第十三話 ゴブリン討伐 前半
本日二話目
ランのパーティと組み、今は北の山にいる。
まず、軽く自己紹介することになった。
「アタイの名は言ったが、もう一回自己紹介しておこう。ランと言う。武器は片手剣でランクはDだ」
「俺はダリオ。武器は弓だな。ランクはEになっている」
「私はアニー……、風魔法と回復魔法が使える……ランクはE……」
ランは赤毛で、スラリとモデルのような体型をしているが、鍛えられている。顔は結構可愛い方。
ダリオは狩人のような格好をしており、美は付かないが、面倒の良いお兄さんみたいな感じ。
アニーは魔術師の格好で、白のローブを着ていて、女性と言うより輪廻より身長が少しだけ高い少女という容姿に見える。
「俺は輪廻で、武器はナイフ。魔法を使えるけど、ほとんどは接近戦が多いですね。ランクはまだFです」
「私は御主人様のメイド、テミアです。御主人様と同じように接近戦ですね。ランクも御主人様と同じになります」
ランクはギルドに登録したばかりだから、Fランクだが、輪廻はDランクを圧倒出来る実力があり、テミアはあの大包丁剣を軽々に振り回すことからFランクの範疇には収まらないことを三人は知っている。
「魔法も使えるのか? どんな魔法か教えてもらってもいいか?」
「そうですね……、その前に質問いいですか?」
質問してきたダリオに、質問返しをする。
「特異魔法って知っていますか?」
「おう、普通ではない魔法と言う意味で、先天的でしか手に入らない魔法だ。持っている人は少ないと聞いて…………って、まさかお前……」
「はい。その魔法を持っています」
「ええっーーーー!? ど、どんな魔法なの!?」
言葉が少ないアニーが珍しく詰め寄って聞いてきた。
魔法は別に隠してもいないし、特異魔法は『邪神の加護』ほどに異端ではないとわかったから名前だけ教えた。
「へぇ、重力魔法ね……」
「はい。便利な魔法ですよ。だけど、特異魔法にはデメリットがありますよね……?」
「ああ。後天的に別の魔法を手に入らないのがな……」
そう、特異魔法を持っていると、後天的に手に入れることが出来る他の魔法を習得出来ない。
後天的に手に入る魔法は、基本魔法と言われて、火、水、土、雷、風と言った五つの魔法のことだ。
英二が持っている光魔法は特異魔法ではないといえ、勇者ではないと使えない特殊な魔法だ。
さらに、闇魔法もあるが、ほとんどは魔人か魔王が持つ。
特異魔法は理から外れた魔法であり、世界で2人が同じ特異魔法を持っていたと言う話は聞かない。さらに、特異魔法を持っている者はSSSランクの冒険者と同様に数が少ない。
だから、魔術師のアニーが興奮するのも仕方がないだろう。
「成る程な。俺とアニーが後衛でラン、輪廻、テミアが前衛でいいな?」
ダリオがそう言い、皆も了承する。
そして、周りを調べていたランが何かを見付けた。
「おい、これはゴブリンの足跡だ。多分3体だな」
「あ、お願いがありますが……」
輪廻がその3体だと思えるゴブリンを1人でやらせて欲しいと。理由は、人間と戦ったことがあっても魔物とは初めてだからだ。
魔物と戦うのは初めてというのが驚きだったラン達。
「そういうことなら任せてもいいとアタシは思うが、皆もいいか?」
「Dランクの冒険者を倒しておいて、魔物とは戦ったことがないのは聞いたことがねぇけど……、了解した」
「重力魔法……わくわく……」
アニーは特異魔法が見たいらしく、1回は重力魔法を使って欲しいとリクエストがあった。
「私は御主人様の危機があれば、いつでも跳んで行きます」
「ははっ、危機はないと思うが、その時は頼むよ」
そう話しながら足跡を辿っていくと、3体のゴブリンが見えた。
醜い顔をしており、緑の体している子供のようだった。頭には鬼の象徴である小さな角が一本あり、ボロボロの布を着ていた。
「やっぱり、3体だったわね。輪廻、大丈夫?」
「はい」
輪廻はランに返事してから突っ込んだ。
既に”隠密”を使っており、ゴブリンはまだこっちに気付いてなかった。
”重壁”で空中に足場を作って進んで行く輪廻。その空中を歩く技、”空歩”と名付け、ゴブリンの目の前に上から現れる。
ギョッとした所に、空中で宙ぶらりんとしながら、手に持った二本のナイフで喉を一撃ずつでかっ斬る。
これで2体は死んだ。
宙ぶらりんになって輪廻は空中で逆さまになっている。”重壁”を二枚作って足の甲と足の裏を挟んでいるから、宙で逆さまに立っているように見えるのだ。
そのまま、”重壁”を解除して、残ったゴブリンの頭に”重脚”をぶち込んで、首を折りつつ木まで吹き飛ばした。木にぶつかった瞬間にゴブリンの頭はペシャッと潰れ…………死んだ。
蹴った輪廻はそのまま体操の選手だと言うように、宙返りして華麗な着地をしてみせた。
「終わりっと!」
綺麗な着地に満足しつつ、皆の元に戻っていくと、テミア以外はまた驚愕の顔を浮かべていた。
「おーい、いつまで固まっているの?」
「………………はっ!?」
声を掛けたら、終わったことに気付いたようで、3人が詰め寄ってきた。
「さ、さっきの何だったのぉ!?」
「空中を歩いていたように見えたんだが……」
「どうやって空中で逆さまに……!?」
様々な質問をしてくる3人に、丁寧に答えてやった。もちろん、口止めも兼ねて。
「規格外な少年だね……」
「ゴブリンといえ、瞬殺かよ」
「凄い……!」
ランとダリオは呆れたように言ってきて、アニーは輪廻の、魔法の使い方に感慨を受けたようで、目をキラキラしていた。
テミアは黙っていても御主人様の活躍に感慨を受けたようで、うんうんと頷いていた。
(そういえば、魔物を殺したからレベルが上がっているはず)
そう思い、ステータスを確認してみた。輪廻のステータスは…………
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崇条輪廻 11歳 男
レベル:2
職業:暗殺者
筋力:180
体力:230
耐性:120
敏捷:450
魔力:440
魔耐:220
称号:邪神の加護・暗殺の極み・冷徹の者・魔族を虜にした者
特異魔法:重力魔法(重壁・重圧)
スキル:暗殺術・隠密・剣術・徒手空拳・身体強化・鑑定・隠蔽・魔力操作・言語理解
契約:テミア(魔族)
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レベルが一つ上がり、ステータスもそれぞれ上がっていた。
20〜50は上がり、その中で敏捷が一番上がりが高かった。次に魔力で、耐性と魔耐は上がりは良くなかった。
攻撃を全く受けていないからなのか、20しか上がっていなかった。
他の召喚者も輪廻と同じように20〜50は上がるのか気になったが、知る術はないので考えるの止めた。
「よし、次を捜しに行こう」
「あ、俺が上空に上がって捜しましょうか?」
「あー、空中を歩けるんだったな……」
ランは輪廻の提案に呆れながらも、了承を出す。
了承を貰い、上空に上がっていく。木より少し高めの高さだが、周りがよく見えてゴブリンがいる場所を捜してみる。
(やはり、木が邪魔で見えない場所も多いな……ん? あそこは……)
輪廻は岩場にいくつかの小さな洞窟のようなモノを見付けた。ゴブリンは岩場の洞窟を住家にしているとラン達から聞いている。
ゴブリン本人を見付けられなかったが、あの洞窟ならゴブリンの住家の可能性が高いから、降りてそのことを皆に伝えた。
「ふむ……、ゴブリンの住家か……」
「何か問題が?」
考え込むランに疑問を持ち、聞いてみたら、住家だとゴブリンだけではなく、ホブゴブリンがいる可能性があると。
ゴブリンはFランクの冒険者でも一対一なら倒せる実力しかないが、ホブゴブリンだとEランクの強さがある。
ランなら一対一だったら勝つ自信はあるが、もし複数のホブゴブリンがいたらランでも危険だと言う。さらに、ホブゴブリンはゴブリン達を統率するため、簡単に近付けないと言う。
「輪廻ならホブゴブリンに勝てると思うが、住家の洞窟がいくつかあると言っただろう?
その住家一つに、ホブゴブリンが1体ずついると考えれば……」
「確か、少し遠かったから確実ではないですが、五つ以上はありましたね」
「厳しいな……」
見えた五つの洞窟以外の洞窟があれば、ホブゴブリンも5体以上はいるのだ。
他の二人も住家に攻め込むには乗り気ではなかった。だが、テミアが手を挙げて発言した。
「では、私が全滅させましょうか?」
「はぁ!? 1人で出来るわけじゃないでしょ!?」
「そうだぞ、ホブゴブリンだけじゃなくてゴブリンも沢山いる可能性もあるんだぞ!!」
「無謀……」
テミアがそう提案するが、やはり無謀にしか聞こえず、反対してくる。そこに輪廻も加わってくる。
「こら、それは駄目だぞ」
「そうよ、貴女の御主人様もそう言って……」
「俺の獲物がいなくなるじゃないか」
輪廻のその言葉でテミアは気付いたように、頭を下げて謝った。
「はっ、すみませんでした。そこまで考えが回らなくて……」
「駄目なのはそこなのかよ!?」
ダリオは2人のズレた話にツッコミをいれてしまう。
「まぁ、大丈夫じゃない? ホブゴブリンは俺がやるからゴブリンはテミアに全てを任せるで。3人は乗り気じゃないみたいだから、後ろで見ていればいいし」
「はい、お任せを」
ホブゴブリンとゴブリンの数はまだわからないのに、ホブゴブリンは輪廻がやると言い、ゴブリンの全てを任せると言われて了承するテミア。
その2人の奇妙さに言葉を無くしてしまいそうだったが、ランは何とか声を出して止めていた。
「な、ほ、本気なの!? 止めた方がいいわよ!!」
「俺らが問題ないと言っているんだから、黙って見ていればいい」
輪廻はランの言葉に取り合わない。輪廻は本気で何とか出来ると確信していたからだ。
輪廻は元から正面から戦うつもりはなく、暗殺者らしくやるからだ。
次は明日の朝になります。