第百七十一話 新たな旅
はい、続きをどうぞ!
戦争は終わり、これからの方針が決まった者はそれぞれがバラバラの道へ進んでいく。
殆どの召喚者はティミネス王国へ帰還し、冒険者達はセイオリック天聖国に残って、クエストを受けたり魔物を間引きしたりしている。
輪廻達はーーーー
「これから東の地に進み、聖獣を狙う。いいな?」
輪廻達はテミアを元に戻すために、東の国へ向かうことに決めた。今のテミアは魔力が元の十分の一もない状態で、魔王と同等の魔力が必要になっている。
召喚者達が必要している魔力と同義だが、ウルが言っていた精霊王のことは譲ってやった。
輪廻は別の魔力に思い当たりがあったので、それを狙うと決めていた。
「聖獣も特別な魔力を持っているのは知っているけど、あの赤龍王程度では足らないぞ?」
「わかっている。俺が狙っているのは、東の地で一番高い山に住まう青龍王のことだ」
「青龍王!? 数体いる聖獣の中でも特別な力を持った存在である、あの龍じゃないですか!?」
シエルは青龍王のことを良く知っている。聖獣のことに詳しいというわけでもないが、子供の頃から良く聞かされていた。
聖獣は神の僕だと言われているが、青龍王だけは神と同等の存在だと認められているぐらいに強く美しい龍であり、誰も近付けない神聖な山に住まうと…………
「はっ、神殺しを狙うつもりかのぅ?」
「そんなつもりはないが、テミアを元に戻すついでに強くなれるようにしたいだけだ」
「私の為に……」
青龍王程の魔力を手に入れれば、間違いなくテミアは前よりも強くなれる。魔王の力を持ち、殆どの生き物の天敵になる能力を持つテミアが青龍王の魔力を手に入れることが出来ればーーーー
「ほぅ、面白いことをやろうとしているな?」
「……なんで、お前がここに居る?」
「そんなの決まっているだろ、お前に着いて行く。東の地に向かうなら道案内が必要だろ?」
そこにはウルがいた。ウルの部下になっているディオは研究の為にセイオリック天聖国の近くで研究所を作っている。ウルもディオの側にいると思ったが、違うようだ。
「私は研究とかちまちまなことは嫌いなんだよ。それに、お前に力を貸すと決めたばかりなんだから、着いて行くからな」
「む、『ロスディ・クリア』に関することだけだと思ったが……」
「あん? 今はまだ何もわかってねぇから、お前に着いていって強くなるのが現実的だろ?」
「まぁ、それは間違っていませんが……」
あの青龍王を倒せば、間違いなく強くなる。それがわかっているから、ウルも輪廻と一緒に行くのだ。今のままではイアの仇を取るのが難しいのを理解している。
「わかった。脚を引っ張るなよ?」
「ふん、誰に言っているんだ。このウルが足手纏いになるのはあり得んな」
一緒に着いてくるのを認め、早速に東の地へ向かう。
「そういいや、人間共が何か情報を手に入れたら、どうすんだ?」
「ひとまず、この通信魔導具で連絡が来るようになっている。おそらく、すぐわかることは何もないだろうな」
通信魔導具はティミネス王国とセイオリック天聖国にも置いてあり、何かわかったら、連絡し合うと決めていた。輪廻の予想では、まだロスディ・クリアは動かないと考えている。もし、動くなら輪廻達がメガロモスを倒した瞬間に攻めて来ればいいのだ。だが、玲子達は攻めてこなかった。つまり、何らかの準備があるという証拠である。
「今はすぐ東の地に向かうことだ。早く行きたいが、シエルの転移は行ったことがない場所には向かえない。だから、道案内は頼むぞ」
「わかってんよ。近道を知っているから、あそこに向かうぞ」
南の地から東の地へ向かうには、幾つかの山を越える必要がある。だが、ウルが知っている近道があり、そこは鉱山だった山で洞窟が隠されており、東の地へ繋がっていると。
「へぇ、ここか」
「あぁ。魔物はいないが、厄介な奴が住んでいる。出会わなければいいが……」
「お前が厄介と言う程か? 山を越えた方が良いんじゃないか?」
「いや、山を越えるには高すぎるし、魔物がまだ多く住んでいるから、洞窟の中を進んだ方がマシだ。厄介と言っても、私より強いってことはない。ただ、面倒な相手だからだ」
ウルより強くはないなら、いいが……、面倒な相手でもあるらしい。それはどんな敵なのかウルに聞いてみようと思ったが、ウルは首を横に振った。
「あれは出会わないとわからない敵なんだ」
「は?」
出会わないとわからない敵とはどういうことなのか。ウルはそれ以上の言葉を発せずに洞窟の中へ入っていった。
輪廻達は何もわからないまま、洞窟の中に入ることになるのだった…………




