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第百十六話 会議

 



 ティミネス王国、ロレック国王は書斎で仕事を進めており、側にはエリー王女も一緒にいた。




「ふぅ……、終わったか」

「はい、書類の捌きは楽ではありませんね」


 二人はダンジョンの件での報告書に目を通していた所だった。試練のせいで、ダンジョンの中身がバラバラの階層になったことにより、試練を終えた後、階層は元に戻ったのだが、魔物だけはバラバラになったままだったのだ。


 まだ地下二階層なのに、地下三十階層クラスの魔物が現れたりしているのだ。輪廻達はダンジョンで起こったことを報告していないので、ダンジョンから戻ったゼクスのパーティからの情報だけになっているのもあり、詳しい原因は不明になっていた。


 ゼクスは試練などの言葉を輪廻から聞いたが、試練についての情報がないため、報告は出来なかった。曖昧な報告は無駄な情報にしかならないため、自分の目で見たことだけ、ギルドに報告したのだ。

 ギルドから王城へと、情報が伝わったので、国王本人がダンジョンについての仕事を請け負っているのだ。


 本来なら、部下達かギルドの人の仕事だが、召喚者を動かす必要もあり、必然に国王が指示を出していくことになったのだ。

 数人の召喚者をダンジョンに向かわせて、どう変わってしまっているのか、調べて国王が情報を纏めている形で原因を探っている。





「紅茶を淹れました」

「あら、ありがとう」


 メイドが紅茶を持ってきたので、ここで休息を取ることにする。メイドが淹れた紅茶に息を吐きながら口に含むロレック国王だったが…………












「ヤッホー!」

「ぷぅっーーーーーーーー!?」





 いきなりロレック国王の後ろから声が掛けられ、後ろを向くと、そこには”移扉”から現れる輪廻達がいた。




「輪廻!?」

「少年と……テミアも!!」

「久しぶりかな?急で悪いけど、召喚者の人達を集められるか?少なくとも、主力の実力者だけは必ず集めてくれ」


 ロレック国王はいきなり後ろから現れたかと思ったら、召喚者の人達を集めて欲しいと言われ、少し固まっていたが、輪廻の眼を見たら冗談ではないと気付いた。




「そ、そこの者。ここにいる召喚者を出来るだけ王の間に集めてくれ。あと、ゲイルもだ!」

「は、はい!」


 さっきまで紅茶を淹れていたメイドに指示を出して、輪廻と向き合う。




「久しぶりだな、いきなり集めてくれと言うとは、何かがあったのか?」


 ロレック国王はすぐにわかった。輪廻が召喚者…………実力がある者を集めろという意味、何かがあると言っているようなものだ。




「そうだな、詳しくは皆が集まってから話すが、邪神の件だ」

「なっ!?」

「えっ!?」


 今は魔王や魔人のことで頭一杯なのに、邪神と言われて二人は驚愕してしまう。




「王の間で集まるんだよな?早速、行こうぜ」






 ーーーーーーーーーーーーーーー









 少しの時間が経った後、輪廻達とロレック国王、エリー王女、召喚者の皆やゲイル隊長が王の間に集まっていた。それに加えて、兵士も数人いた。


 召喚者はたまたま主力である英二のパーティと啓二のパーティが城で待機していたのは運が良かった。

 国王から呼ばれたことで集まった先に輪廻がいることで、絢は笑顔になって走って輪廻の元へ向かった。




「あ、輪廻!!」

「久しぶりだな」

「帰ってきたのか!!」

「おー、また強くなっているな」


 次々と輪廻の元へ向かう人が増えていく。数ヶ月といえ、離れていた仲間に会えたのは嬉しいのだろう。





「これで全部か?いない奴もいるみたいだが…………」

「ああ、ここにいるのは留守番している奴だけだ。他は他の街へ向かっている所だ」


 新しく出来た転送機で他の街へ行けるようになったことを啓二が輪廻に説明していた。




「へぇ、あとで見せてくれよ」

「それはいいが、邪神の件とは何だ?」


 ロレック国王から『邪神』の言葉が出て、ここにいる輪廻達以外は驚愕の表情で目を大きく開いていた。




「じ、邪神!?」

「魔王や魔人だけでも一杯なのに!!」

「嫌な予感しかしねぇよ!!」


 召喚者がひと先に声を上げた。兵士達も何か申したいような表情をしていたが、国王の前で叫び散らすようなことは許されないので、グッと噛み締めていた。

 だが、まだ召喚者達の声が止まらない。これでは、話が始まらないから、輪廻が威圧して黙らせようと思った先にーーーー






「静まれ!!まず、話を聞くことからだろ!!」



 召喚者のリーダーである啓二が動揺する皆に喝を入れていた。そのお陰で、ピタリッと声が静まった。




(ほぅ、勇者よりも勇者らしいじゃねぇか)


 輪廻は感心していた。喝を入れるだけで止まるなんて、簡単なことではないことだ。つまり、出来た啓二は統率する能力が高い証拠になる。




「よし、話してくれ」

「これから話すが、質問は後だ。いいな?」


 輪廻は周りを見て、頷いたのを確認してから話し始めた。元勇者に出会ったことから話し始める。輪廻にとって不利である情報は隠して、偶然で手に入れた情報として話す。

 もう死んでいた元勇者だったが、骨になって聞いたことにしておいて、魔王を倒すと邪神が復活する可能性があることで話を纏めて話す。


 全ては本当のことだけを言って、嘘は言わない。もし、嘘を見破られたら、後が面倒だからだ。




 まず、旅をしていた輪廻だったがたまたま骨になっている元勇者に出会い、邪神のことを聞いた。


 その元勇者は誰かに操られてしまい、輪廻が戦うことになり、倒した。


 その元勇者が本物かの根拠は、輪廻が持つ『勇者殺し』の称号になるから、ゼゥクが勇者だったのは間違いない。


 戦いの後、その元勇者を操っていたのは、邪神を復活させたい魔人であり、輪廻の前へ現れて魔王を倒せば、邪神を復活すると説明される。


 残念ながら、魔人には逃げられて詳しいことを聞けなかったが、推測では封印を解くために、魔王が持つ密度が高いエネルギーが必要だと考える。









「といったことがあったから、この情報を伝えにここへ戻ったわけだ」

「「「…………」」」


 聞かされた者にしたら、邪神という存在に現実味がないのか、なんと言えばいいかわからなかったのだ。




「っ、おかしくないか?何故、魔人はそのことを輪廻達に教えたんだ?黙っていた方が、有利だったんじゃないのか…………?」

「それは最もな質問だろう。俺は邪神を復活させようとする魔人は魔王の部下だと考えている。魔王が生き残っても、死んでも魔人に取って良い方に転がるようにしたいだろう」


 教えることによって、魔王を討つと邪神が復活する。しかし、魔王を討たないと魔王が滅ぼす。どちらも人側にしては地獄に変わらないのだ。


 もちろん、その可能性は低いというよりも無いに等しい。ガーゴイルが魔王と繋がっているように見えなかったし、ガーゴイルは邪神を復活させたいはずだ。


 この可能性は輪廻の推測の一つであり、完全に嘘ではない。

 魔王とガーゴイルと繋がっていないという根拠がないのだから。


 その推測を聞いた皆は推測であろうが、情報が少ないから納得するしかない。他に考えられることがなかったからだ。




「それでは、どうすればいいんだよ!!方法がないんじゃないか!!」

「滅ぼされるのを待てというのか!?」


 魔王を倒せば邪神が現れ、魔王を放っておくと魔王に滅ぼされる。どっちも地獄で選択肢がないように思えたため、絶望する人が増えてしまう。




「お、落ち着け!!輪廻も絶望させるために話したわけじゃないだろうな?」




 ロレック国王は叫び散らす人達を落ち着かせて、輪廻に問う。




「当たり前だ。二つの方法がある」

「あるのか!?それは……?」

「まぁ、二つと言っても、一つは反対されるのが見えているから一つだけになるんだろうな」

「どういうことだ?」


 二つの方法があるが、その中の一つは反対されるのが見えている?まさか、人道に反することを?と思った人が多かったがーーーー






「一つ目は、魔王を封印する」






 それは普通で、人道から外れたような案ではなかったから、驚いた人は多かった。




「それは普通だな……」

「何を言われると思ったんだよ?」

「えぇと、人を生贄に捧げるとか……?」

「英二は俺がそんなことをやる人だと思っていたのかよ?酷いな」

「そうよ!!輪廻がそんなことを言う訳がないでしょ!!」

「う、ゴメン……」


 絢が英二に叱りつけていた。英二はシュンっ、と謝っていた。




「いや、輪廻なら言いそうだがな」

「啓二!」

「案を言うのは自由だ。それが酷いことでもな。輪廻は言える側だと言っているだけで、非道とは思ってないさ」

「啓二は俺のことを理解しているみたいだな」


 輪廻も認めている。行動に移すとはともかく、言うだけならタダだから必要なことなら言っていただろう。




「おっと、話が逸れたな。封印することだが、皆はどうだ?」

「うーん、出来るかは別にしてもいい案じゃないのか?」

「そうだね。倒したら邪神が復活するなら、封印が一番よね」


 英二と絢は問題はないと思っていた。だが、晴海がーーーー




「でも、それは私達が帰れる手段を潰すのと変わらないよね?」

「あ!」


 そう、晴海が言った通りに封印したら前の世界へ帰る手段を潰すのと変わらないのだ。

 封印したら、エネルギーを取り出せないのだ。エネルギーを取り出すには、倒す方法しかないのだ。




「だ、駄目だ!!」

「反対よ!!」


 他の召喚者、帰りたい人々は反対してきた。それは輪廻にも読めていたことなので、さほどに驚きはなかった。




「やっぱりな」

「すまないが、俺も反対だな。元の世界へ帰してやりてぇからな」

「わかっているさ。ここの世界の人には悪いが、その案は無しでいいな?」


 ロレック国王や兵士達を見てみると、苦い顔をする人もいたが、何も言わない。召喚者に反逆されたら、勝てないのを知っているからだ。




「もう一つを聞かせてくれないか?」

「まぁ、慌てんな。二つ目は成功する確率は五分五分だからな。そこを理解した上で、聞いてくれ」

「五分五分……」


 その確率はなんなのか、わからないが皆は黙って聞く。




「二つ目は…………魔王を倒したら、すぐに前の世界へ帰ることだ」

「?どういうことだ?」

「五分五分なのは、封印を解く条件に、エネルギーを手に入れることが入っているかわからないからだ。もし、エネルギーが必要だったら、こっちに分がある」

「…………もしかして、封印を解くことに使われる前に、こっちが先にエネルギーを使うということか!?」

「そうだ!!先に使えば、そのエネルギーは無くなる。だが、万全にやるなら、魔王を倒したらすぐに帰還の魔法陣を動かせばいい」


 二つ目の案は、完全な案ではないが、皆が納得する案でもある。邪神を復活させるには、エネルギーが必要なのか、わからないが魔王を倒しただけで、復活するなんてあり得ないと考えている。


 ゼゥクが封印した時、魔王は健在だったので、魔王と邪神の繋がりは無いに等しい。ただ、エネルギーだけは可能性があるので、輪廻はエネルギーを使ってしまえば、問題はないと考えていた。




「まず、今やることはこの世界に残りたい人と元の世界へ帰りたい人は今のうちに決めておくことだ」

「…………は?」

「ち、ちょっと待てよ!どういう事だ!?」


 帰る人と残る人と聞いて、訳がわからないという顔をする召喚者の人達。輪廻は当然の表情で皆に言い放つーーーー






「俺は元から前の世界へ帰るつもりはないからだ」












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