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第百三十三話 母娘の死闘

 


 八体の水龍がエリスに向かっている時、エリスは打つ術がなく、死ぬと実感させられて眼を瞑っていた。これから来る暴虐な衝撃に盾にもなりえない腕を顔前へクロスとしていた。






 だが、いつまで経ってもその衝撃は地面が揺れただけで身体には押しつぶされるような衝撃や痛みが広がることはなかった。




「何が……?」


 ゆっくりと閉じていた眼を開けてみると、自分が何かに包まれているのがわかった。その包まれている何かは、攻撃が止んだことを理解するととぐろを巻いていた身体を動かしてエリスから離れた。




「え、白い蛇?」

『やられそうになっているじゃねえか』

「え、輪廻さん!?何処に……」

『これはハクを通じて、念話を送っている。俺はここにはいない』


 白い蛇はハクのことで、輪廻が念の為に小さくさせてエリスの側へ忍び込ませておいたのだ。危険な状況から助けられるように。




「何よ、その蛇は!?私の攻撃に無傷なんて……」

『煩いな、エリスはまだやれるな?』

「え、あ、はい」


 ハクから輪廻の念話が聞こえることに違和感を感じていたが、まだ敵がいる状況から、すぐに立ち直ってレイナを睨んでいた。




「輪廻さん、十秒だけ時間稼ぎを頼めますか?」

『何か手があるみてえだな。十秒と言わずに何分、何十分だろうがお前へ攻撃を通さねえよ』

「ありがとうございます」


 エリスはお礼を言ってから、今まで使っていた杖を空間指輪に戻して、一本のナイフを取り出した。そのナイフにレイナが気付いたように目を見開いていた。




「そのナイフは……」

「えぇ、ワンスディス家の家宝であり、お母様がお父様を刺したナイフでもあるわ……」


 近くにハクを通じて輪廻が話を聞いているからなのか、説明臭い口調になっていた。驚いたのは一瞬だけで、レイナは目を細めてシヴァに命令を下していた。




「貴女がそのナイフを持っていたことに驚いたけど、名もないナイフを今更取り出してどうしようと?シヴァ、邪魔をする蛇を消しなさい!!」


 レイナはワンスディス家の家宝だが、その正体は装飾が立派なただのナイフでしかないと知っている。だから、自分の夫を刺して放置していたのだ。何故、今更にそれを出すのかわからないがシヴァがハクごと押しつぶせば問題ないと判断した。


 シヴァは先程の八体の水龍を再度、作り出してから合体させた。一点に集中すればハクも耐えられないだろうと考えていた。合体させた時間は一秒も掛からなかった。

 エリスは巨大な水龍へなっていくのに、目をくれずにナイフを持って呪文みたいな言葉を呟いていた。まるで、完全に輪廻が操るハクが全てを防いでくれると信じているようだった。

 水龍は辺りの草原ごと、飲みこもうと口を大きく開けてハクとエリスへ向かった。




『巨大にしただけの水龍で迎え撃とうとするなんて、舐められたものだな。【反魔盾】!』


 ハクの守護能力の一つである【反魔盾】。名前に入っている通りに、盾でハクとエリスの姿を隠すような大きさだった。それでも、水龍の十分の一の大きさしかない。




「そんな盾で防げるとも!?」

『向こうには聞こえていないから、説明するより実際に見せてやろう。この盾の効果を!!』


 このままなら、盾ごと押しつぶせるとレイナは思っていた。もし無効化や反射されようが、この水量の全てに対応出来ないという自信はあった。だから、目の前で起こったことに驚きを隠せていなかった。






 盾に触れた瞬間に、同じ水龍が二倍の大きさとなって返ってきたのだから。




「っ!?」




 レイナは手を振るだけで、返された水龍は分解されて消え去った。もし、『水の恩恵』がなければレイナは確実に死んでいた。それ程の威力となって返されていたのだから。




「何が……?」


 まだ驚愕しているレイナだったが、すぐに冷静を取り戻して、数で攻めることにした。水で出来た大量の槍が回転を加えて、ランダムに飛び通う。




『わざわざ反射する必要はないな』


 ハクは自分の身体を持って、エリスに向かう槍だけを身に受けて守っていた。何回も受けようが、ハクの身体に傷一つも付かなかった。




「な、なんなのよ!?」


 レイナは攻撃が全く通じないことに怒りの叫び声を上げていた。何回も攻撃を加えても無傷だったら、どうしろと言いたくなるのも仕方がないだろう。


 輪廻の新しい力であるハクの能力は防御形態による守護能力であり、ハク自身も単なる威力が高いだけの技では壊れないぐらいの硬さを持つ。ちなみに、ハク自身はレイナの攻撃に無傷だったが、無敵ではない。ある条件の上で、防げただけなのだ。


 ハク自身は邪剣カオディスアがなければ顕現することは叶わない。ハクだけではなくアモンもそうだが、生き物でも武器でもどちらとも言えないような存在であって邪剣カオディスアが壊れない限りは何度も復活は可能である。

 ある条件の上で防げているといったが、その条件とは?




『ハクは普段から高い防御を持っているが、不動の時はさらに防御の力は更に上がる!!』


 エリスに教えるように、ハクの特殊な能力が明らかにされた。エリスを守っていた時は、必ず動きを止めていたのだ。その防御の力が更に上がっていたからレイナの攻撃を止められ、身体では止められない攻撃はスキルによって防ぐ。

 先程の【反魔盾】は魔法を反射する盾と言う名前だが、それだけではない。魔法が盾に触れた瞬間に、魔力の量を増やして返すことが可能だ。レイナの放った水龍は水量で押しつぶす技だったが、それらは魔力によって固められていたから【反魔盾】で威力を二倍にして返せたのだ。




「くっ、シヴァ……「お待たせましたわ!!」」


 まだ攻撃を加えようとしたが、先に準備が終わったのはエリスであり、さっきから持っていたナイフから魔力を感じていた。






「新たな魔導に芽吹きなさい、『大樹魔法』!!」






 ナイフが光ったと思ったら、エリスの周りから人間並みに太い木の根っこみたいのが大量に現れた。




「な、知らない魔法!?」

「行きなさい!!」


 エリスはレイナの言葉を余所に現れた『大樹魔法』に命令を下して、レイナとシヴァを囲むように展開していく。




「シヴァ、数には数よ!!」


 シヴァから太い水の鞭を生み出して、相殺させようとするがーーーー




 水の鞭に接触した根っこは、水の鞭を弾いてさらに太くなっていた。その現象に目を大きく見開いていたレイナだったが、『大樹魔法』は待ってくれない。

 驚愕していた一瞬の内に、シヴァを貫いていた。そして、そのシヴァは水の身体なのに苦しそうに呻いていた。シヴァを貫いた根っこがまた太くなっていくことに、『大樹魔法』の性質を理解したのだ。





「まさか、水を吸収しているの!?」

「そうよ、この魔法はエルフの秘儀である魔法の『大樹魔法』。お母様を倒すために、水の天敵となる秘儀の魔法をエルフの王様に頼んで教えて貰ったわ!!」


 新たな魔法である『大樹魔法』は基本魔法や特異魔法とは違う。というか、人の身体に宿せる魔法ではない禁忌ともいえる代物である。この魔法の存在を知っているのは、エルフの数人だけである魔導書に封印されている。




「お母様は水魔法を中心に戦ってくるのはわかっていたわ。だから、エルフの王様に頼み込んだの。アルト・エルグに半年も住み込んでね……」

『成る程、強くなりたいという理由と別にこの魔法を手に入れたかったわけか』

「ええ、このお陰で追い詰められましたわ」


 エリスが話している間も『大樹魔法』はレイナとシヴァを捕まえるように檻みたいに形を変えていた。レイナは元から機動力はそんなに高くなく、水を吸収する『大樹魔法』に相手では破壊する処か、弾くことも出来なかったため、あっさりと捕まったのだ。




「くぅ!?ま、まさか触れてなくても吸収を……」

「この『大樹魔法』は人の身体へ宿すのは不可能だけど、このナイフみたいに物へ宿すなら出来るわ」


 宿す事が出来るといっても、アルト・エルグにある『大樹魔法』の魔導書に宿る力はとてもなく強いため、特殊な物ではない限りは完全に移し替えるのは不可能。だが、一部の力を宿すだけなら、何も変化がないナイフでも可能。

 このままなら、水魔法しか使えないレイナとシヴァは木の檻を破れずに吸収されて死ぬ。そう終わったかと思えば…………






「舐めるなァァァァァァ!!」






 レイナは狂ったのか、仲間であるシヴァの心臓辺りへ手を突き出していた。水の身体であるはずなのに、根っこを貫かれたのと同様に苦しんでいた。さらに、木の檻が吸収出来ないぐらいの量が溢れ出して、水の中にある大量の泡がレイナの姿を隠していた。




『む、まだ何かやるつもりか?』


 輪廻が呟いていた通りにレイナは大量に溢れ出している水の中で、何かしていた。よく見えないが、翼の影が少し大きくなっているように見えた。




「き、ぁぁ、ぁぁぁぁぁ!し、ねぇぇぇ!!」


 水の中で暴れて、木の檻ごと突き破って現れた。現れたレイナの本体は余り変わっていなかったが、天使みたいな翼が水の膜に大きく覆われていて、元の三倍ぐらいの大きさとなっていた。さらに手も水の爪が出来ていて、普通の剣よりも鋭く見えた。




「ぎぁ、さっさとォォォォォ、身体、ヨコセぇぇぇぇぇ!!」

『なんか、正気じゃないな?』

「まさか、生きている者に『種の融合』を?」

『『種の融合』とかはわからんが、アレは失敗か?』

「おそらく。アレは死んでいる者に使うのですから、今はシヴァという精霊の意識と混同しているかと思いますわ」

「ぎぃぃぃ、わ、私は……まだや、やれる……」


 少し正気を取り戻し、レイナは自分の思いを吐き出す。




「永遠の、生命をォォォ、手に入れる!!こんな所で、やられるにはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!」

「哀れな、あんな願いで魔王と。このナイフを持って、お母様を還しますわーーーー」


 話はもう終わりだと言うように、再度『大樹魔法』を使って、全位方向から攻める。レイナは鋭く尖った爪で吸収される前に切り裂いていた。




「無駄だぁぁぁ!!」


 再度、突撃させるが一本もレイナの身体には届かない。




「同じことをやっても私をーーーーーーーー!?」


 レイナの言葉が止まり、胸から痛みを感じて目を向けて見ると……………………ナイフが刺さっていた。さっきまでエリスが持っていて、『大樹魔法』を使うのに必要不可欠のナイフであった。




「な、自分の武、器ゲホォァ、を手放

 、すなんて…………」

「私はナイフでお母様を還すと言いましたわ」


 ナイフはレイナの心臓を貫いており、人魚族になった今も弱点は変わらない。大量に吐血する血が証拠である。

 レイナは自分に刺さっているナイフが『大樹魔法』を発動するのに必要な物であることを理解していた。だから、投げるとは思っていなかったのだ。更に、向かってくる『大樹魔法』に意識を向けていたため、無意識にあり得ないと切り捨てていた攻撃方法によって、終わりが来ようしていた。レイナの身体から水分が失われようとして、身体がミイラになっていく。




「そ、そんな……、この私が…………永遠、の生命をーーーー」




 レイナは空へ手を伸ばし、完全にミイラになってーーーーーーーー死んだ。


 残ったエリスとハクは黙ってレイナの最期を見届けた。




『最後まで自分のことだったな』

「ええ、お母様はそんな人だったの。ようやく、仇を取れたわ。お父様…………」


 長年の望みが叶い、エリスはレイナとの戦いを終結させたのだった。

 エリスはお父様がいると思える空へ目を向けて仰いでいた。輪廻はその仕草が泣くのを堪えているように見えた。だが、ハクの姿では輪廻には何も出来ることはないので、少しだけ一人にさせようとハクの身体を霧散させて、カオディスアへ戻したのだった…………








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