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第百七十八話 龍の谷

はい、続きをどうぞ!



 なんとかシエルはSSSランクの魔物を倒した。この一戦だけでレベルが結構上がり、次々と現れる魔物を皆で楽々に倒していく。

 そして、ようやく砂漠を抜け出して暑さから逃れたと思えば――――


「……東の地は面倒な所だな?」

「そりゃぁ、人の手が全く入ってないからな」

「そういえば、東の地は人間の国が全くありませんでしたね。やはり、環境が厳し過ぎるからでしょうか」

「魔人なら余裕だが、人間には厳しいだろうな」


 砂漠を越えて、森に入ったかと思えば、森はすぐ終わって深い谷が現れたのだ。


「この谷を越えれば、青龍王がいる山はそう遠くは無い」

「そうか。ここを超えることが出来ればな……」


 深い谷を越えるには、空を飛べれば良いが、こっちは空を飛べる人はいない。輪廻が重力の壁を作って、橋のようにしてもいいが、それをするには――――


「駄目だ。龍が多過ぎる」


 谷の上には大量の龍が飛んでおり、谷を渡ろうとすれば襲いかかってくる可能性が高い。それだけの強い龍が沢山に襲い掛かってくれば、輪廻達であっても無事で済まない。重力の壁はそれ程に強固でもないし、重力の壁を張ったまま戦うには数が多過ぎる。


「こいつらは青龍王の配下だ。私も向こう側に渡ったことはないが、この谷はぐるりと輪のようになっており、中心に青龍王がいる山があるとか」

「別の所から行こうと思っても、このような景色があるか。やはり、谷を降りて登るのがまだ安全か」


 龍は谷の上を飛んでおり、谷の中までは縄張りを張っているようには見えない。だから、谷を足で降りて登っていくのが一番良いと思えた。


「ふん、谷の中にも魔物がいるそうだが、龍よりはマシだ」


 ちらほらと飛んでいる魔物を見掛けるが、問題なく降りて行けると判断した。重力の壁で足場を緩やかな坂のように作り、戦闘は皆に任せることにする。


「これはグリフォンか?」

「知っているのう。翼を狙えば、簡単に落とせるぞ」


 グリフォンが襲い掛かってきたが、聖獣と言うほどの実力は無く、ルフェアが翼を凍らせて谷の底へ落としていた。そのまま落ちていき、グシャッと潰れた音がしたのは数十秒後のことだった。


「思ったより深いな。落ちたら終わりだと思え」

「は、はい」


 重力の壁に乗ることは慣れたが、この高度は恐怖を煽るようだ。足場が見えないだけに。しばらく、皆の援護もあり、輪廻は重力の壁を谷の底まで作ることが出来た。


「もうすぐだ」

「思ったより暗くはありませんね」


 底に着いた輪廻達だったが、深い谷の底はポツポツと小さな明かりを発する鉱石があったため、それ程に暗いとは思えなかった。


「後は反対側の壁まで歩き、登るだけだな」


 向こう側の壁は走れば十分で着く距離にあるが、途中で魔物に襲われる。どの魔物は眼が全くなく、異常に耳や鼻が発達した魔物が多かった。

 故に、キモイ姿をしているのが多数だった。


「鼻がデカイ猿?」

「デカイというか、長いね―」

「上では見たことがない魔物だのぅ」


 見た事も聞いたことがない魔物が現れ、戦闘になるかと思われたが……


「む、逃げた?」

「力の差を理解して、逃げたのかのぅ」

「元から臆病な魔物じゃないの? 見た目から強そうに見えないし」


 鼻が長くて眼がないだけの特徴があまり無い猿はこっちに気付くと咄嗟に距離を取っていた。戦う気は無さそうだったので、放置して向こう側へ行こうとしたー―――――――が、突然に異変が起こった。




「っ!?」

「眼が!?」

「なんと、見えなくなりおったぞ」


 明かりが無くなった訳でもないのに、突然に眼が見えなくなったのだ。急に眼が見えなくなるということは、何者かの攻撃を受けた可能性が高い。


「まさか、さっきの猿!?」

「何かしやがったのか!?」


 人間と魔人とも関係なく、眼が見えなくなっていた。気配と魔力の察知に頼り、さっきの猿を探してみる。思ったより遠くに逃げておらず、立ち止まっているのがわかった。


「くっ、気配が増えていく? 仲間を呼んだか?」

「いや、これは分身のようだのぅ」

「わかるのか?」

「魔力の質が違う。分身の方は薄いからのぅ」


 ルフェアだけははっきりと本体の魔力を判別していた。これは『真実の眼』のお陰で、本体と分身の違いを感じ取れていた。いや、見えていたが正しいだろう。


「ここは我がやろう」


 本体が判別出来るルフェアが前に出て、拳を握っていた。氷獄魔法が強力過ぎて忘れがちだが、ルフェアの職業は魔拳士で徒手空拳が得意である。この後は強力な聖獣、青龍王との戦いもあるのでここで魔力を無駄には出来ないと判断して、拳で戦うことにしたのだ。


「そっちにいるな」

「ギィ!?」


 猿は接近戦が得意ではないのか、更にルフェアから離れて手を動かしていた。その手から何かが出てくるのを感じ取っていた。


「これは……虫が持っている燐粉に似ているな?」


 魔力だけでその粉がなんなのかわかった。猿の癖に、蝶や蛾が持っている燐粉に似た物を放っていた。


「これは、視覚、嗅覚、聴覚を封じ込める効果があるな……だが、無駄だ」

「ギィィッ!?」


 ルフェアはその粉を全身に受けて視覚、嗅覚、聴覚を封じ込められた状態であっても、魔力の察知だけで猿の居場所を見失うことはなかった。一瞬で猿の懐に入り、拳を腹へ打ち込んでいた。一撃だけで終わらず、連打で全身を打ちのめした。


「魔力を阻害する何かがあれば、苦戦していたかもしれないが――――残念だったな」


 最後に一撃は猿の鼻を潰し、スクリューを加えて向こう側の壁まで吹き飛ばしてり込ませた。


「うっ、このパンチは……」

「訓練の時によく喰らっていましたね。黒エルフは」

「あー。あれはとても痛いんだよな……」


 連打していた時に、既に事が切れていたのか暗くなっていた視覚が元に戻っていた。最後のトドメを見たとき、シエルはふるふると震えていた。前に行っていた訓練のことを思い出していた。


「この程度では、準備運動にはならんな。今度、格闘戦に付き合ってくれないかのぅ?」

「俺は格闘専門ではないので」

「私の身体はこれなので」


 輪廻とテミアはルフェアの相手をするのをやんわりと断るのだった。


「ひぃっ、私は……」

「シエル?」

「わかりましたよぅ……」


 指名され、肩を落としつつ応えるシエルだった。また地獄を見るだろうなと深い溜息を吐きつつ、せめてウルだけでも巻き込もうとするのだった。


「良かったら、ウルも一緒にやりませんか?」

「む、格闘戦をか? いいぞ、たまに槍無しでもやれるようにしておかんとな」

「そうですか! 一緒にやりましょうねっ!」

「お、おう?」


 ウルはルフェアが繰り出す地獄を知らないので、あっさりとオッケーを出し、シエルは内心でガッツポーズをしていた。輪廻とテミアは哀れな被害者を見るような眼でシエルとウルを見ているのだった――――










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