第百十話 元勇者の実力
粉々になった紅姫の破片が手元に残る。輪廻の武器である紅姫は邪剣イグニウルの攻撃によって修復不可能と思わされるぐらいに破壊されてしまったのだ。
今は手元に武器はない。まだ夢幻と普通のナイフならあるが、使ったとしても最良の結果を出せるとは思えない。だが、輪廻はーーーー
「なんてことをしてくれやがったぁぁぁ!!」
「ギィ!?」
輪廻は無手だろうが、ゼゥクの脇腹の肋骨を掴んで、柔道の要領で投げ飛ばした。ただ投げただけでは、ダメージには遠いだろう。
ゼゥクがまだ空中にいる間に、輪廻は”虚冥”を三発を発動する。
「消え去れ!」
「ウィア」
ゼゥクは慌てることもなく、ウィアで”虚冥”から守る。
「まだまだ!!」
次は”縮星”の引力でゼゥクからウィアを引きはがそうとするが、ゼゥクも一緒に引き寄せるだけだった。ゼゥクはまた黒いモヤを纏った剣で”縮星”を斬るとさっきみたいに侵食されて消えた。
(なんだ……?その能力は)
輪廻はそう考えながら、魔法は通じないので、近接戦を無手で挑む。ルフェア直から鍛えられた『気』を使った戦い方。
「”気拳打”!!」
『気』が練られた拳で脇腹に穿とうとするが、ゼゥクがただ立ったままで受けてもらえるわけでもなく、邪剣イグニウルの腹で防がれていた。そのまま、剣の腹を押し込んで、距離を取らせる。
「”深淵蹂躙”!!」
僅かに出来た距離の間に、攻撃の蛇であるエズリィが身体を鞭のように振るわれて黒い線が沢山生まれる。その線が輪廻に向かい、輪廻を飲み込もうとする。
「”気撃破”!!」
輪廻は洗練された気を放ち、迎え撃つ。輪廻は気だけで邪剣の効果を防げるとは思っていなくて、”気撃破”で相手の攻撃を逸らして僅かに出来た道を通って避ける。
『気ばかり使っても大丈夫なのか?気は体力を凄く消耗すると聞いたことがあるんだがな』
「いや、これでいい!!」
輪廻に考えがあって魔法を使わずに『気』を使った攻撃を繰り返しているのだ。
輪廻の考えとはーーーー
「ようやく、溜まったか…………”冥王”発動ぉぉぉぉぉーーーー!!」
『む?』
輪廻の狙いは、切り札である”冥王”を発動することである。でも、それは仲間に援護して貰わなければ、発動するのは難しいのではなかったのか?
「ようやく、気と魔力の使い分けが上手くなったようだな」
ルフェアがそう呟いた。その言葉にヒントがあった。
それは、
魔力と気は別の種類のエネルギーであり、”冥王”とはしばらく魔力を溜めなければならないから、魔力を使った動きや攻撃をしていると溜めることが出来ない。だから、紅龍王との戦いでは仲間を頼っていたが、今はようやく気を使った戦いをしながら魔力を溜めることに成功しているのだ。
しばらく気を使って、戦いながら魔力を溜めた今なら、切り札である”冥王”を一人で発動させることが出来るのだ。
輪廻の左手首には制限時間である黒い玉が五つ、囲むように浮いて、黒いコートが前より威圧を高めていた。
「さっさと片付けてやる!」
三倍のステータスになっている輪廻の攻撃、紅龍王をも押さえつけた力が発揮される。
のだったがーーーー
「は?」
繰り出された掌底がゼゥクの身体を撃ち抜く直前に…………手首を掴まれた輪廻の姿があった。
見ていたテミア達も止めたことに驚いていた。
『この程度で決まったと思ったのかよ?ほら、ステータスの数字を見れるようにしたから、見てみろよ』
ガーゴイルがそんなことを言う。輪廻は掴まれた手を動かそうとしたが、全く外れない。
「何故だ……………………なっ!?」
”冥王”を使っているのに、外れないことに少し動揺して、ガーゴイルの言う通りにゼゥクのステータスを確認してしまう。そこには輪廻が驚愕してしまうものが映っていた。
ちなみ、強化された輪廻のステータスは、
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祟条輪廻 11歳 男
レベル:132
職業:暗殺者(冥王発動中)
筋力:6960(20880)
体力:6620(19860)
耐性:5810(17430)
敏捷:11080(33240)
魔力:7730(23190)
魔耐:5980(17940)
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であり、ゼゥクのステータスは…………
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ゼゥク・バリジェア **歳 男
レベル:362
職業:元勇者
筋力:42690
体力:41970
耐性:39600
敏捷:48510
魔力:64250
魔耐:40240
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ゼゥクのステータスは全てが輪廻を超えており、絶望を与えるような数字だった。特に魔力は輪廻の三倍もある。
これが、元勇者のステータスであり、輪廻の攻撃が止められたのはその差であった…………




