第百七十話 魔人の思惑
はい、お待たせました。
この場に魔人のウルとディオが現れ、皆は戦闘態勢に入っていた。その中で自然体に立っているのは輪廻パーティだけだった。
「今更、何をしに来た!? ここへ無謀に攻めてくるとは……」
「いえ、戦闘しに来たわけでもありませんので、武器をお下げて頂けませんか?」
「皆、待て。戦闘ではないなら、何しに来た?」
ディオが前に出て、戦闘意思はないと両手を上げていた。ガラードは魔人側から敵意がないのを感じ取り、先走りしそうになっていた者を止めていた。
「簡単なことです。今は停戦休戦をしたいと考えています。更に、『ロスディ・クリア』という組織を潰すために協力を申し込みに来ました」
「停戦休戦に協力だと?」
「ふざけんなよ!? 向こうから攻めてきて、戦力が減ったから戦いを止めて協力しようと言うのか! 認めるわけねぇだろ!!」
「当たり前だ! こっちも何百人も死んでいるんだぞ!!」
冒険者側はやはり、その提案を受け入られないようだ。それに次いで、召喚者もその提案に乗り気ではなかった。やはり、数人といえクラスメイトだった仲間を殺されたことも許されないと考えているようだ。
だが、啓二の言葉で空気が変わる。
「ウルだったな? さっき、変わる魔力を使えばいいと言っていなかったか?」
召喚者達はウルに視線を向けていた。何か情報を持っているように匂わせていたことから、何か知っているのだろう。
「ん、ああ。言ったな。魔王の魔力を使って、元の世界に帰ろうとしていたんだろ?」
「そうだ。何か方法を知っているのか?」
「ただ魔王と同等の生き物から魔力を抜き取ればいいだけだろ? 私はそれが何処にいるか知っている」
「本当か!?」
ウルの言っていたことが本当のことなら、魔王の代わりになる魔力を持つ生き物が何処かにいる。それをウルが知っている。
「ただで教えてやらない。それはわかるよな?」
「む、停戦休戦と協力を受けろということか?」
「はい、召喚者達には悪くない提案でしょう?」
「確かに……」
「で、でも、信じられるの?」
召喚者達には美味しい提案だと思えるが、やはり敵だったことに不安や疑惑もある。
だが、それらを拭き払ったのは意外にも輪廻だった。
「大丈夫だ。アイツは嘘を言ってない。こっちを惑わしたいなら、それらしい嘘を付くだろうな。そして、アイツも玲子の奴らに恨みがあるから、協力態勢を取っても問題はないぞ」
「輪廻君……うん、輪廻君がそう言うならいいよ」
「はっ、輪廻が言うなら大丈夫だろう。お前らもいいだろうな!?」
「「「おう!」」」
召喚者達は停戦休戦と協力を受けることに賛成し始めた。だが、冒険者達はやはり反対を挙げる者が多い。
ガラードはこっちに損はなく、戦力が増えるのは助かると考えていたが、反対している冒険者を無理に押さえつけるのは悪手だと思っていた。
ウルが持っている情報は召喚者達には有用だが、冒険者には得がない。冒険者は自分に利益がなければ、戦ってくれないのが多い。どうすれば、冒険者をやる気にさせて、協力出来るか考えていた………と、その時にディオが手を挙げて注目させていた。
「先程のは召喚者達には有用ですが、冒険者達にはこちらが停戦休戦と協力を受けて、利益が薄いのは確かですね?」
「あぁ、そうだが……」
「では、東の地にある魔王城には、溜め込まれた財宝が大量あります。私達には必要ない物なので、停戦休戦と協力を受けて頂けるなら、好きなのだけ持っていっても構いません」
「マジか!?」
「財宝が……」
「いや、東の地にだろ? 取りに行けと言うのか?」
「いえ、ここに宝庫室があれば、私が全てを移して置きましょう。仕分けは彼方の王にお任せしましょう」
「「「おおおおおっ!!」」」
財宝を貰えることから、冒険者全員から喜びの雄叫びを上げていた。さっきまでの不安、疑惑は何処に行ったのかと言いたいぐらいの喜びだった。その中、輪廻が気になったことを聞いていた。
「なぁ、ここまで利益の話をしていたが、気になることがあるんだが?」
「なんでしょうか? 協力すると決めたには、隠すことはありません」
「そうか。ウルは敵討ちの理由があるが、ディオはどうだ? こっちと協力して、ディオに得はあるのか?」
「成る程。確かに、利益は余り無いですね。ーーそうですね、私は元からウル様とイア様の部下でした。魔王亡きの今も部下として動いていますが」
「むふ、それで?」
「私は研究さえ、出来れば他に何もいりません。今回も、研究を出来る場所を貸して頂けるだけでも充分です。私がウル様とイア様の部下に付いていたのは、研究材料を集めて頂いていたのが理由ですね。ウル様とイア様に集められない材料は無かったので、研究も捗っていました。召喚者にも研究が好きな人がいるとか……」
「言いたいことがわかってきたぞ。人間側にも研究所を置きたいわけか。更に、研究に関わっている召喚者を紹介して欲しいと」
「はい。研究は主に戦闘で使えるような物を作ることになりますね。そちらも『ロスディ・クリア』に対する武器に、対魔物用の武器が出来ることで街を守ることに繋がります」
人間側にもどれくらいの利益が出るか、上手く話をしてガラード達に有用さを知って貰う。
ガラードは顎に手を寄せて、考え込む。メリットとデメリットを秤に掛け…………
「わかった。研究所の場所はこっちで決めさせて貰えるなら、構わない」
「はい。街から離れていなければ、外側でも大丈夫なので」
「あぁ、結界のこともあるから、外側になるかもしれないが、宜しく頼む」
ようやく停戦休戦を結び、協力も決まった。詳細はまたあとで話すとして、啓二が動く。
「ウル、代わりになる奴は誰で何処にいる?」
「慌てんなよ。場所はハッキリしているし、むしろ心配なのは、お前らで勝てるかだ。輪廻は別件で動くんだろ?」
「あ、そうだったな。魔力を手に入れるなら、倒さないと駄目だな」
「ケイたん。もし、いい奴だったら勘弁だけど……」
「あー、その可能性もあるね」
その魔力を持つ相手が良い人だったら、どうしようと悩む啓二パーティ。ウルはニヤッと笑って、その者のことを教えていた。
「安心しろよ、封印されてしまう程の悪人だ。そいつの名はーーーー精霊王ファステア。全ての精霊を司る敵だ」
精霊王、その名が出たことに皆が驚く。前に、歴史の勉強を受けていた時に出た記憶があるのだからーーーー




