第百八話 元勇者
人骨となって、動いている勇者…………今は英二という勇者がいて、目の前の人骨はどう考えてももう死んでいるから、元勇者と呼ぶべきだろう。
「……で、なんでここにいるんだよ?人骨なのはもう死んでいるからと予測出来るが」
「ん~、話すのは何故死んだのかだね。死んだのは邪神と戦って封印したら力尽きて死んだわけさ。…………ここは太陽神ラーの神殿だよね?」
人骨が周りを見て、壁画から判断したのか、すぐに太陽神ラーの神殿だとわかったようだ。だが、何故か人骨から困惑しているような雰囲気が流れていた。そこから輪廻はおかしなことに気付いた。
「ん、ここで死んだわけじゃないのか?人骨がここに落ちていたんだが……」
「マジで!?あー、棺桶とか墓場っぽいのがないね……」
「しかも、人骨から魔力で意思を持って動くのが不思議なんだが……。もしかして、そういう魔法を使ったとか?さらに、予定では、発動する場所が違ったとか?」
輪廻が言いたいのは、目の前の人骨はここで発動して動き出す予定ではなかったのでは?ということだ。
「そうなんだよな…………まぁ、お前が邪神の加護を持っていることから予定では問題はないんだがな」
「何?なんで、俺が邪神の加護持ちだと?」
「俺の骨は邪神の加護を持つ人の魔力で動く。それでわかったんだよな。まず、疑問を一つ一つと答えようか!」
確かに輪廻は様々な疑問があった。まず、邪神の加護を持った勇者が邪神と敵対して、封印を施したのか?それを聞いてみると……
「そりゃ、俺が邪神を復活させてしまったんだからだよ。その責任を取らないといけねぇからな」
「邪神を復活……」
「ああ、復活してしまった邪神は世界を壊して終わらせようとしたんだわ。勇者としては止めるのは当たり前のことだし、邪神の加護があっても世界を壊されたら、自分も消えてしまうからな」
邪神を復活させても、邪神の加護を持つゼゥクにも得がないのだ。なら、どうして復活させてしまったのか?
「お前も試練をやったんだろ?俺も魔王を倒すために、力が必要で試練を受けて力を貰っていたのだが、それが封印を解く鍵になるとは知らずに…………」
「はぁ?試練が封印を解く鍵に!?」
ここで意外な言葉を聞くとは思っていなかった輪廻達は驚いている。今までの試練が邪神の封印を解く鍵になるとは……
「ちょっと待て!その試練はいくつあった?」
「確か、五回あったはずだ」
「五回…………」
五回の試練が終わると、邪神が復活してしまう。なら、輪廻は何回終わらせた?
「今までは三回ですよね?」
「はい、一つ目がドッペルゲンガーと戦い、二つ目はマグマでワニを倒した。三つ目は二つの物を集める。後はここに行けと言われたぐらいですね」
「ここに来る自体が四つ目の試練だとしたら、もう四回だのぅ」
そう、四つ目は不確かなので、三回は終わったことになる。これなら邪神を復活させることは出来ないはずだ。
いや、何故ガーゴイルはここへ行かせた?
今、ゼゥクから話を聞けば、邪神を復活なんて輪廻がさせるわけがない。輪廻は自由に旅をしたいことであり、世界を壊したいわけでもないのだ。
話を聞く限り、邪神は世界を壊すためにいるようなものだから、誰だっても復活はさせないだろう。
「なら、ガーゴイルは目的はなんだ……?」
「ガーゴイル?今回はガーゴイルが試練を出しているのか。俺は黒の妖精だったんだがな」
「は?試練を出す当事者が違う?」
てっきり、前もガーゴイルが動いていたと思っていたが、違うようだ。
それに、何故、骨が別の場所ではなく、ここにあったのか…………
ここまで話してわかったことは、目の前のゼゥクは邪神の加護持ちで勇者であり、力を得るために試練を受けていた。
五回の試練を受け終わった後に邪神が復活した。だが、それはゼゥクの本意ではなくて、命を掛けて勇者として世界を守るために、なんとか封印を施して、死んだ。
その遺体は別の場所にあり、未来で邪神の加護を持つ人が現れても封印を解かれないように、死ぬ前に自分自身へ特殊な魔法を掛けて、一時は邪神持ちの人と話せるようにしたのだ。だが、今は予定の場所ではなく、太陽神ラーの神殿という場所で輪廻とゼゥクは出会うことになった。
「誰かが骨をここに運んだ……?」
「え、それだと、あのガーゴイルが一番怪しいんだけど…………、場所を指定したのはあのガーゴイルだし」
ここに行けと言ったのはガーゴイルであり、一番怪しいのは確かにそうだろう。
「ガーゴイルが…………っ!?う、ぁああぁぁぁいぎぃぁぁぃぃい!!?」
「何が!?御主人様、下がって下さい!!」
「チッ!」
一番近くにいた輪廻はバックステップをして急に苦しみ始めたゼゥクから離れた。人骨の身体から黒い靄のような物が現れて、何処からか声が聞こえた。
『よしよし、四回目の試練を始めようじゃないか』
「ガーゴイル!?」
「石像がないのに……?」
『ククッ、ワイは石像がなければいけないわけでもないさ』
「っ、あそこから声が聞こえるのぅ」
ルフェアが指を指した先には苦しむ人骨の姿があった。もしかして、ゼゥクの人骨を介して喋りかけているのか?その推測は正しかったようで、苦しんでいたゼゥクが落ち着いてダラーんと首と両手をぶら下げていた。
『そうだ。人骨から話しかけている。今回はこいつ、元勇者であり、お前の先輩でもある奴を倒せ。それが四回目の試練だ!!』
そういうと、輪廻の側にいたテミア、シエル、ルフェアが弾かれるように吹き飛ばされてしまう。初めは目の前の人骨による攻撃だと思ったが、後から結界が現れたことから一対一でやるために弾き出されたとわかった。
「御主人様!?」
「大丈夫だ。今回も一対一でやるみたいだ。しかし、この四回目の試練は強制だからやらないのは無理だな…………」
話を聞いて、邪神を復活させるつもりはない輪廻だったが、はぁっと溜息を吐きながら諦めたような表情になる。紅姫を構えて、操られている人骨のゼゥクに向き合うのだった…………




