦めていないことに感心する青龍王だった。輪廻はあと一撃だけ放てると言ったので、青龍王はその心を汲んで――――その一撃を避けずに受けると言い放ったのだ。自分の防御は絶対だと自信があることを教え、ここから立ち去って貰おうと考えていた。青龍王は『不壊龍鱗』と言うスキルを持っており、意識していないとオンに出来ないが、オンしたら最後。魔力が残っているだけ、『不壊』の性質を持った龍の鱗が絶対防御を維持し続ける。
『どんな攻撃を見せてくれる?』
「言われなくても、見せてやるよ!」
『……む、流石に限界か?』
輪廻の身体から邪神の力である黒い魔力が剥がれていくのを見て、限界が来たと思っていた。だが、限界だったから剥がれていったのではなかった。
剥がれていく邪神の力は――――全て、手に持っている邪剣カオディスアへ集まっていたのだ。全ての邪神の力を身体から剥がした輪廻はステータスが元の数値に戻っていた。青龍王へ喰らわせる、最後の一撃が出来た瞬間に、輪廻は動き出した。邪神モードだった時よりも遅いスピードで青龍王に向かうが、青龍王は最初から受けるつもりだったので、動かずに右腕で防御をする態勢に入っていた。
「これで、お前の『不壊龍鱗』を破ってやる!」
青龍王は邪神の力をカオディスアに集めただけで、自分の『不壊龍鱗』を破れるとは思ってはいなかった。『不壊』の性質がある限り、『破壊』の性質と相殺することになり、元のステータスでの勝負になってしまう。輪廻のステータスが元の数値に戻ってしまったなら、『不壊』の性質を破っても、龍の鱗を突き破るのは不可能だ。
このまま、カオディスアを防いで終わりだと――――
――――そう考えていた青龍王だったが、カオディスアと右腕が衝突した瞬間に、傷が出来ていくことに驚いていた。
(な、何が!? 私の耐性は20万もある筈だ! 『破壊』の性質は『不壊』で止めているのに――――)
小さな傷だが、自分の耐性を越えてきたことに驚きを隠せないでいた。そんなことが出来るということは、輪廻の筋力が青龍王の耐性の数値を超えていることになる。しかし、それは有り得ないのは青龍王もステータスを確認していたから知っている。
なら、どうして、攻撃が通るのかと疑問を浮かべていたら――――輪廻の眼を見て、気づいた。
(まさか、『不壊』そのモノの性質を直接に狙い、『破壊』したと言う事なのか!?)
一つだけ思い出した。輪廻は『雷神魔法』、『風神魔法』と言うスキルを『破壊』して、一時的に使えなくした。それと同じ原理で、性質を『破壊』したということに考えが向かった。それは正しかったようで、『不壊』の性質が一時的に使えなくなり、攻撃が通ったことになる。
それだけではなく、攻撃が通っても高い耐性を貫かなければ、傷を付けられない。つまり、傷を付けられている原因は――――『破壊』による攻撃しか思い当たらない。
『性質の破壊、私への身体に対しての破壊……この二つを同時に行うなんて――――』
衝突の一瞬で、それに気付いたとしても、もう遅い。『破壊』を付加されたカオディスアは既に右腕を斬り落として、お返しと言うように、青龍王の右胸から左脇腹を沿って切り裂いていた。
『素晴らしい、この私から勝利を奪うとは――――』
長年生きて、負けたことは一度も無かった青龍王は初めての敗北を受け入れた瞬間だった。それと同時に、意識を無くした輪廻と青龍王は大量の血を流して、地面へ落ちていくのだった――――




