第百十三話 残った骨
勝った輪廻は倒れているゼゥクへ向かう。結界が消えたことから試練が終わったのがわかる。結界が消え、テミア達がこっちへ走ってきているのが見えた。
「御主人様!!怪我はないのですか!?」
「全身が少し痛む程度だから、大丈夫だ」
「いえ、回復させないと駄目です!”再水”!!」
回復の水が輪廻の身体を包んでいく。見た目は水の鎧のようになっている。完全に回復するのを待たずに、残った骨へ話しかける。
「さて、まだ話せるよな?」
『ククッ、まさかゼゥクがやられるとはね。やはり世代は変わる運命だったのですかな』
「知らん、話してもらうぞ。最後の試練をな。受けるつもりはねぇがな」
『ハハッ!!構わねぇよ、試練のことを話す前に報酬の話をしようぜ。報酬はこれだ!』
ガーゴイルがそう言うと、胸に刺さっていた邪剣イグニウルが黒い霧のように分解されて、輪廻の持つナイフへ移動してきた。
その黒い霧がナイフを包んでいくと、先程の蛇がナイフの腹に浮き出るように現れたのだ。ナイフの両面には黒い蛇と白い蛇の絵が描かれていた。
「まさか、ウィアとエズリィと言ったな?それが使えるように……?」
『それは少し違うな。二体の蛇がナイフに宿ったが、効果はゼゥクの物だったから、別の武器に宿れば効果も使い手に合わせて変わる。名前を付けてやるといい』
「へぇ……」
まず、二体の蛇の名前を付けろと言っていたので、名前を付けることに。
「ふむ、黒いのは『アモン』、白いのは『ハク』だ」
名前は覚えやすいのを付けただけで、深い意味はない。
名前が決まると、ナイフの絵が動き出して、実体化するように膨らんでいく。
アモンとハクが実体化し、体長が4、5メートルはある黒い蛇と白い蛇が輪廻の前に顕現する。
「ほぉ、透けているが触れるみたいだな」
「私も触れて構いませんか?」
「ああ」
テミアもアモンとハクに触れようとしたが、拒絶しているのか透けてしまって触れることは出来なかった。
シエルやフォネスも同様だった。
さらに、輪廻はナイフに『上位鑑定』を使ってみた。そうすると、新たな名前と効果が付いているのがわかった。
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邪剣カオディスア
白と黒の混沌な力を持つ剣。
アモン:攻撃形態(透過剣、死紋剣)
ハク:防御形態(反物盾、反魔盾)
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なんというチートな効果を持った蛇だと思った。効果は使ってみないと実感しないと思うが、技の名前を見るだけでも凄い効果を持っているとわかる。
「凄いな……」
『そりゃ、そうだろうな。これが最後の報酬だからな』
「つまり、最後の試練をしても報酬はないんだな?」
『そうだ、その前に聞かせろ。お前の魔法は変わったのか?どうみても『重力魔法』ではないように見受けたが?』
「ふむ……、普通なら教える必要がないが、こんな報酬を貰った後ではな」
今まで、ガーゴイルに利用されたようなものだが、試練に合格すればちゃんと報酬をくれていたのもあり、これぐらいは話してもいいと思った。
ただ、
「使った魔法だけは教えてもいいが、他は秘密な」
『構わねぇ。そこまで望んでいないさ。ただ、さっき使った魔法の内容がわからなかったから気になるだけさ』
「のぅ、我も気になる。特異魔法が変わるなんて聞いたことがないからな」
ガーゴイルだけではなく、ルフェアも気になるようだ。輪廻は戦いで使った魔法だけなら教えても問題はないと考えていた。さらに、前の重力魔法で使っていた魔法も残っているのだ。少しだけ変わった所があるが…………
「魔法が変わったわけじゃなくて、進化したんだよ。今は特異魔法『大気魔法』になっている」
まず、使った魔法は三つで”隠真空刃”、”静隠気”、”極気圧”になる。
始めに高い耐性を持つゼゥクを切り裂いた”隠真空刃”のことだが、正確に言えば真空刃を作る魔法ではないのだ。
この魔法は輪廻が目に見える範囲で大気を切り裂く魔法なのだ。つまり、真空刃は大気を切り裂く際に現れる副作用な物だから、魔力を持たない攻撃とも言える。その真空刃は耐性や魔耐に効果を及ばないため、ゼゥクの高い耐性や魔耐を持っても簡単に斬り裂けたのだ。
その刃は見えず、魔力も察知出来ない攻撃であり、さらに防げないと来た。ただ、大気を切り裂くために使う刀身はかなり魔力を消費をするため、そうそうと刀身を生み出せないのだ。ゼゥクみたいに馬鹿みたいな魔力があれば、別だが…………
次に、”静隠気”は大気に紛れ込むことによって、姿を隠す。さらに、魔力を隠す効果があって、ゼゥクの魔力察知から逃れることが出来るぐらいに隠密能力を持った魔法なのだ。ただ、音は消すことが出来ないようだが、輪廻は暗殺者としての技術を持っているので、走っても音を出さないことも難しくない。
最後に”極気圧”だが、暗殺者らしくない魔法だったが、それを使った理由があるのだ。それは、輪廻の”隠真空刃”さえも防いだウィアを引き剥がすためだ。何故、ウィアが”隠真空刃”を防げたのかはわかっていないが、これでは引き剥がさないにはゼゥクを倒せないと理解しているので、”極気圧”で押しつぶそうとした。
ウィアに守られていようが、圧し潰す力が上から来たら、ウィアがいても本体ごと圧し潰すことも可能だったかもしれない。実際にも、守るのを止めて反撃に出たぐらいだからな。
”極気圧”によってウィアを引き剥がすことに成功した輪廻は残しておいた”隠真空刃”でウィアが復活する前にゼゥクの核が隠されている頭蓋骨辺りを切り裂いたのだ。
これが魔法の正体であり、ゼゥクとの戦いで起こったことである…………
『成る程…………、やはり、お前は面白ぇな!!』
「そろそろ話してもらうぞ」
『キキッ!!慌てんなよ。言い忘れたことがあったが、二体の蛇は邪蛇の一種で、使い手が成長する毎に邪蛇も成長するからな』
「む、俺に影響を与えねぇよな?」
『問題はないな。お前が強くなることで、武器が強くなるとだけ考えればわかりやすいだろ?』
武器が成長するなんて、魔剣でもありえないことだ。だが、このナイフは邪剣であり、ルフェアも知らなかった物なので、それもあると聞かされても驚かない。
そろそろ、最後の試練のことを話してほしいと思った時、ようやくガーゴイルは話し始めた。
『最後の試練だったな。それは別にお前がやらなくてもいいことだから、報酬はないのさ』
「俺がやらなくても……?」
今までの試練は輪廻がやってきたが、最後の試練は別に輪廻ではなくてもいいと言うのだから眉を潜めてしまう。
ガーゴイルが続ける。ガーゴイルの念話から話される、最後の試練とは…………
『魔王を倒すことだ』
最後の試練が魔王を倒すこととは?邪神と魔王に何の関係が……?
それらは、次回をお楽しみに!!




