第百四十六話 巨大な蟲王
はい、お待たせました!
今、書き上げたのですぐに載せましたので、どうぞー。
玲子が封印を壊したことに、紅い月が樹霊杖の元へ落ちてこようとしていた。
「さぁ、魔王とは違う王よ。目覚めて破壊を振り撒きなさい!!」
「死ね、”虚冥”!!」
「やらせるか、テメェ!」
皆が紅い月に意識を向けられている中、輪廻とウルだけは玲子の前まで突撃していた。輪廻は幾つかの”虚冥”を、ウルはゲイボルグを突き出そうとしていた。
啓二から見たら、避けられないと思っていた。近距離から破壊力が高い魔法に神速に近い槍の突きが玲子へただ一人へ向けられているのだから。
だが、玲子は全く動かずに余裕の笑みを浮かべていた。虚冥による爆発が起きると思われたが…………
フードを隠している者の一人が虚めを顔部分へ吸収し、ゲイボルグの突きは『暴竜』のファムドが大太刀で防いでいた。
「なっ、ゲイボルグを止めただと!?」
「ち、面倒な相手を従えているな」
「羨ましい? あげないよー(笑)」
攻撃を止められて、玲子に反撃を受けた。時空の爆発が二人に向かって襲おうとしたが、輪廻がハクを盾にしたから無傷。しかし、爆発の衝撃で距離を取らされてしまった。
「アルト、後は任せたわよ」
「ハイ、カシコマリマシタ」
玲子はアルトに樹霊杖を渡して、歪みをこじ開けることによって、別の場所へ通じる時空のトビラを作り出した。
振り返りもせずにアルトを残したまま、姿を消してしまった。
「ち、逃したか!!」
「何処に行きやがったぁぁぁぁぁ!!」
姿や完全に魔力が消えたことから、ここら辺にはいないのがわかる。
「ウル! 叫んでいる暇があったらこっちに来い! 月を壊すことに集中するぞ!」
「わ、わかったよ! あれは流石にヤベェのはわかる!!」
輪廻とウルはすぐ追いかけるのを諦めて、落ちてくる紅い月をなんとかすることに決めた。
アルトが持っている杖が封印を解くキーになっているといえ、破壊したら落ち続けている月が止まるとは思えない。王の封印とかまだはっきりとわからないが、紅い月を止めないと被害が大きくなるのはわかっている。
二人が皆が月を破壊しようと魔法を放っている中に合流する。輪廻が知らない冒険者もいて、ウルがいることにギョッとして武器を向ける者もいた。
「やめとけ! 武器を向ける暇があれば月に魔法を放ち続けろ!! アレが落ちたら人間、魔族も関係なく死ぬことがわからないのか!?」
止めたのは啓二だった。確かに、人間と魔族が争っている場合でもないので、冒険者達はウルに警戒の目を向けつつ、魔法を放ち始めた。
「輪廻! 手はないのか!?」
「英二! 輪廻だけで片付けられる問題でもないのに、頼っていて恥ずかしいとは思わないか!?」
「うっ……」
「輪廻君……」
絢も輪廻ならなんとかしてくれるのでは? と思ったが、テミアと目が合い…………
『危険が立ち寄られただけで、御主人様に助けてもらおうと思うなら、一緒にいるのは諦めるがいい』
と言われているような錯覚を感じ、口を紡ぐんだ。確かに、輪廻に頼ってばかりじゃ、一緒にいる資格はない。そんなのは、ただの荷物と変わらないのだから…………
「英…………いや、啓二。お前らや冒険者だけで、月を止められるか? 少しだけでも場所をずらせば、被害は減るはずだ」
初めは一応、勇者である英二に話しかけようとしたが、英二の表情を見て…………止めた。
頼み事をするには、英二では何かが足りなく頼りになれないと感じたからだ。
「む、輪廻はーーーーなるほど。玲子の奴が言っていた王が気になるんだな」
「あぁ。だから、俺達は手を出さずに魔力を温存しておきたい」
「あなたの言う通りだ。後のことを考えれば、温存するのもいいだろう。それに、あの月は見た目通りに巨大ではない」
「どういう意味だ?」
ルフェアだけは、『真実の瞳』を持っており、月ではない別のものが見えていた。
落ちてきている月は、ここにいる者だけではなく、遠くにあるセイオリック天聖国の全てを飲み込みそうな程に大きく見える。
だが、ルフェアによると大きさはここを巨大なクレーターを作るぐらいしかなく、ここに落ちてもセイオリック天聖国には大きな被害はないと言う。
「だが、止めないと俺達は死ぬのは変わりはないだろ! なら、止めるどころか押し返してやる!!」
「狙うなら、月の中心を狙え。そこが、幻の月を纏う本体がある」
「ああ! 皆も聞いたな!? おい、こら。冒険者共もわかったな? 中心を狙わなかったら死ぬのは此方なのはわかってんだよな? 止められたら、輪廻ごとイアをやろうとしたことは忘れてやる。わかったら、死ぬ気で魔力を全開で使い果たすぐらいに放ちやがれぇぇぇ!!」
啓二は周りに良く渡り響く程の音量で、発破を掛ける。失敗したら死ぬと! 生き残りたいなら、死ぬ気で魔法を放てと!
輪廻達を除いた人達が、全力で魔法を放つ。魔力がなくなるまで月を押し返そうと魔法の放流を続ける。
だが、月はビクともしないで真っ直ぐこっちへ落ちてこようとしていた。
「ぐぅぅぅぅぅーーーー!! 止まらねぇ!!」
「ほ、本当に月が幻なの!? 本物の月がこっちに向かっているようにしか見えないわよ!!」
「ウォォォォォーー!! グギィィィィィ!?」
皆が歯を食いしばって、魔法を放つがまだまだ威力が足りないでいた。
輪廻はそれでは、自分達も巻き添えで終わってしまうなと思い、手伝おうと思ったら、先に前へ出た者がいた。
「情けねぇな!! 少しだけ力を貸してやる!!」
前に出たのは、ウルだった。ウルの特異魔法は、様々な物や現象を強化させることが出来る支援タイプの魔法なのだ。
「全ての魔法を強化させれば、押し込むぐらいは出来んだろ! ”魔豪昇格”!!」
ウルの魔法が人々に纏わり付き、放っていた魔法が数倍に強化されていく。
ウルの魔法が全員に行き渡っていた時は既に月の勢いが無くなっていて、少しずつ押し返していた。
啓二は今が勢いを乗せるときだと感じ取り、全ての強化スキルを発動した。
「おっしゃぁぁぁぁぁ!! 全ての力を搾り出せぇぇぇぇ!!」
ついに、纏まっていた月の幻が消えて、その中心にあった物が見えるようになった。だが、それは数秒だけだった。すぐに落ちたため、その姿はハッキリとしなかった。
「丸い卵……?」
輪廻には数秒があれば、その姿が何なのかわかった。その姿は、直径二十メートルはありそうな丸い卵のように見えたのだ。
その丸い卵は、皆がいる場所から離れており、被害は地震にあったぐらいで済んだ。
「なんだ、丸い奴はぁ?」
「俺には卵に見えたが…………」
「はい、私も卵のように見えました」
「だけど、卵だとしてもデカすぎない…………?」
「む? 大きいな。あれを紅い月として封印した王……、何処かで聞いたような……?」
ルフェアは大きい卵が紅い月に封印された話を何処かで聞いたような気がした。
何処かで……………と思い出そうとしたら、頭の中に雷が迸り、背筋が凍るような感触を味わった。
「や、ヤバイ!! あ、あれは伝説の話じゃなかったのか!?」
「ルフェア、どうした?」
いきなり、ルフェアが冷や汗をかいて危険を知らせてきたのだから驚いた。あのルフェアがそこまで冷や汗をかくとは只事ではないのはわかる。
そして、今まで静かだった卵が息を吹き返したように動き始めた。
「皆!! 誰か、封印出来る魔法や魔道具はないのか!? あれは、この世に復活していい存在ではない!!」
「ルフェア! 落ち着け!!」
輪廻から喝を入られて、ルフェアは落ち着き始めた。ルフェアの言葉に答えられる者はいなかった。
つまり、封印出来る魔法や魔道具がないということ…………
「あれは、今から3000年前に封印された王。現世に生きてはいけない存在と決められた王」
今から3000年前、そのゼアスは今と違って地獄だった。
その地獄を生み出したのが、その王なのだ。その王は、生命と死を振りまく。
強すぎる生命は毒となり、死は現世にある全てを死に至らせる。そんな王が生まれてしまったことに、神はゼアスの将来に危惧して、神本人が封印した。
それが、空に浮かぶ紅い月としての物語。その伝説は、今では余り残っていなかったが…………
たった、今に生まれようとしていた。
卵の殻を破り、白い芋虫みたいのが現れる。その瞬間、この場にいた全員が死を幻視させられた。
「っ、アレが生命と死を司る蟲の王…………」
いつものルフェアから想像出来ないぐらいに震えた声が出て、ついにその名が明かされた。
『メガロモス』と。
新たな王が現れました。
その後はどうなるのか?
消えた玲子は何処に行ったのか?
召喚者は前の世界へ帰れるのか?
神が封印した、最悪な王をどう倒すのか?
続きをお楽しみに!




