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第百六十六話 暴走

はい、続きをどうぞ!

 


 森へ落ちていくメガロモスを見て、セイオリック天聖国にいた人々は勝ち鬨を上げた。輪廻を害しようとしていた冒険者もそうだった。


「や、やりやがった……、アイツが勝ったぞぉぉぉッ!!」

「まぢか!? あの子供が……」

「……勝ったのはいいが、あの子供は大丈夫なのか? あんな姿、スキルでなったとしても、元に戻れるのか?」


 冒険者達の中で左腕を無くしているアドラーだけは嫌な予感を感じていた。現場に残っている啓二達と同じ考えを浮かべていた…………







「勝ったのはいいが……、大丈夫なのか?」

「いえ……、大丈夫じゃないでしょう。問題は解決してないのですから」


 輪廻があんな姿になった問題は、テミアが死んだことにある。仇を取るために邪神の力を受け入れたわけではなく、殺されたから邪神の力を無理矢理に身体へ侵食させたと言う問題からメガロモスを倒しただけで、輪廻の心情が収まるとは思えなかったのだ。

 案の定に、メガロモスを倒したのに輪廻は元の姿に戻ろうとはしなかった…………いや、戻れないかもしれない。


「アァァァ、テミアァァァァァァ!!」


 小さな邪神になった輪廻は元の姿にに戻るどころか、雄叫びを上げて周りへ攻撃し始めたのだった。

 黒い翼から小さな”黒槌衝氣”を大量に生み出して周りに放った。メガロモスに放ったのより小さくても、大きなクレーターが出来る程の威力があった。


「うわっ、もっと離れないと!」

「り、輪廻君!!」

「絢! 行っては駄目よ!! 今の輪廻はこっちを気に掛けてないわ!!」

「で、でも! 輪廻君を放っていけないわ!!」

「止めとけ! お前に何が出来る!? 輪廻にこれ以上の心の傷を増やすつもりか!!」

「ッ、このままでは輪廻君が……」


 もし輪廻が自分の手で仲間を殺したと知れば、どう思うかはあの姿を見れば理解出来るだろう。絢は暴走し始めた輪廻を止めに行きたかったが、そのまま策もなしで行けば殺されるだけだろう。




「テミアガいなイ世カイは嫌ダァァァァァ!!」

「輪廻君……」




 輪廻は強く、大人よりも大人らしい人間だが、まだ12歳の子供なのだ。皆は暴走していると言うが、絢には子供が泣きながら暴れているようにしか見えなかった。そんな子供には誰かの温もりが必要なのに、危ないという理由だけで側に行けないのが悔しくて堪らなかった。

 誰でもいいから、泣き叫ぶ子供を助けてあげてほしいと絢は涙を流す。

 その願いが聞こえたのか、輪廻の元へ向かう人がいた。その人はーーーー


「落ち着け! これ以上は涙を流す必要はない!!」

「泣かないで!! 私達が行くから!!」


 輪廻と一緒に旅をしてきたルフェアとシエルだった。衝撃波で地上が乱れる中を避けながら走っていく姿があった。小さな”黒槌衝氣”には『破壊』の力が込められておらず、強い衝撃波があるだけの技になっていたので、衝撃波を浴びても無事だった。


「直撃を貰うなよ!!」

「わ、わかっていますよ!!」


 ただの衝撃波になっていても、威力は高いままなので不死身に近い存在であるルフェアはともかく、シエルには危険な攻撃なのは間違いない。直撃だけは避けつつ、宙に浮いている輪廻の足元へ着く事が出来た。

 着いたからって、何が出来るのか。普通はそう思うだろうが、ルフェアとシエルには対策があった。

 自分達で準備した対策ではないが…………


「効くかわからんが、他に方法はない! シエル、覚悟はよいのぉ!?」

「大丈夫! 失敗しても、一緒に死ぬ覚悟はあるわ!!」


 これからやろうとしていることは、安全か危険なのかも全くわからない事で、使ったら死ぬかもしれないような代物である。

 ルフェアは懐から1本の鎖が現れる。この鎖はもしもの時に使えと、ガーゴイルから預かった物である。

 ガーゴイルから預かった鎖、『封神羅鎖』は邪神の力を封じる力があり、輪廻がいない時にガーゴイルがルフェアに接触した時に預けられた代物である。

 何故、ガーゴイルがそんなものをルフェアに渡したのかは不明だが、もしもの時に使えるように持っていたのだ。まさか、使う機会がすぐに来るとは思わなかったが、今の状況に使える手札だったのはありがたいと思っていた。


「クレア! 周りに敵はいないな!?」

「大丈夫よ~」


 これからやる事は、輪廻、ルフェア、シエルが無防備になってしまうのでクレアには周りに魔物や魔人がいないか確かめて貰っていた。

 これで準備が終わり、ルフェアは手に持っていた『封神羅鎖』を発動した。

『封神羅鎖』が黄金色に光り出して、1本から大量の数に増えて輪廻へ絡みついた。


「ッ! ガ、ガァァァァァ!!」

「少年、耐えて!! グゥゥゥゥゥゥゥゥ」

「こ、これはキツイのぅ……」


 絡みついて力を封じようとする輪廻だけではなく、鎖を掴んでいる2人も苦痛に顔を歪めていた。普通の痛みとは違い、身体からではなく魂からの痛みが2人の顔を歪めさせる。


「くぅっ、生命力と魔力が必要だと聞いたが、これだけの苦痛に襲われるのは聞いてないぞ……」

「し、少年! 私も頑張るから、頑張って!! 邪神の力なんかには負けないでぇぇぇぇぇ!!」


 2人だけではなく、輪廻も苦しそうに呻いていた。ただ、テミアと呻くだけで邪神の力が収まる気配を見せなかった。

 当の輪廻が邪神の力を拒絶しておらず、ただ諦めたように邪神の力を受け入れているため、『封神羅鎖』の効力が薄まっていた。

 テミアがいない世界には興味がないと言うように……


「う、うぅっ……」

「このままでは……」


 シエルは悲しかった。痛みは苦しいが、それ以上に輪廻の悲しみがダイレクトに伝わってしまい、心が折れそうになっていた。ルフェアも不死身に近い存在といえ、生命力と魔力は無限ではない。

 2人が倒れてしまえば、輪廻を助ける方法はない。だが、限界が近付いて膝を地面に付けて意識も朦朧してきたーーーー




「え?」

「む?」


 急に負担が軽くなり、訝しむ2人だったが、周りを見ると啓二達が鎖を掴んでいるのが見えた。


「ぐぅぅぅ!! これを掴むだけでいいんだな!?」

「輪廻君は、絶対に、助けるんだから!!」

「ケイたんがやるなら、自分もやらないとな……」

「キャァァァ、吸われるぅぅぅ!」

「も、もう……キツイわね。絢が頑張っているんだから、輪廻君もこっちに気にしなさいよ!!」

「うおぉぉぉぉぉ!! 俺のなら好きのだけ持って行きやがれ!!」


 攻撃が無くなった時から、皆も輪廻の足元まで走って集まっていた。全員が輪廻を助けるために。




「ガ、あぁぁ…………」




 邪神の力であった黒い魔力が小さくなって、翼やツノも消えていっているが、完全に封じられているわけでもなかった。

 やはり、輪廻の心情が鍵になっている。輪廻が邪神の力を拒絶しない限りは周りが頑張っても無駄だろう。皆が声を上げて、輪廻を呼びかけるが………、まだ輪廻の心は殻に閉じこもったままだ。

 このままでは、先にルフェア達が倒れるーーーーはずだった。




 輪廻の意識にある声が聞こえるまでは。










『御主人様……』

「!?」




 輪廻にはその声は聞き覚えがありすぎた。だが、それと同時にあり得ないと思った。だが…………




『御主人様、聞こえますか?』




 死んだ筈だった、テミアの声がハッキリと輪廻へ伝わった。その声は念話で意識へ伝わっていく。




『私はいつでも御主人様のお側におります……』

「て、テミア……」

『邪神の力なんかに支配されないで。いつでも、御主人様は私の道です。だから、負けないで……』


 幻なのか、テミアの輪郭が朧げに輪廻の姿に映った。その姿は輪廻を受け入れるような体勢で包んでいた。

 それに暖かさがあり、本当に生きているような感触を感じた。


『私だけではありません。足元には仲間もいます……』


 その声でようやくルフェア達が自分を助けようとしていることに気付いた。暖かい温もりを感じ、皆が助けようと頑張っていることに、瞳から涙が溢れた。




「み、皆……、ありがとう……」

『私はいつもの御主人様になって、会えるのを待っています』


 輪廻はもうテミアがいないのは知っている。だが、その言葉に嘘はないと理解出来た。いつでもお側に控えているだろうと信じられた。




「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! この力で仲間を傷付けるにはいかないんだぁぁぁぁぁ!!」


 仲間が待っており、テミアも自分を信じている。だったら、輪廻が邪神の力程度に負けるにはいかない。自分で身体に秘められている邪神の力を抑えようと力を込めていく。

『封神羅鎖』の助けもあり、自分の心は元の自分に戻ろうとしている。仲間と一緒に生きたいと言う気持ちが邪神の力を上回って行きーーーー




 輪廻に絡みついていた鎖が一気に砕けていき、黒い魔力は全て輪廻の内へ収まっていった。輪廻は自分の姿を取り戻したのだった…………









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