第百八十話 神に近い聖獣
はいはい、続きをどうぞーー。
そういえば、この前に『人形転生の復讐劇』、完結しました。
良かったら、こちらも読みに来てくださいね。
神に近い聖獣と言われている魔物。それが、青龍王だ。
『人間、魔人と珍しい組み合わせだな――――で、何故に、ここへ来た?』
「お前の魔力が篭った核が欲しい。俺の女を元に戻すために」
「俺の女……ポッ」
「いいな……私も言われたいな」
「我も!」
「私もだぞ!!」
「あのな……」
真面目に、シリアルで会話をしているのに、テミアは頬を赤くして、他は羨ましそうにしていた。輪廻は呆れていたが、青龍王は輪廻以外は眼に入っていないのか、気にしてはいない様子だった。
『他人の為に動くか。殆どは自分の欲で襲いに来る奴らが多かったから、珍しく映るな。人間と魔人の組み合わせも初めてだが』
「そうか? お前に挑む奴らがいたとは、意外だな?」
『私の核は吸収すれば、不老不死になる効果があるからな』
不老不死、そんな効力があるなら、誰も欲しがるだろう。ここは東の地で、魔人ばかりが住まうから青龍王へ挑んだのは、殆どが魔人なのだろう。
『私の核が欲しいなら、お前達の命を賭けて奪って見せよ!!』
「最初からそのつもりだ!!」
周りを確認するが、青龍王の配下である龍の姿は見えるが、こっちに来る様子はなかった。青龍王へ加勢しようとする龍は全くいなかったが、青龍王が加勢はいらないと断っているかもしれない。そう思っていたが――――
青龍王の威圧が強まったことから、違うと理解した。
加勢をするどころか、近くにいると巻き込まれるから足手纏いになるからだ。それに、これ程の強さを持つ青龍王が負けることは有り得ないと、本能で知っているからのどちらかだろう。
「皆、谷の近くまで離れていろ。こいつは、お前達では攻撃が通らない。俺も本気で戦うから――――」
「わ、わかりました!!」
「御主人様、御武運を!!」
「死ぬなよ」
「ヤバイと思ったら、呼べ!!」
輪廻の言葉に逆らうこともなく、テミア達はすぐ輪廻と青龍王から離れた。
『ほぅ、一人でやるつもりか? 邪神の子よ』
「邪神の子か、確かにそうかもなっ!」
青龍王の言い方はそれ程には間違ってはいない。輪廻は邪神の力を一部といえ、身体に取り込んで扱えている。本来なら、馴染むには才能、素質が必要になるが、輪廻はメガロモスとの一戦だけで、邪神の力に馴染めていた。だから、青龍王はそう言ったのだろう。
「“虚冥”」
輪廻は手加減も様子見もいらないと言う様に、虚冥を周りに展開して、次々と撃ち出して行く。それで終わらず、カオディスアを手にして、死紋剣を斬撃にして放ち続ける。怒涛の連続攻撃に、普通の魔物や魔人なら一発以上は喰らっている程に苛烈だった。だが、神に近い聖獣はその怒涛の連続攻撃に対して、合間を縫うように避けていく。その動きから、ステータスが10万以上もあるのは本当だと判断できた。削られた山を更に、クレーターを作り出して荒らしていく様子を見て、青龍王は輪廻が邪神の性質である『破壊』が使えていることを理解していた。
『邪神の性質を理解しているようだが――――』
『破壊』が付加された、“虚冥”に風で出来た刃が当たる。普通なら、邪神の力で強化された“虚冥”が風の刃を破壊するのだが、その結果は――――“虚冥”が真っ二つになって消え去ってしまうのだった。ついさっき、“終之重”を切り裂いたような結果と同じになっていたので、それ程に驚かなかったが、やはり、『破壊』が付加されているのに、負けることには思うことがあった。
「……『破壊』を超える性質があったのか?」
『いや、性質で勝ったわけじゃない。ただ、私の方が強かった。それだけだ』
「チッ!!」
最初は、輪廻が怒涛の攻撃で青龍王を攻め立てていたが――――今は、風の刃だけで攻撃を防ぐどころか、打ち破って、こっちまで攻撃が届いてくる。
『邪神の子よ、少しだけ教えを授けてやろう。私の特異魔法である、『風神魔法』は風の上位互換だが、それだけでは『破壊』の性質を越える事はない。では、私がどうして、『破壊』の性質に打ち勝てたか? 考えて見せよ』
「……余裕だな?」
『ふん、年上の言葉は聞いておくのが吉だ。では、わかるか?』
何故か、戦いの中で授業みたいなことをしてくるのか、わからないが――――輪廻が思っている疑問が解消されるなら、考えない訳がない。
「魔力の差か?」
『近いな。しかし、お前が言っている差とは、ステータスに出ている数値の差だろう?』
「ステータスの差ではないなら――――質か?」
『当たりだ。私が放っている風の刃は、見ただけでは一発だけにしかわからないが、実際は――――2、3発分の刃が放たれている訳だ』
「魔力の上乗せとは違うのか?」
輪廻が言っていたように、魔力の上乗せなら、いつでもやっていることだ。相手の魔力量より多く乗せた攻撃で相手の攻撃を飲み込み、対象ごと粉砕してきた。だが、青龍王がやっていることは、魔力の上乗せとは違うやり方で、『破壊』の付加を乗せた攻撃に打ち勝っている。
『簡単に言えば、一度の発動で二枚の刃を発動している。そして、それを一枚の刃にして放っていると言えば、わかるか?』
「……言いたいことはわかるが――――」
輪廻は青龍王が言いたいことを理解していたが、実際にやってみるが……出来なかった。二個の“虚冥”を発動して、融合するように重ねようとしてみたが、上手く行かず、融合しようとした瞬間に相殺して消えてしまう。
『コツは、二つの魔法を同じ量、質にすることだ。それが出来ないのであれば、私の相手にはならん』
「……チッ」
おそらく、青龍王は長年の時を掛けて、今のような攻撃を成功させてきたのだろう。今すぐにやれと言われても出来ないと、わかっていたので、適切に教えていたのだ。この差は、経験の差だと言えるだろう。
「……『破壊』に打ち勝った理由はわかったが――――! 俺が諦める理由にはならねぇな!!」
『……お前はまだ若い。死ぬには早いと思っていたが、諦めないなら、仕方が無いな』
大切な人の為と言え、自分との差を理解しないまま、死なせるのは忍びないと、青龍王は考えていた。経験の差を教えて、諦めて貰おうと思っていた、輪廻は諦めないと言い放った。そこまで言うなら、青龍王もキチンと相手をしてやらないと侮辱になると判断した。
二人の戦いは、これからが本番になるのだった――――




