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第百五十八話 勇者の心

はい、続きです!

今回は勇者のターンですっ!

 



「はぁ、はぁはぁっ…………ッ!?」




 戦場から逃げ出した勇者、英二は足元が木の根っこに引っかかって転んでしまう。受け身を上手く取れず、手に持っていた剣を手放して、泥まみれになっていた。






「……もう、嫌だぁ、嫌だ嫌だ嫌だ!! 帰りたい…………」


 英二は涙を流していた。鬼に殺されそうになっても、涙を流すだけは耐えていたが、今はみっともない顔で涙を流していた。




「なんでだよ!! なんで、僕が戦わなければならないんだよぉぉぉぉぉ!!」


 自分から魔王を倒すのを手伝うと言っていながら、自分は友を見捨てて、戦場から逃げ出した。

 その罪悪感を感じる以上に、敵の強さに恐怖が湧き上がるのを止められないでいた。

 英二には信じられなかった。前までは同じただの高校生だった友は、諦めずに戦場で戦っている。自分よりも若い輪廻も凶悪な敵に自分から向かっていく。輪廻の女達も撤退のことを考えず、輪廻のことを信じている…………




「うっ、ううぅぅぅ…………、なんで、強い、強いんだよ…………」


 皆の心が強いことが羨ましかった。だが、英二は無敵に近いメガロモスを前にして、心はボッキリと折られてしまった。英二はただ皆と無事な姿で元の世界へ帰りたいと思いーーーー今迄、頑張ってきた。


 だが、魔王を倒す目標だったが、今はなんだ?

 仲間だった筈の玲子が裏切り、魔王よりも厄介な敵、メガロモスが生まれて……、それだけではなく、邪神と言う存在もある。

 それらの存在が、英二にとっては人間が出来る範囲を超えていて、なんとか出来るとは思えなかった。そんな化け物相手に、自分は何か出来ることがあるとは思えない。




「そんなことになるんだったら、お城で篭っていた方が、良かった……!」


 英二はもう戦える心情ではなかった。だが、そんな英二に近付く者がいた。




 ゴガァァガァァ!!

「ッ!?」


 声が聞こえた方向へ眼を向けてみると、一体の魔物がいた。Aランクの魔物で、見た目は熊で腹には大きな口が開かれていた。

 英二にしたら、Aランクの魔物程度なら一人で倒せる敵だったが…………


 今の英二は心を折られて、敵は恐怖を煽るような姿だったことが駄目だった。




「ひぃっ!?」




 英二は近くに剣があったことを忘れ、腰を落としたまま後ろに下がって、魔物から離れようとする。

 英二には、腹にある大きな口が自分を喰おうとしているようにしか見えず、身体を震わせていた。その挙動が魔物に余裕を持たせてしまう。

 この時点で、獲物が誰なのか、ハッキリと決まってしまう。




「グルォァァアァァァ!!」

「嫌だ! 誰か、助けてくれぇぇぇぇぇ!!」


 英二は魔法で倒すことも忘れ、恐怖で怯えて叫ぶしか出来なかった。都合良く、英二の近くに仲間か友がいて助けに来てくれるーーーーそんなことはあり得ない。仲間や友は遠くの戦場で戦っており、友を見捨てて逃げ出した英二を追い掛ける者はいない。




 英二の命は此処までかーーーー











 と思われたが、倒れたのは熊の方だった。




「…………え?」


 英二の目の前に倒れた熊は上半身と下半身が別れて、息絶えていた。英二は自分でやったことではないことだけは理解していたが、何が起きたのか理解は出来ていなかった。

 森の暗闇から影が現れるのが見えた英二は警戒していたが、腰が抜けていて立ち上がれていなかった。

 暗闇の中から現れたのは、大きなフードに変な仮面を被っていた者で、その姿に英二は見覚えがあった。




「お、お前は……玲子と一緒にいた……」

「そうだ~。何? 助けてやったのに、お礼一つも無いかい?」

「お礼だと……」


 よく見ると、お面を被った者は長い剣を持っていた。そこから、血が垂れていることから、熊を斬ったのはこの人だとわかった。

 しかし、裏切った玲子の仲間に助けられても、絶体絶命なのは代わりにはないのでお礼は言えなかった。




「ふーん、臆病者になっちゃったね。勇者の肩書きが泣くよ?」

「ッ! ゆ、勇者がなんだよ!! あんな、化け物を呼び出して、なんだよぉぉぉ!! あんなの、相手にしていられるかよ!! 俺は帰りたいんだよ!!」


 英二は八つ当たり気味に泣き叫びながら地面に俯いていた。その様子を見た仮面を被った者はーーーー




「帰りたいか。なら、方法はあるが?」

「なっ!?」

「知りたいんだよね? なら、一緒に来るなら教えるけど?」


 英二は目の前にいる奇妙な人が元の世界へ帰れる方法を知っている。だが、一緒に来いと言われても信用は全く出来なかった。当たり前だろう、帰る方法は一応、英二も知っている。だが、それは今の時点では不可能なのは、英二もわかる。

 だが、希望の光が一筋しか無かろうとも、捨て切れる程に英二は強くはなかった。




「俺が知っている帰る方法は、君が知っているのと違うよ? 純質が高い魔力がなくたって、君だけなら帰る方法はあるさ」

「…………ッ、こ、根拠は!」

「ふふっ、いいよ。見せてあげよう」


 仮面の者はそう言って、自分の仮面を外し始めた。その者の顔を見た英二は眼を大きく見開いて驚愕していた。




「お、お前は……」

「ふふっ、冷静だったら声でわかっていただろうな。これが、根拠だ。信じてくれたかな? 一緒に来てくれるだろうな?」

「…………」


 英二は元より、仲間や友を見捨てて逃げ出したのだ。一人だけでティミネス王国へ帰っても、元の世界へ帰れないだろうし、何よりも周りの眼が怖い。




 勇者が仲間を見捨てて、逃げ出した臆病者だと見下げ果てられる。


 そんな眼で向けられるのが怖い。だったら、目の前の仮面を被った者を信じてついて行くか?

 確かな根拠を見せてくれたのだから、ティミネス王国より元の世界へ帰れる可能性がある。もう心が折れて弱くなった英二は正常な選択が出来ないでいた。




「……わかった。着いて行く」

「ふふっ、良い選択をしたと思うよ。必ず、君を元の世界へ帰してあげよう」






 英二がその手を取ってしまったことで、世界の波乱から逃げられなくなった。ティミネス王国へ逃げ出すよりも苦痛で愚かな選択をしたことに気付くのは、そう遠くはないのだったーーーー








これからどうなるのか?

続きをお楽しみに!!

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