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閑話 先生と王女

忙しくて、遅れました!

今回は閑話になります。では、どうぞー。

 


 戦争が終わり、生徒と一緒に召喚された、1人の先生は…………




「生徒3人が死亡ですか……」

「……思っていたより、落ち込んでいませんでしたね」


 ティミネス王国の城で、様々な薬による臭いが漂う部屋には2人の人物が立っていた。2人は召喚者の1人である菊江先生と王女のエリーだった。

 菊江は王女のエリーから戦争の話を聞いていた。何が起こったのかは、通信の魔導具で聞いており、全てを知っている。

 3人の死亡者と1人の行方不明に……裏切りの玲子のことも話したが、思ったより反応が小さかったことに驚くエリー。




「裏切りのことも驚きがありましたが、死んだ3人は自分から志願した人であり、戦争となれば被害のことは覚悟していましたから……。それに、行方不明はまだ生きているかもしれませんし」

「行方不明は勇者なのですから、まだ生きているかもしれませんが……、私は菊江さんが覚悟をしていたことに驚きでした」


 エリーが想像する菊江のイメージは、過保護で生徒のことを自分の子供だと言うように守護の対象に考えている頑固者…………だった。




「そうでしょう? 演習ごとに見送りをして、自作した薬を千個も無理矢理に持たせた貴女が」

「わかっていますよ。私も前のままではいられないと、皆から教わりましたから」

「皆から?」

「はい。演習から帰ってくるごとに、生徒達の顔が変わってきているんです。私はずっと見ていましたから、私も今のままでは駄目だと気付いたんですよ」


 先生のままじゃ、皆に心配を掛けてしまうとわかり、免除されていた演習への同行して戦闘技能を高めることもしてきた。流石に戦争が起こったセイオリック天聖国までは一緒に行けなかったが。それに、戦えないで部屋に引きこもっている生徒も放って置けない。




「皆はそれぞれの目標を持って、この世界で生きようと一生懸命なのです。だったら、引っ張っていく側である私がへこたれてはいけませんからね」

「そうですか……、強いですね」


 エリーは今の菊江先生がとても眩しく映っていた。



「少しだけ、話をしていいですか?」

「大丈夫です。聞くのも先生の仕事ですから」

「私は生徒? という者ではありませんが、ありがとうございます。召喚者の中に私を恨んでいる人もいると思っています。だけど、その恨みから逃げずにそれらは全てを背負うつもりです」

「…………」

「私がしたことは、勇者の召喚と名誉なことだと言われていますが、実際は誘拐であることは間違いないです。私に皆を引っ張っていくような王女の資質はないけど、私が出来ることはしてあげたい。この世界に住まう人の変わりに平和を手に入れてもらうのは、情けなく思いますが、私はこの世界が好きなので、守りたいとお、もい、ます……から……」


 エリーは泣いていた。王女としての重圧に民からの期待が痛い。民は王女のことを平和の使者と呼ばれており、勇者を大量に召喚した偉大な人だと思われている。

 実際は大量誘拐を行った王女なのに。エリーはそう思っており、平和の使者ではないと叫びたい気分だった。だが、民の期待に応えるのが王女の仕事であり、不安にさせないために胸の内に隠すしかない。

 菊江とエリーしかいないから、話せたことだ。これっきりにして、後からはその心情を話さないだろう。




「ごめんなさい。謝って許されることではないですが、皆を守ろうと保護者として見ている貴女だけには話さないでいられなくて……」

「貴女は許しを得ようとは思って、話したわけじゃないよね。確かに、貴女の心情を知ってもこの世界に連れてきたことは普通なら許されないことだと思うわ」

「はい……」


 ハッキリと言われると、わかっていても沈んでしまうエリーだった。しばらく俯いていたエリーがチラッと菊江の顔を見てみると、穏やかな表情で見ていたことに気付いた。




「でも、一つだけ間違いがあるわ」

「えっ?」

「皆は貴女のことを恨んではいないわ」


 眼を大きく見開くエリー。そんなことはないと思っていても、菊江の言葉に驚いてしまう。




「始めは恨みを持っている生徒もいたけど、今はそんなことはないと聞いているわ」

「な、なんで……?」

「見捨てなかったからかな、力を持っているのに、戦わなかったことに不満を言わずにこちらの希望も聞いてくれたわ。そして、生活も不便もなく城から追い出さなかったのもあるわ」


 もし、酷い人だったら城から追い出される可能性もあった。始めはそれに警戒していた菊江だったが、国王も王女も責任を捨てずに戦えない者も無理矢理戦わせずに城に置いてくれた。希望も出来るだけ叶えてくれて、この前に襲ってきた魔人と魔物から守るように避難もさせてくれた。

 ちゃんと責任を果たそうとずっと動いていた王女のことを皆は見ていた。皆はそんな王女に恨みを持てなかった。




「私は月に1回は必ず、皆と面談をしていたの。そして、貴女のこともよく聞かされていました。もう恨みを持ってないことも、その時に聞きました」

「でも……」

「私達にしたら、無理して倒れては困りますので、少しは肩の力を抜いてはどうですか」

「……はい」


 恨みがないと言われても、実感がないエリーはまだ暗いままだった。あっさりと許されても自分がまだ許されていいとは思えないのと同じだ。

 その表情を見た菊江は少し考えると、何か思いついたのか頭の上に豆電球が現れていた。




「貴女も皆と同じように面談を受けようね?」

「え、面談?」

「はい! 今みたいに誰かがいては話せないことを聞いてあげます。それで、少しは気が楽になってくれれば、嬉しいわ」

「い、いいのですか……?」

「いいわよ。貴女も私の生徒みたいな者ですから!」


 その原理はわからないが、エリーは生徒達と同じようにと思われていたことにクスッと微笑を浮かべて、さっきよりは少しだけ元気が出た。




「あ、貴女はもうお酒を飲める歳よね!? 一緒にお酒を飲みましょう!!」

「え、き、菊江さん? まだ仕事が……」

「いいのよ!」


 この後、無理矢理に酒盛りに付き合わされ、王女は菊江の本性を見てしまうことになった。エリーが酔って落ちるまでこの時間を付き合わせられたのだった…………










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