第百二十五話 短い休戦
少し短いですか、どうぞ!
二つの月が怪しく光る夜。
大量の魔物と数人の魔人に襲われたセイオリック天聖国は多大な被害を受けてしまったが、今は街全体がエメラルド色の結界に覆われている。
この結界は、彼方が錬金によって作られた結界発動機によって、街を外部から守られているのだ。裕美が上げた合図により、街から出ていた兵士を引かせて彼方が発動させた。
結界の原動力は、輪廻を除いた召喚者全員の魔力を込められた魔石で、外部と内部からの物理・魔法攻撃を防げる。だが、メリットばかりではなくデメリットもある。
発動中は外部と内部を行き帰りは出来なくなり、魔力消費が凄さまじくて、結界は二日しか持たない。
だから、その二日を有効に使おうとまた会議室に主要となる者が集まっていた。魔力が切れて気絶していた啓二もすっかり回復していて、参加していた。
皆が集まったのを確認した後、王であるガラードから会議の始まりを促すことになる。
「結界は確かに聞いたとおりで、強固なるものだな。二日の猶予をどう使うかなーーーー」
「いや、すぐに破られると思え」
ザワッとその言葉を発した者へ目を向けていた。そこには、啓二がいた。
「どういう事だ、二日は持つと言ってなかったか?」
「ああ、言ったな。だが、それは幹部野郎と戦う前に言った言葉に過ぎない。思ったより高い実力を持っていやがった」
ロールは兎も角、ゼロクアは啓二一人では勝てないような実力を持っていたのだ。この結界はゼロクアの攻撃を防ぎきったが、他の者だったら……と考えてしまう。
「啓二が言うほどだとな……」
「もしかしたら、魔王本人が破りに来るかもしれない。それなら、こっちのチャンスでもあるが、一つ間違えれば絶体絶命な状況に陥ることもあり得る」
「では、今は相手の出方を待ち構えるしか出来ませんね?」
アドラーは現状にできることをやるつもりだが、結界の外から出られない自分達は敵の出方を伺うしか出来ない。
「そりゃ、そうだな。こっちからも奇襲は出来ない…………いや、あいつらが来たならそれは出来るが、あいつらは魔王をやってもらいたいな」
あいつらとは、輪廻達のことで結界の外へ出られない啓二達と違って奇襲も出来る。だが、そんなことをさせて、魔王と戦う前に消耗させたら勝てないかもしれない。
「私達は幹部をなんとか倒して、魔王までの道を作ってあげたいよね」
「魔王は城の中にいそうだが、実際に見たわけじゃないから何処にいるかわからないし。今は出てくる幹部を倒していき、最後に魔王を迎えるのが現実かな」
啓二の隣で裕美と勲が話し合い、現状に自分達の実力で出来ることをやると決めた。
「よし、今は相手の出方を伺って休める時は休む。それでいいな?」
ガラードは策とは言えないが、休める時は休むのは間違っていないので警戒する者と休む者に別れて、夜を乗り越すことに決まった…………
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魔王の間では…………
「そうか、ロールが死んだか……」
「はい、ロールを預かっておりながらも、再び結界を張り直されてしまい、役に立たずで申し訳ありません……」
声のそのものが低い声で、魔王の間は少し重い雰囲気であった。
「ねぇ、結界を張り直されたと言っているけど、別の物ですよね?」
「あぁ、私が『魔幻界』を破壊したから再び、同じ物を張るのは無理でしょう。それに、今度のは物理に対する防御もあり、『透過』でも無理でした」
「なるほど、厄介わね」
前の結界は物理に対する防御はなかったから、SSランクを超える魔人なら入れたが、今回はSSランクの魔人であっても、入るのも難しい状況だ。魔王は少し考え、前もって準備しておいた戦略を使うことに決めた。
「……仕方がない、ディオ。アレを使う許可を出す」
「はっ、お任せ下され」
死霊族であるディオ・オリエルが魔王の前で跪き、命令に対して了承を出す。
「念には念を入れる。幹部はディオが命令通りに完遂したら、全員で攻めろ」
「そ、それでは……」
「構わん、護衛はいらない。まさか、俺の実力を疑っているわけでもないな?」
「い、いえ!」
魔王が持つ『魔覇眼』で睨まれ、側近のガルムは冷や汗をかきながら、頭を下げて跪いていた。
「なら、相手に時間を与える間も無く攻め潰せ!!」
「「「御意に!!」」」
イアも珍しく起きていて、ウルと一緒に前線へ向かっていく。他の幹部達もすぐに部隊を率いて、戦争へ赴いていた。
そして、即席に作られた城にいるのは魔王ただ一人だけ。
「もうすぐだ……。俺の念願が叶う…………」
魔王は既に勝利を信じていた。ロールがやられたのは計算違いだったが、幹部全員で攻めれば、セイオリック天聖国は終わる。そう信じていた。
そう思えば、魔王は油断していたかもしれない。
魔王が座る王座がある後ろにて、暗い中で三日月のように歪められた口があったことに気付いていなかったのだから…………




