第百五十三話 天冥覇王
はい、続きをどうぞ!
「邪神の力の一部と? たった今、そう言いましたか?」
ザウルアスは疑いの眼で聞いてきた。邪神の力と言われても、すぐに信じられないだろう。
確かに、今の輪廻は凄さ増しい魔力を放っておらず、ただ黒い魔力が輪廻を纏まっているだけで、見ている方からは不気味にしか思えないだろう。
「私の本能が脅威だと鳴らしてはいない。その程度で邪神の力だと言うのは笑止」
輪廻が何かをしたから、さっきよりは強くなっているかもしれないが、本能が脅威だと警告を鳴らすこともないことから、まだ自分の方が強いとザウルアスは判断していた。
如何にも、姿を変えようとも負けることはないと、自分の実力を信じているようだ。
そんな判定をされた、当の輪廻は黙って話を聞いていたが…………
「そうか、お前はそこまでの域に達してないか。なら、そう判断されても仕方がないな」
「何?」
輪廻は自分の実力を全く理解されなかったことに溜息を吐いていた。目の前にいるザウルアスは『最終形態』で、輪廻が言うように域に達せていたなら、理解は出来ていただろう。
域とは何なのかと疑問が浮かぶザウルアスだが、もう長々と話をすることに飽きていた。
「もういい。姿が変わっていようが、私の敵ではない」
また黄金に光る角が、輪廻に向かって高速のスピードで襲いかかった。それを輪廻はーーーー何もせずに身体で受けていた。
「馬鹿ですか? 何もせずに動かないとはーーーー「それで?」……は?」
砂煙が晴れる中には、無傷の輪廻が立っていた。間違いなく、当たったのに一つも傷がなかったことに呆気に取られるザウルアスだったが、すぐに次の手を放っていた。
何十本に分けていた角を一つに纏めて、押し潰そうと上から振り下ろしていた。
だが、それにも輪廻は動かない。そのまま、頭を潰しそうな勢いだったがーーーー
バキッ、バキバキバキバキ…………
壊れる擬音が鳴ったが、壊れたのはーーーー
「な、何だと…………、私の角がぁぁぁぁぁ!!」
壊れたのは、ザウルアスの角だった。黄金の角はバラバラに砕かれて、根元近くまで消え去っていた。
「これでわかっただろう? この程度で邪神の破壊を通過出来ると思うなよ?」
輪廻の”天冥覇王”は、重力や大気などの魔法効果ではなく、特異魔法に生まれた異質な魔法。邪神の力が込められた異質な魔法、それが”天冥覇王”だ。
その効果は、邪神の根源である『破壊』にある。魔法や武器での攻撃であっても、輪廻へ到達する前に破壊されてしまう。他にーーーー
「黒い魔力が……?」
「ただ黒いだけじゃないぞ」
輪廻から溢れ出た黒い魔力が片方しかない羽へ集まっていく。その羽が黒い魔力に纏まり終えた瞬間に、ザウルアスは無意識なのか、咄嗟に左へ転がっていた。
その行動は正しかったようで、ザウルアスの横を黒い線が通り抜けた。それに遅れて、余波の衝撃がザウルアスの身体を打ち付ける。
「ウガァッ、見えなかっただと……、何をしたんだ!?」
「戦いで聞かれたら答える馬鹿がいるかよ」
輪廻がやったことは黒い羽を発射口として、レーザーのように黒い魔力を撃ち出しただけだ。
その威力は地面に深さ数十メートルを削って、その線が向こうまで切り裂いていた。もし、そのまま受けていたら『破壊』の性質がザウルアスの身体を分解しながら、地面のように真っ二つになっていただろう。
「う、ウオォォォォーーーーッ
!!」
「む、腕の形が変わっていく? …………近接戦か」
腕が膨らんだかと思えば、両手の甲に頑丈そうな黄金の角のような物が現れた。
「私の角を壊したからと言っても、私の実力を出し切ったわけでもない!! さぁ、これを受けてみろ!!」
輪廻が想像していた通りに、両手の甲に出来たものは近接戦に使うようで、凄さ増しいスピードを以ってラッシュを仕掛けてきた。
「ハァァァァァァーーーー!!」
輪廻は先程みたいに『破壊』の魔力を纏うだけで防げるし、そのまま自滅をしてくれるだろう。だが、輪廻はその手を選ばずにーーーー
「お前、腕が無いぞ?」
「…………え?」
輪廻に言われて、ザウルアスはようやく気付いたようだ。
腕が斬り落とされていることに。
「は、速すぎる……」
「抜き身さえもかい?」
今の輪廻は腕を切り裂くような刃物を持ってはいない。すでに、空間指輪の中へ仕舞われている。
輪廻はただ、ザウルアスに見抜けない程のスピードでカオディスアを振るって空間指輪へ戻しただけなのだ。
「なんで、本能が働かない……、恐怖を感じるのに、本能が警鐘を鳴らさない!?」
「そりゃぁ、恐怖は斬られたからだろう。本能は相手の力量を理解出来ていなかったら、意味がないんだろうな」
少しずつ、ザウルアスの身体がずれて行く。
「一体、何者だ……」
「俺はただの暗殺者だ。邪神に気に入られているがな」
「なんだそりゃ、理解、出来ねぇ……」
この瞬間、ザウルアスの身体がバラバラになった。腕だけではなく、既に身体も斬り裂いていた。斬られたことにすぐ気付かなかったザウルアスだったが、たった今に最後の蟲人が死んだのだった…………
「理解されなくても構わん。さて、最後はあの蟲だけか」
輪廻の眼には、既に繭として完成したメガロモスの姿が写るのだった。




