第十八話 エルフ
今日から一話ずつになります。
輪廻に声を掛けた者は、背中に弓を背負ったエルフだった。
そのエルフがダンジョンに潜るなら、パーティに入れてほしいと言ってきた。
(お、初めてエルフを見たなぁ。やっぱりエルフは弓を使う人が多いのか?)
小説に出てきたエルフのイメージと全く同じだった。ティミネス国ではエルフを見掛けなかったから、エルフの国に行かないと駄目かなと思っていたのだ。
「ねぇ、なんで俺らと? まだEランクになったばかりだよ?」
「あら、まだEランクだったの? 少年とメイドが強いのはわかるわよ?」
「……なんで、そう思いますか?」
自分達のステータスを見たと言うなら、このエルフは生かして置けないと思い、警戒する。
「さっき出していた魔物の材質、2人だけで倒したならEランクでは足りないぐらいの実力を持っているのはわかるわ」
「ああ……、あれで判断したってわけか」
ステータスを見られてないことに内心でホッとしていた。
パーティを組んで欲しいと言われても、今は2人だけで充分だから断ろうと思ったが…………
「私はBランクで、シエルと言うわ。宜しくね」
「思ったより高ランクだったのかよ? なおさら、俺達が必要だと思えないが?」
「いいの〜、実はダンジョン云々はどうでもいいの!」
「……へ?」
さっきまでの話は何の意味はないと言うように話し続けるシエル。
「少年と仲良くしたいと思っているの」
「…………」
「少年と一緒にいれば、面白いことが起きる。そうと私の勘が言っているの」
(その面白いことならもう起こっているんですが。隣に魔族がいるし、自分も召喚された者ですから)
その女の勘は凄いなぁと思いながら考えていた。高ランクだとわかった今、連れていっても損はない。
”上位鑑定”は持っていないから自分からばらさない限りは大丈夫だろうと考え…………
「まぁ、そこまで言うなら、いいですよ。テミアもいいか?」
「私は御主人様の判断に従うだけです。もし、貴女が御主人様を襲ったら私が土に還してあげます」
「少年……、そのメイドから殺気を感じるけど、気のせいだよね……?」
シエルはテミアから放たれている僅かな殺気を読み取っていた。
それだけでも、このエルフがどれだけ出来るかわかる。
(これがBランクの実力か。あのゲイルもBランクだったっけ)
訓練の指導をしてくれていたゲイルもBランクだと聞いたことがある。シエルも『隠蔽』を持っているから鑑定出来なかったが、ゲイルと同等の実力を持っている可能性があると予測した。
「テミアは冗談を言わないから気をつけてね。ああ、俺の名は輪廻だ。メイドはテミアと言う」
「テミアと申します。短い間ですが、余命を楽しんで下さいな」
「土に還すのはもう決定しているの!? それは勘弁して欲しいな……」
あははっ……と、苦笑するシエル。テミアにそんなことを言われてもキレないなんて器がでかいエルフだなと思った。それか、テミアが本気でやるとは信じていないと思っているかもしれないが…………
パーティを組んだ輪廻達は、シエルに案内して貰ってダンジョンの前に着いていた。
「ここは『奈落の穴』と呼ばれていて、魔物が良くホップするダンジョンだ。レベルを上げたいならここが一番だね」
輪廻はダンジョンに向かう前に、レベルを上げやすいダンジョンはあるか聞いたら『奈落の穴』まで案内してもらった。
「『奈落の穴』……、ネームセンスはともかく、魔物が沢山出るならレベル上げに丁度いいだろう」
「そうですね、周りの冒険者が邪魔ですが、巻き込んでも問題はありませんよね?」
「問題ありだよ!? ……って、貴女はそんな武器を使うの!?」
周りには冒険者が沢山いて、大包丁剣を振り回すのに、邪魔だと言っているのだ。
(武器を背負っているのだから、使うに決まっているじゃないか。あ、威嚇のために持たせていたとか思っていたのか?)
シエルは、テミアが大包丁剣を使うとは思っていなかったらしく、輪廻から説明してやったら大層に驚かれた。
「マジなの……?」
「うん、マジで。それより、周りに人がいると邪魔になるから、人が少ない方に行こう」
ダンジョンの中に入っていき、1階は大量の冒険者がいて、ここでは戦えそうはなかったから、階段を見付けてすぐに降りた。
「ここなら、1階よりはマシだな」
「1階は新人冒険者が多いからね。話してなかったけど、私は弓と魔法を使うわ」
「俺はナイフと魔法だな。テミアは見ればわかると思うが」
テミアは大包丁剣を素振りしていた。素振りするごと凄い風が起こる。
「……うん、完璧に前衛だとわかるわ。だけど、あの剣を使って、剣速が凄まじいってどうなのよ? 化け物じゃない」
「化け物って、失礼ですね。私はただの御主人様専用のメイドですよ」
テミアはキリッと言うが、シエルはただのメイドだとは信じていない。
「まぁまぁ、そんなことはいいでしょう。向こうに魔物の姿がありますよ」
前から蜘蛛の魔物が来ている。数は3体だったので、1人1体ずつで相手をすることに。
「まず、私からやるわね。”魔法付加・火”」
矢を取り出しながら魔法を付加するスキルを使う。このスキルで、矢は赤くなって、敵に向かって撃ち出される。
撃ち出された矢はちょうど蜘蛛の額辺りに刺さって、小さな爆発が起こった。
(魔法を付加するスキルか。威力は普通の魔法より小さそうだが、魔力はあまり使わずに済みそうだな)
額辺りで爆発が起き、普通の魔法より威力は小さかったが、場所が良かったので、一撃で死んだ。その瞬間に、テミアが飛び出して輪廻は”隠密”を使いながら蜘蛛の上空に向かう。
「虫畜生が、消えよ!」
蜘蛛はテミアに向けて粘着糸を吹き出す。だが、テミアは余裕で避けて上段斬りで一太刀を喰らわせた。
ドォォォォッ! と音を立てて、蜘蛛は真っ二つになって死んだ。
「手加減なしかよ」
明らかに格下の相手でも、テミアは手加減なしでぶちのめしていた。魔族は手加減を考えないで、初めから全力でやるのが普通かもしれない。
輪廻は既に、蜘蛛の上空にたどり着いており、蜘蛛はこっちに気付いていない。
「おらっよ」
まるで下に降りるように行動をする輪廻。そして、そのまま”重脚”と同じように脚に”重圧”の力を乗せて、踵落としの構えをする。
「喰らえっ!」
まだ気付いてない蜘蛛の頭に踵落としを落として、ぺしゃっと気持ち悪い音を残して、頭が潰れたのだった。
地面にも、小さなクレーターが出来ていたことから威力は言わずともだ。
「ふむ、地下1階ならこんなものか」
「さらに地下に潜っても問題はないかと」
テミアはこの程度は問題ないと言ってくる。輪廻はシエルにも意見を聞いておこうと見てみる。
当のシエルは、口を開けてこっちを見ていた。驚いているのがわかりやすい程だった。あ、ようやく気付いてこっちまで早歩きで向かって来る。
「な、なな、何者なの!? ど、どうやって空中を歩いたのっ!? 少年の脚、どうなっているのよ!?」
最近、その言葉がデフォになりつつだなと思う輪廻だった。
シエルが落ち着いてから話しても大丈夫なことだけ話してあげた。
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「特異魔法……、今まで生きていて、初めて見たわ……」
どうやら、魔術師にとっては特異魔法は憧れの魔法らしい。後天的では手に入らないからだけではなく、自由度が高い魔法でもあるからだ。
特異魔法だけでも、オリジナル魔法とも言えるが、魔法の使い方によって、オリジナルに相応しいことが出来るのだ。例が、”重脚”と”空歩”になる。本来の使い方と違った使い方で生まれているからオリジナルになるのだ。
話が変わるが、階層によって魔物が違うと聞き、下に降りていくなら慎重に行くべきだろうと考えた。
もし、魔法しか効かない相手がいたら輪廻は役に立たないのだ。テミアは瘴気で殺せるが、シエルがいたら使えないので、シエルに任せることになってしまう。
だから、魔法しか効かない魔物がいない階層をシエルから聞いて、進んでいく。ちなみに、シエルは地下47階まで行ったことがあるらしい。
地下5階まで進んで、魔物をどんどん倒していき、レベルは4も上がっていたのだった。