第百七十七話 シエルの底力
はい、続きをどうぞ!
先手必勝というように、雷の矢による豪雨を降らしていく――――――が、アロディウスは動かずに無装備で攻撃を受けていた。
「えっ! 全く効いていない!?」
「避けろ!!」
ルフェアが一先に気付き、声を上げていた。ルフェアが持つ『真実の眼』には目の前にいるアロディウスの本当の姿を捉えており、一本しかなかった尻尾が本当は八本もあり、その一本が砂の中に潜っていたのが見えていたのだ。その声にこの場は危険だと察し、瞬動で離れた。
さっきまでシエルが立っていた場所から強力な毒を供えた尻尾が突き出ていた。
「ええっ!?」
「お前の眼に見える物は幻影で姿が違っているぞ!! 本当の姿は尻尾が八本あるぞ!!」
「うえっ! これは、幻影のスキル?」
「おそらく、蜃気楼かもな。ここは砂漠だし」
アロディウスは砂漠の特性を使って、幻影を生み出しており本当の姿を隠していたのだ。それだけではなく、素で攻撃を受けてもダメージがないことからとんでもなく硬いのはわかる。
「蜃気楼で幻影を見せているなら、これで本当の姿を見せなさい!! “流星”」
同じ“流星”だが、雷ではなく水の矢を撃ちだしていた。ダメージ狙いではなく、冷たい水で熱を奪うためだ。その狙いは的中しており、熱を奪われたアロディウスは蜃気楼がなくなって本当の姿を見せていた。
その姿は、ルフェアが言っていた通りに尻尾は八本あり、甲冑は先ほどよりも厚く硬い姿をしていた。更に手の鋏もオリハルコンで出来ており、切れ味と硬さは一級品だ。
「アロディウスは防御力が高いから、真正面から戦わない方がいいぞ!!」
「わかっています!!」
わざわざ硬い甲冑に向けて攻撃をする必要はない。硬い相手には弱点を狙うか関節に攻撃して動きを封じ込めるのがセオリーである。――――だが、それだけで勝てるなら災害級の魔物とは呼ばれない。アロディウスには厄介な魔法を使ってくることから災害級と呼ばれるようになったのだ。今のように――――
「ギイイイイイイィィィ!!」
「なっ、砂が!?」
アロディウスが鳴くと砂が動き出して、関節を守るように塞いでいく。そして、空中に砂で出来た槍が大量に作り出された。
「あれは、魔法なのか?」
「ああ、砂魔法だな。あれも特異魔法だ」
「魔物が特異魔法を……? 聖獣でもないのに?」
「ああ、だから、災害級の魔物と呼ばれている。アレ以外の六体の災害級の魔物もいるが、全てが特異魔法を使ってくるぞ」
特異魔法を使ってくるとは思ってなかったから驚いた輪廻だったが、勝つのはシエルだと信じていた。シエルは他の仲間と比べると実力は一段と落ちるが、ここまで着いてきた実績を持つ。輪廻のように特異魔法を持っているわけでもなく、テミアやルフェアのように元から高い実力も無い状態でも、いつでも輪廻達と一緒にいる。
強そうな相手に会うと弱音を吐くシエルだが、最後まで諦めない。力が足りないなら、手数を増やして頭を使って戦うなどの手段を講じてきた。そして、輪廻は知っていた。影では努力もして、自分達に追いつこうと鍛えていた。
だから、今回もシエルが勝つと信じていた。
「厄介な敵ですが、諦めない!!」
今のシエルに足りないのは、威力だった。雷の矢は通らなかったが、一種類だけじゃ駄目なら――――
「今こそ、纏めて見せる!!」
シエルが使える魔法は光魔法を除いて、六種類に増やしていた。火、水、土、雷、風、闇の六種類の魔法を使えており、それを一本の矢に纏めていた。相対する魔法があっても無理矢理に纏め、矢の形もパリスタのように強固で大きくなっていた。
「穿て、“六魔矢”!!」
手から矢が放たれて、星屑がびりびりと震えているのを感じられていた。矢はそのままアロディウスの額に向かっていたが、危機を感じたのか、砂の鎧を纏ったオリハルコンの鋏で防御をしていた。矢が突撃し、砂も剥がれてオリハルコンも砕けていく。
「ギィィィィィィィ―――――――――!!」
威力は充分だったが、鋏に邪魔をされたせいで少し軌道がずれて、残念ながら一撃では終わらなかった。両鋏は砕けて、尻尾も四本も捥がれていたが、まだ生きていた。
しかし、アロディウスには自己治癒のスキルは持っていないので、もう一撃を当てればシエルの勝ちだろう。輪廻達も勝ちを確信していた。
「黒エルフ、今のうちにもう一発撃ちなさい!!」
今は両鋏を砕かれた痛みで周りが見えていない。その隙にもう一発を打ち込めとテミアが叫ぶが……
「も、もう無理……一日に一発までなの……」
「「「…………」」」
「決まらない残念黒エルフですね……」
一日に一発しか使えない技だったようで、魔力もほぼゼロになっていた。なんとか魔力回復の薬を飲んだが、さっきのような技は撃てない。それからは、ちまちまと少しずつダメージを与えて…………十五分後にようやく倒したのだった。




