第百十七話 再びガリオン国へ
輪廻達は今、ガリオン国にいた。温泉を借り切って、お湯に身を沈めている。
だが、ガリオン国に来ているのは、輪廻達だけではなかった…………
「どうして、帰ろうと思わないの?」
「秘密だ」
「むー」
温泉には絢と晴海も一緒に入っていた。2人だけではなく、さっきまでティミネス国にいた人の大部分がガリオン国へ来ていて、ある準備をしていた。
何故、こんなことになっているかは、二時間前にあるーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
ティミネス国、王の間では…………
「はぁ!?」
「帰らないって…………?」
輪廻が元の世界へ帰るつもりはないの発言に皆は驚く。いや、啓二だけは…………
「後ろにいる女のためか?」
「それもあるが、元の世界に帰りたくない理由は他にもある。言わないけどな」
「輪廻……」
絢は悲しくもあり、羨ましいと感じていた。テミア達のためにもここに残ると言われて、テミア達にとっては幸せだろう。しかし、他の理由もあると言うが、考えられなかった。
元の世界には兄である夜行と親に会いたいのではないのか?
「…………そうか、無理には言わないさ」
啓二は深く聞かずにいることで決めたようだ。
「お前も残るなら、俺も残ろうじゃないか。一緒に旅をしてみたいしな」
「貴一!?」
なんと、貴一までもそんなことを言ってきた。晴海ははっとした顔で絢を見た。
絢も輪廻が残るなら残るのでは?と思っていたが…………
「…………」
「絢?」
「……え、な、なんでもない」
迷いを感じ取れる表情をしていた。おそらく、向こうの世界にいる家族や友人に出会いたいと思っているだろう。
それに、輪廻のために残っても、恋が実るかわからない現状でもあるので、決断は出来なかった。
ーーーーとその時、絢はテミアの顔を見た。見てしまった。
「……ふっ」
「!?」
勝ち誇る顔をして見下すテミアがいた。もちろん、輪廻に見られないように後ろにいた上でだ。
テミアの顔にはこう書かれていた。
この程度で迷うなら諦めて帰れ。
と言っているように絢はそう見えたのだ。絢はそれが悔しかった。選ばれなかっただけで、諦めるのが。
絢はそれでいいのか?と考え……………………、すぐに答えを出した。
「わ、私も残る!!」
「絢!?」
「面白い!絢が残るなら、私も残るわ!!」
「は、晴海まで……」
仲間の判断に、英二は驚愕していた。英二は、帰れるなら帰りたいと思っている。
英二は輪廻に追いつきたいと考えていたが、人殺しは別である。家族に会いたいのもあるが、それ以上に人殺しが必要な世界に残りたいとは思っていなかった。
だから、輪廻はもちろん、3人の仲間が残ると言い出したことに驚いたのだ。英二が浮かべていた表情に何かを感じ取ったのか、晴海が英二の近くによって、小さな声で話しかける。
「……私達は自分で選んだから、貴方も自分がそうしたい方を選べばいいわよ。後悔をしたくないならね」
「後悔……」
3人は後悔をしたくないから、ここへ残ると決めたのだ。貴一は旅、絢は恋愛、晴海は親愛のために。
ちなみに、晴海はあの時から、絢の保護者だと思っている。そう、絢が輪廻のことが好きだと気付いた日である。
晴海は絢の行く道を見てみたいため、手伝いをするのもあって残ると決めたのだ。
英二も自分達の都合に付き合う必要はない。自分が後悔しない道を選べばいいと晴海は囁いたのだ。
だが、英二はすぐに答えを出せるわけでもなかった。というか、帰る方へ少し傾いているのはわかっているが、口には出せなかったのだ。
時間はまだあるので、晴海は急かさないで、すっと離れて絢の元へ戻った。
「成る程。その案で決行となるだろうな。兵士達にもそう伝えて…………」
おこうまで続かなかった。何故なら、伝令の兵士が慌てて王の間へ入ってきたからだ。
「何事だ!?」
「で、伝令です!!セイオリック天聖国の近くにある獣人の街が潰されて、黒い建造物が現れたのことです!!おそらく、魔人が攻めてきたかと思われます!!」
「ついに、この時が来たのか…………」
ロレック国王は襲撃があった時から、その時が来るのはわかっていた。
「セイオリック天聖国は南の地にある一番大きな街だったな?」
「確か、あそこは魔族嫌いの人が多くて、魔族を寄せ付けない結界があったのぅ」
「南の地に建造物?魔人の幹部…………もっと悪ければ魔王が来ているかもしれません」
「もう戦争が始まるんだね。って、私達は結界の中へ入れるのかな?」
輪廻達はそう話をして、セイオリック天聖国にある結界はテミア達なら問題はないが、警告があったら面倒が起きそうと判断した。
「ロレック国王、その伝令は緊急招集だよね?」
「あぁ、そうだが…………後ろの女性達はさすがに」
「わかっている。俺達はすぐに行かないで、近くのガリオン国で待っているさ」
「……?それはどういうことだ?」
セイオリック天聖国に行かないで、ガリオン国にて待つということは?
「わかるだろ?テミア達があの国に入ったら面倒事がありそうなのは」
「ああ」
そこまではわかる。だが、何故ガリオン国で待つのか?ティミネス国の守りを任せたいと考えていたロレック国王だが、次の言葉で口が開いてしまう。
「結界が壊れるまで待つさ」
結界が壊れるということは、既に街の中へ魔族が入り込んだということになる。何故なら、その結界を維持する物が街の中にあるからだ。
「つまり、俺達は結界が壊れてから動くってことだ」
「ま、待てよ!それで勝てるのか!?」
普通なら街の中へ入れさせないことが条件だが、ティミネス国の最強戦力である輪廻達が動くのは、街の中へ入り込まれた後になる。それでは、間に合わないのでは?と英二は言っているのだ。
「だったら、セイオリック天聖国の偉い奴らに、魔族が仲間にいるのですが、入れてくださいと言ってみるか?」
「それは……」
英二も勉強したので、セイオリック天聖国のことを知っている。あそこは魔族に殺された家族も多く、魔族を殲滅すべく、東の地に近い街として住んでいる者がたくさんいる。
そこに魔族を連れて招集したら、どうなるか。
「悪ければ、ティミネス国が魔王と繋がっていると言われる可能性もある」
「い、いや、だったら人間のフリをさせて……」
「馬鹿か?」
英二の単調な考えに、輪廻は呆れる。世界には、完全はない。輪廻はそう思っている。
「今は変装みたいなのをさせているが、100%ではない。ルフェアみたいな見破るスキルを持っていたら、アウトだ。そんな賭けはやってられないんだよ」
「…………」
英二は何も言えない。輪廻はそれを見た後、ロレック国王に向き合う。
「では、ガリオン国で待っているがいいよな?何か連絡があれば、あそこのギルド長にでも連絡すればいいさ」
「……わかった。世界を頼む」
ロレック国王は頭を下げて頼む。馬鹿みたいな話だが、ティミネス国での最強戦力は輪廻以外が魔族であるパーティなのだ。
ロレック国王は魔族であろうが、ティミネス国の国民達を守れるなら頭を下げる準備はある。
「俺は俺のために動くが、たまたま利害が一致したからやってやるよ」
そう言って、輪廻達は”移扉”でガリオン国に向かったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
だったはずが…………
「そういえば、街から街へ移動できる魔道具が出来たんだったな……」
そう、その魔道具を使って、英二パーティの皆が輪廻達を追いかけてガリオン国まで来たのだ。
だから、温泉には絢と晴海がいるわけだ。
啓二パーティが中心になって、セイオリック天聖国への招集へ対応となり、英二パーティは輪廻と一緒に後から戦いへ加わることに決まったのだ。
着いてきた英二パーティである、絢はテミアを睨み、晴海はそれを見て面白がっている。
戦争に来たように感じられない二人を見た、輪廻はこう思った。
本当に大丈夫なのか……?
ちょっぴりと心配になる輪廻であったのだった…………




