第6話柚子
一体あれはなんだったのか。どういう意味だったのだろう。意味は無いのだろうか。
好きなのに
言葉の意味は重く。
幸はあの後から、遅刻組みの卒業をしていた。いつもの様に学校へ行って、智紀に会うのが怖かった。どういう顔をして話せばいいのか。むしろ、話さないほうがいいのではないのか。
「あああああ!!!もう!!どうすればいいの?!」
幸は授業中しかも、テスト中に突然叫んだ。周囲の冷たい視線が痛く、肩をすくめながらいそいそとテストへ集中した。
考えれば考えるほどわからなくなっていった。言葉の意味も、智紀のことも、自分のことも。二人の関係は永遠にあのままだと思っていた幸は、あの言葉がなんなのか。幸はあんな一言で今まで積み重ねてきたものが、壊れるとは思ってもみなかった。
「どうしたの?何か考えて」
一人ぽつぽつ歩いている幸に声をかけたのは、大親友の曽根山柚木(そねやまゆき)。中学生とは思えないくらい、艶っぽく色気のある女性だ。幸は、柚木に抱きつき、これまでの事を話した。柚木は幸の頭をよしよしと撫でた。柚木は、頭を傾け考えると、
「どういう意味か確かめたの?・・・・・・確かめてないのに、一方的に避けるのはどうかと思うわ。彼だって、その発言の釈明をしたいと思ってるかもしれないし。・・・・だから、一度しっかり話して御覧なさい?」
と言った。幸はこくんとうなずき、
「話してみる・・・・・けど、どうやって・・・・・」
と言った。最近、智紀とは全然話していないし、顔を合わせてもいない。きっかけが何も無いのだ。柚木はふぅっと息をつくと、
「しょうがないわね。最近話してないから、きっかけ無いんでしょう。違う?」
と幸に問いかけた。何故、こんな事までわかってしまうのか。幸は感心しながらうなずいた。
「よし、ここは私が一肌脱ぐか」
柚木は一言そう言い、私服のように見える着崩した制服を直し、歩いていった。
カリカリと言うシャープペンシルの音が教室に響いていた。智紀は一人シャカシャカペンを走らせていた。
「・・・・智紀?何してるの?」
柚木はゆっくり智紀の前に座り、たずねた。智紀は書いていた紙をさりげなく隠し、
「別に・・・・・・。何しに来たの?」
と柚木に質問した。柚木はカシャン、と智紀のシャープペンシルを落とした。智紀は、いいよ、とシャープペンシルを拾うために、かがんだ。柚木は、ゴメンネ、と言いながら、さり気なく机の上から紙を一枚、抜き取った。すばやく文章に目を走らせると、柚木は、ふっと息をつき、元の場所に戻した。
「ごめんね。落として。・・・・ちょっと、用事思い出したわ。バイバイ」
「ん?ああ。じゃーな」
柚木は煙のように教室から出ると、クスッと笑った。