異世界に召喚された暗殺者の少年

第百四十五話 ロスディ・クリア

いつもの時間に間に合わなかったけど、続きが出来たので、どうぞ！！

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　魔王に従っていた魔物を既に倒したか、魔王が死んだことによって逃げ去ったからなのか、啓二達とその手助けをしていたエリスも輪廻達の元へ集まっていた。

　そこで、啓二達は玲子がいることに気付いた。

「……何があった？」

　だが、戦況が読めていなかった。敵であるはずのウルが輪廻側にいて、玲子の手には首が垂れ下がっていて周りには強者だとわかる面が並んでいた。

　それに……輪廻が玲子に向かって殺気を放って睨んでいたのだ。

「玲子！？ 何も連絡をせずに出て行って、今まで何をしていたんだ！？」

　英二も玲子に気付き、今まで黙っていなくなったことを糾弾していた。絢、晴海、喜一も心配していたなど、玲子に向かって叫んでいたが…………

「煩いわね。いつまでもクラスメイトのつもりなの？ さっさと黙ってくれないかしら？」

「なっ……！？」

　玲子の冷たい反応に絶句してしまう英二達。啓二はそんなことよりも、玲子のパーティメンバーが見えないことに訝しんでいた。

「……聞くが、お前のパーティメンバーは何処かで待機とかしてるのか？」

「馬鹿っね。あんなゴミは弱いから死んだわ」

「お前！ まさか！？」

　魔物や魔人にやられたなら、啓二はまだ納得出来たが、玲子の反応から察したのだ。その予感は玲子の口から発された。

「そうよ、私が殺した……いえ、殺しを命じたが正しいわね。ねっ、アルト」

「ハイ」

「貴様ぁぁぁぁぁ！！」

　クラスメイトの仲間を殺されたことに怒り、馬鹿正直に前進してしまう。そのまま、突っ込ませたら遠距離攻撃出来る玲子に殺されるのが目に見えている。だからーーーー

「ぐぇっ！？」

「御主人様からの命令で止めさせて貰います。というか、馬鹿正直に突っ込むなんて、自殺志望者なのですか？ 少しは足りない頭を冷やしなさいな」

「ぐぅぅぅ、畜生……」

　啓二は何も言い返せなかった。テミアが止めなかったらやられていた筈なのだから。

「あら、来ないのね。アルト、一人だけ殺して頂戴。明確な敵だと証明出来るように」

「ハッ」

　アルトに殺害を命じる。誰をと指示を出していないので、アルトが判断することになる。

「デハーー」

「なっ！？」

　アルトはさっきまで玲子の側にいたのに、今はウルの影から現れて、イアを掴んで泣き続けているウルを狙っていた。今のウルは兄であるイアが死んだことで、精神状態が最悪な状態になっていて、隙だらけだった。

　だから、アルトは一番殺しやすい敵としてウルを狙ったのだ。腕が刃物になっており、それで泣き崩れるウルを切り裂こうとしていたーーーー

　だが、そうはならなかった。

　輪廻がアルトの前に出て、ハクで防御をしていたからだ。

「やらせるにはいかないな。死ね」

　輪廻は発動してなかった、”死紋剣”でアルトに斬りつける。その黒い魔力を纏ったカオディスアは確実にアルトの胸を斬り裂いた。アルトは咄嗟に後ろへ下がったため、傷は浅い。

　だが、”死紋剣”を確実に刻み付けることは出来た。”死紋剣”は一撃必殺の剣で、掠っただけでも死を与える凶悪である。

「……む？ 中身がないな？」

　しかし、アルトは死の紋章を刻まれてもまだ生きていた…………いや、中身がなかったことから切ったのは鎧だけで本体には届いてなかったようだ。

「ふふっ、アルトはそう簡単に死ななんよ」

「チッ、ルフェア！ ここを暫く警戒してくれ！」

「わかったのぅ。で、輪廻は？」

「此奴に話がある」

　親指を差した先には、まだ泣き崩れるウルがいた。その態度で輪廻が何をするか理解したルフェアは了解と言って、輪廻達を守るように構える。

　これなら邪魔が入ることはないだろうと、気を抜いてからウルの前まで歩いた。

「輪廻！ 何を……」

　ドガッ！！

　英二から見たら、ウルはまだ敵だと思っている。無装備でウルの側に行こうとする輪廻を止めようと、声を掛けたが……言葉は最後まで言うことはなかった。

　輪廻が泣き崩れるウルを殴り飛ばしたからだ。

　兄の死に悲しんでいる女性を輪廻は躊躇もなく殴り飛ばしたことに、皆は驚愕していた。魔人だろうが、見た目は角が生えているだけの女の子にしか見えない。

　普通なら、そんな泣き崩れている女の子を殴ることに罪悪感が沸いてしまうだろう。

　殴られたウルは地面を転がり、殴られたことを理解して、輪廻をキッ！と睨んでいた。

「いっ、何をーーーー」

「貴様！！ イアの願いを無駄にするつもりか！！」

　さらに輪廻は追撃をして、殴られた反対の頬を更に殴った。それで、再び地面を転がる。

「この情けない姿を見せることが、死んだ兄に対することなのか？ 違うだろ！？」

「ぐ、」

「また雑魚相手に隙を見せてやるつもりなのか？ そして、死ぬつもりか？」

「ぐぅぅぅ、がぁぁぁぁぁ！」

「叫ぶしか出来んのか！？ 悔しいなら、イアを殺した奴らに挑め！！ それがイアへの手向けになると考えろ！！」

　ウルに様々な感情が渦巻く。悲しみ、怒り、憎しみ、情けないーーーー

　一番、大きい感情は情けないだった。兄を殺されたのに、死体に縋って泣くだけでもう自分の人生が終わったように感じられていた。

　だが、輪廻に殴られて説教されて、思い出したのだ。

　兄が残した一言を。

「死ぬな」

　それで諦めるにはまだ早いと、気付かされた。一瞬だけ顔を伏せて動きを止めたが、顔を上げたウルを見て、輪廻はもう大丈夫だと判断した。

　口に笑みを浮かべて、強い瞳を見せていた。

「殴ってくれたことは忘れてやる。だから……、アイツらを殺すの手伝ってくれ」

「ふん、初めからそのつもりだったからな。お前の力が必要だ」

　輪廻とウルは共通の敵である玲子達に向けて睨んでいた。玲子達は魔王を倒したことから高い実力を持っているのがわかる。だから、輪廻は少しでも戦力を増やそうと考えたのだ。

　実際に、こちら側で戦えるのはウルを抜ければ輪廻と啓二にルフェア、テミア、シエルだけだ。

　それに、向こう側の戦力が見えている敵だけではないかもしれないのだ。

「ふふっ、たった一人の戦力を立ち直らせただけで勝てると思っているのかしら？」

「その戦力がお前の思惑を挫くかもしれんぞ？ 舐めている暇があれば、掛かってこいよ？」

「挑発には乗らないわよ？ 私はこのゴミを殺すのに大分、魔力を使っちゃってるからね。今は、別の相手を用意してあげるから、せいぜい生き残ってよね？」

　玲子はそう言うと、魔王の首を持ち上げて右眼がある場所に手を添える。

「このゴミは、異世界へ渡ることが出来る程のエネルギーを持っているのは知っているわね？ そして、そのエネルギーが秘められている箇所がーーーー」

　ズルリッと血の糸を引いて、魔王の眼となる『魔覇眼』を取り出した。

「この眼がエネルギー結晶体になっているわ。この私が使わない手はないわよね？」

「っ！！ 止めろぉぉぉぉぉぉぉ！！」

　啓二は玲子が何をしようとしているか理解し、止めようと思ったが今から動いても間に合わない。

「紅き月に封印されの、もう一つの王よ。目覚めよ！！」

　玲子は『魔覇眼』を握りつぶして、反対の手に持つ杖へ魔力を注ぎ込む。この杖は、『樹霊杖』と呼ばれており、迷い森なる深い奥へ封印されていた杖だ。

　その機能とは、ある王を封印するための鍵となっており、今の玲子がやっているみたいに巨大な魔力を注ぎ込むことによって、封印を壊す。

「っ！ 紅い月が！？」

「こっちに動いている！？」

　上空には、地球と違って二つの月があった。一つ目は地球と変わらない普通の月だが、二つ目の月は何で出来ているのか、紅く彩る月がある。

　玲子が言う封印を解いたことで、杖がある場所へ向かって、ゆっくりと落ちてこようとしていたーーーー