001 その店は店長の道楽につき…
全面的にリメイクしました。
金持ちの道楽ほど、わけのわからないものはない。
目の前の光景を見て彼の頭に浮かんだのはそんな言葉だった。どこで聞いた言葉か忘れたが、まさしくその通りだと頷ける。
背は高く、かなり目つきはキツいものの、モデルと称しても違和感の無い容姿をしている秋月千尋は、酔狂な趣味をこじらせた結果として骨董屋を始めてしまったという、何かが間違っているのだが、容姿と実力を人並み以上に兼ね備えた才色兼備の美女と言っても良い。
「来たか数馬くん。見ろ。連絡から2週間もかかって、あのババアに詐欺られたかと思ったが。無事に届いたな」
ただし、黙っていれば。
運送屋に届けられたばかりで「ワレモノ注意」や「取り扱い注意」といった張り紙が張られたままの大きなダンボール箱を前に、今にも踊りだしそうなほどに嬉しそうな声を上げるその様子はどこからどう見ても美女の前後に「残念な」とか「(笑)」がつく気がしてならない。
朝、出勤直後に見せられたそんな雇用主の様子に天城数馬は深いため息をつかずにはいられなかった。
たしかに骨董屋に運び込まれる物なのだから「ワレモノ注意」や「取り扱い注意」はむしろ張られていて当たり前だろう。だが、オーナー店長様の様子からするとただの骨董品のわけがない。
「おはよーございます、千尋さん。で、なんすか?それ」
「中身はガラスケースに入った市松人形だよ」
なるほど。それは確かにワレモノだ。というか、中身が普通だ。
数馬はそう納得する。ジャンルや売れ筋を無視してオーナー店長が気に入ったものを仕入れて売るという商売する気があるのか疑われる経営方針のこの骨董屋では、以前にも年代物の人形を扱ったこともあるので市松人形というのもありえないものではない。
だが、普通に「骨董屋として仕入れた」にしては千尋の反応がおかしい。あれは、ほぼ確実に骨董屋としてではなく千尋個人の趣味の物だろう。
だとしたら、普通のはずがない。
この残念な美女の趣味の物なら、絶対に「何か」ある。たとえば人形は人形でも「夜になると勝手に歩く人形」とか。それは予感と言うよりも数馬の中では確定事項だ。
なにしろこの秋月千尋という人物がこれまでに集めてきたモノの多くが「血が流れる落ち武者の絵」とか「広げるたびに表情が変わる幽霊の掛け軸」あるいは「映った自分の顔が勝手に笑う鏡」や「髪が伸びる西洋人形」など、怪談話か与太話のネタとしか思えないようなシロモノばかりなのだ。
そういったモノの由来と真贋を調べて、怪談じみた話が本当ならそれはいったいどういう理屈で起きる出来事なのか、はたまた嘘だったのなら、なぜそういった話が付随したのかを調べて解明するのがこの上なく楽しいと公言している。
ある意味、つける薬の無いタイプの人物と言えるだろう。
しかもたまに『本物』を見つけたりするのが余計に始末が悪い。
そのため、数馬の頭の中では「千尋とその周囲に常識は通用しない」という認識がなされている。
「……今回は「夜になると勝手に歩く人形」かなんかですか?」
「おしいな。これは「夜になると笑い出す人形」だ」
「いつもの事ながら変な物を。そりゃもうホラー映画っすよ」
数馬の正直な感想は「あいかわらず酔狂な」のひと言に尽きた。
実際に見たら子供は泣き出し、大人でもトラウマになるに違いないシロモノを手に入れて大喜びしているのだから、千尋の趣味は数馬には理解できないし、正直に言って理解したくない。
「変とはずいぶんな言い草だな」
「まあ、これまでの経験上、いまさら千尋さんがなにを調べても驚かない自信があるんすけど、ホンモノっすか?」
「それを今から調べるのだよ。………そんな顔をするな。言いたい事があるのなら、口に出して言った方がいい。自分の中に溜め込んでいるといずれパンクするぞ」
「文句を言うつもりはないっすよ。どうせ僕が言ったくらいで千尋さんの道楽が治るとは思ってませんから」
「道楽とは言ってくれるな。その結果として君の仕事場があるのだろう?」
千尋は不本意だとばかりに反論するが、数馬にも言い分はある。
「駅からも中心街からも遠く離れた、地方都市のさらに辺境の小さい寺の三門前にある寂れた商店街に客もほとんど来ないような骨董屋を開くのは道楽以外のなんでもないと思います」
言いながら自分で言い分の正当性を実感するが、同時に数馬は「なにをどう間違ってここに転がり込んだのだろう」と頭が痛い。
しかし、千尋は一本立てた指をチッチッチと振り、ニヤリとした笑みを浮かべる。
「それは言わない約束だ」
「してませんよ。そんな約束」
「さっき私がそう決めた」
「………もういいっす」
千尋の態度に、もはや悟りの域にまで到達しそうな勢いで諦めている数馬は骨董品クラスのレジスター前、自分の指定席に腰を下ろしながら深くため息が出た。
(もしかして、この人のところに転がり込んだのは、人生最大のミステイクなのではなかろうか)
まだそれほど長い時間生きているわけではないが、そう思わずにはいられない。
一年半ほど前。入ったばかりの大学を中退するはめになった、とある厄介ごとに巻き込まれた際に千尋に拾われてそのまま彼女の店に転がり込み、下っ端だの丁稚だの言われながらも彼女のところで働いている。
仕事そのものに不満はないし、労働内容や仕事量のわりに給料もいいのでその事自体に文句はない。しかしそれでもこの「黙っていれば美女」な雇い主の言動には頭を抱えたくなることが多い。少なくとも、ため息の数はものすごい勢いで増えている事は確実だろう。
しかもあたりを見渡せば、店内に陳列されているモノがまた普通じゃない。
この店は一応骨董屋ということになっているのだが、店内にはどこかの部族の祈祷師が怪しげな儀式に使ったといわれても違和感がないどころか「そうだろうな」と頷いてしまえるほどに子供が見たら泣き出すレベルでおどろおどろしい形相の仮面や、なぜかわからないが禍々しいと言ったほうが良さそうな気配を放つ赤黒い壷などが並んでいて、とても骨董屋とは思えない様相を呈している。一応普通の骨董品っぽい物も無くはないのだが、それ以外の存在感が大きすぎて実に目立たない。
「ただでさえご近所からお化け屋敷とか言われてるのにこれ以上怪談ネタを増やしてどうするんですか」
「怪談ネタとしてはいささかインパクトに欠けるだろう。別に包丁を持って追いかけてくるというわけでもなし」
「怖っ!」
数馬からすれば、たしかに人形が勝手に動いて包丁を持って追いかけてきたら怖いが、さらりとそんな発想が浮かぶこの残念な美女の思考回路も怖い。
「とりあえず、目撃情報もあるのだ。真偽を確かめねばなるまい」
「確かめて、もし笑ったらどうするんすか?」
「言うまでもなかろう。その事象を引き起こすその理論を探求し解明する。どんなに不可解な出来事でも観測された以上事実であり、それを引き起こす原因と法則は必ずある。それらが現代人類が「科学」と呼称している既存の理論体系の中で説明されているかどうかなど、些事にすぎない。世界というものはね、そのように出来ているのだよ数馬くん。別に科学を否定する気はないが、この世のすべてを科学で説明できるなどと一体誰が証明したんだ?科学というものはこの世界のルールのごく一部を人間が「そう解釈した理屈」に過ぎないというのに。そもそも、現代科学は未完成の理論体系なのだよ。だからこそ学者が日々研究しているというのに、それを理解できない者ほど既知の理論で説明できない事象は何でもトリックだの錯覚だのと喚き散らす。自分が理解できないから「科学的じゃない」なんて言って観測事実そのものを否定し誤魔化すのは、己の無知を認めたくない連中の無様な言い訳だよ」
酔狂な趣味と道楽を何よりも優先するこの人物は時々こんな事を言う。
「熱弁を振るっているところ恐縮ですが」
「なんだ?数馬くん。なにかわからんところでもあったか?」
「その話は何度も聞いてるし、「そういうモノ」が存在するのはもう体験したので納得は出来るんすけど、千尋さんのテンションにはついていけません」
たしかに、千尋が言うことは数馬もわからなくはない。正直に言って、千尋のところに転がり込んでから何度か「そういうモノ」に実際に遭遇しているので、それの実在自体を否定するつもりはない。
だからと言って千尋の酔狂すぎる趣味と理論展開にはついていけず、数馬は本当に頭が痛い。
この骨董店は一日の営業時間内に三人来れば良い方という、もしかしたら閑古鳥が一個大隊規模で居座って大合唱してきているんじゃないかというレベルで客が来ないのになぜか潰れないということで「商店街の七不思議」とか言われてるが、数馬にはどちらかと言えば千尋本人の方が不思議だ。
眼鏡越しでもビビるぐらいに目付きが悪い事を除けば、かなりの美人だと思うのだが、いかんせん思考回路がかなり奇抜だ。いや、はっきり奇人変人と言い切ってもいい。しかもいろいろな面で有能なのは知っているが、それだけ余計に始末が悪い。
「………そうか?まぁいい。さっさとコレの調査にとりかかりたいところだが、どうにもタイミングが悪いな。あっちの件もあることだし、とりあえずは固定カメラで定点観測でもしておくか。ビデオカメラのメモリーカードにも空きがあったばずだし」
「珍しいっすね。新しい玩具が手に入ったのに徹底的に調べないなんて」
「この人形が予定よりも二週間も遅れて着いたのもあるが、別件で気になる事があってね」
「別件?」
「そんな嫌そうな顔をするな。どちらにしろ調査に行くときは君も連れて行く」
「あ、そこは確定なんすね」
「君は私の丁稚だろう?とりあえずは、梱包の解体とカメラの設置だな。数馬くん。雑事は任せる」
「いや、雑事って」
「どうした、こちらをじっと見て」
「千尋さん。この店のオーナー兼店長っすよね?」
「確認するまでもなかろう。君を雇っているのは誰だ?」
「ひとつ気になったんすけど、店はほったらかしでいいんすか?」
「店番は君がいるだろう。それに私は言ったぞ雑事は任せると」
店の奥へダンボール箱を運ぶ手を止め、店の事を雑事呼ばわりというありえない言葉をさも当然のようにオーナー様は言い切った。
しかし、千尋にとって店の事は二の次であることは事実だった。
ではなぜ彼女がなんでこんな客も寄り付かない骨董屋をやっているかというと、純然たる個人的な趣味の"不本意な"延長だから。
厳密には、変な曰くの付いた得体の知れない骨董品を集めて自分なりに調べるのが彼女の趣味で、そのコレクションの置き場に困ったので自分で満足がいくまで調査し尽くした物は売り払ってしまおうと骨董屋を始めたのだ。
当然、店の事など二の次以下。しかもそんな怪しげなモノを並べる店が儲かるわけが無い。
そんな趣味と経営方針の彼女はどうやって生活しているのかと言えば、観察と統計の結果はじき出した本人なりの理論でありとあらゆるギャンブルで築いたひと財産があったので、それを元手にあちこちに土地や不動産を買い、その家賃収入で生活している。
もっとも、それ故に誰に気兼ねする事もなく酔狂な趣味に邁進しているのだろうが。
「……もういいっす。どうせ客も滅多に来ない店っすから」
「数馬くん、それは皮肉か?」
「動かしようのない事実っすよ」
「まあ、それは否定しないが」
「店のオーナーがそれでいいんすか?」
「とにかく、君は店番だ。客が来たら呼ぶといい。私も用事が出来たら呼ぶ」
そう宣言すると、商売っ気がまるっきり無いオーナーはダンボール箱と一緒に店の奥に消えていく。
その様子を見て数馬は、おとなしく店番をしていた方が身の為だと確信した。
自分の趣味をなによりも優先し、そのためにこの世界は存在すると公言して憚らない千尋の趣味を邪魔するなんて、アヒル型足漕ぎボート一艘とエアガン一丁で大和型戦艦に戦いを挑むようなものだ。戦力比がどうこう言う以前の問題である。
それに、客が来ないからマンガを読んでいてもゲームをしていても千尋は文句を言わない。
……経営者としてそれでいいのか、ものすごく疑問ではあるが。
そんな道楽者の経営者とそれに振り回される丁稚がいる骨董屋の名は『和洋折衷』。
もちろん命名したのはオーナー店長の千尋。
本人は「日本の骨董品以外に西洋のアンティークも扱っているのだから、わかりやすいだろう」などと言っていたが、その外観は白い漆喰の壁と重たそうな瓦屋根が特徴的な時代劇にそのまま出てきても違和感のなさそうな古い純和風建築。建物そのものが骨董品と言ってもいいほどにものすごく古い。
その屋根の上に掲げられている看板は、古材をそのまま利用した年季を感じさせる欅の一枚板で、そこに達筆なのかヘタクソなのか数馬にはわからない千尋直筆の文字で『和洋折衷』と書かれている。なんとか読めるので看板の役目は果たしているのだろうが、全体的には微妙だ。
その内部は千尋が買い取った後に改装しているが、それでも間取りや柱などは建築当時のままで、店舗というよりも千尋個人の趣味の産物と言ったほうが正しい有様だった。
そして例に漏れず、建物そのものも曰くつきというか「妖怪憑き」らしく、千尋が買い取る前は取り壊そうとするたびに通常では考えられない事故やトラブルが起きていたトンデモ物件だそうだが、幸か不幸か、数馬がここにきたのは千尋によるリフォーム後なので事故のことは知らないし、まだその"憑いている"妖怪を見ていない。
そんな骨董屋で、数馬にしてみれば、たまに荷物運びの力仕事はあり拘束時間こそ長いもののほとんどの時間を何もしないで本やマンガを読んでいてもそれなり以上の給料がもらえるのでありがたいが、本当にこれでいいのかと首を傾げたくなる気持ちがないわけではない。
やはり金持ちの道楽というのは理解できないが、そのおこぼれに預かれるのだから文句を言う筋合いでないのも事実。
少なくも、世のサラリーマンの皆さんには「大学中退でこんな楽でおいしい仕事に就いて、就活に苦労した社会人ナメてんのか」と怒られそうではある。
日頃、千尋の奇行に頭を抱える数馬だが、それ以外は居心地がいいためにやめられないのも事実なので、ここに転がり込んだのは間違いだった気もするが、同時に最善の選択だったという直感もある。
矛盾している自覚はあるが、自分でもどっちなのか判断に困る時がある。
そんな何かが間違っている客も来ない骨董屋で店番の数馬は指定席のレジスターの横に敷いた座布団に腰を下ろし、横に置いたテレビから流れる情報番組の音声を聞き流しながら店の売り物のひとつである年代物の和綴じの古書を開く。
むしろ古文書扱いしても良さそうなほどに古くボロボロなそれは、書かれた崩れた書体の文字を解読するだけでも一苦労だが、内容そのものは数馬にとっても興味深いもので、読み進める速度は遅いが、むしろ本への集中度は極めて高い。
千尋に聞きながら自分で作った「崩し文字解読表」と見比べて、新しいノートに自分で書き写していくという歴史学者かその研究生のような数馬の様子は、文句を言いながらも千尋のところに居つく事ができる奇人にしか見えない。
本人は必死になって否定するだろうが、まさに「類は友を呼ぶ」。あの残念美女のところに転がり込んでそのまま居つくぐらいなので、数馬自身も世の中の基準に照らし合わせれば十分に酔狂な人物だった。
しかし、そんな数馬が読書のような解読のような作業を始めて数分も経った頃。ようやく数馬自身の頭もエンジンが回ってきたところで
「数馬くん。少し出るぞ。準備をしろ」
店の奥から出てきた千尋はいきなりそんな事を言い切った。
酔狂な趣味のために取り寄せた人形を嬉しそうに奥に運んでいた千尋ならしばらく、下手をすれば今日一日は人形のそばを離れずにいろいろと調査していると思っていただけに古文書から顔を上げた数馬の顔は驚きに染まっていた。
はっきり言って想定外。少なくとも午前中は読書というか解読に集中できると思っていたのに。
「はい?出かけるって店はいいんすか?……って言うのはいつもの事だから横においておくとして、さっきのホラー映画みたいな人形はどうするんすか?」
「あれなら人形の前に固定カメラを置いておいた。後でチェックするよ。それよりも、さっきも言った別件だ。私も動かざるを得ない状況になったのでね」
「うわぁ」
千尋自身が「動かざるを得ない状況」という言い回しに嫌な予感しかしない。
今までの経験から言って、千尋が自分から動く事態というのはいろんな意味で数馬の常識を破壊してきた。ただでさえそれなのに「動かざるを得ない」なんて言い回しをされたら、その嫌な予感はもはや確証に近い。
「なんだその顔は」
「だって千尋さんがそういう言い方をする場合って大抵はどエラい事になるじゃないっすか。今までの傾向として」
「気にするな。私には一切気にしない」
(本当にこの人は)
千尋に振り回されるのには慣れ始めている数馬だが、こういうところは頭が痛い。
「いやもういいんすけどね。いろいろと諦めて慣れる事にしたんで」
「そう思っている割には、君の口も減らないな」
「じゃぁ従順なイエスマンになりますか?」
「そんな主体性が無く気味の悪い非知性体など滅菌焼却するぞ。自分の価値観や信念を持てない者はハゲ猿以下だ」
「ですよね~。で、千尋さん。一体何事なんすか?」
「まだ大きな騒ぎにはなっていないがね、吸血鬼が出たらしいぞ?」
「吸血鬼っすか」
吸血鬼が出た。
なんとも胡散臭い話というか、ゴシップ雑誌の記者かワイドショーのディレクターぐらいしか喜ばないであろう言葉で、普通なら千尋の頭か情報源を疑うところだろうが、この能力は優れるが目つきが悪く性格面でいろいろと残念な美女(笑)の場合、頭から否定できないのが恐ろしい。
少なくとも、数馬から見た千尋という存在の口からそんな言葉が出ても驚くことは無い。
せいぜいが
(またメジャーなものが出てきたなぁ)
数馬の感想はその程度だった。
いろいろと感覚がおかしくなっている自覚は数馬にもある。だが、この店に転がり込んでから今までに経験したことを考えれば"たかが吸血鬼"が出たという話程度では驚くに値しない。
むしろ数馬が聞いたことも無いような超マイナーなバケモノでも出たのなら、それはそれで驚くだろうが、それはその存在そのものに驚くのであって、出たという事象そのものには驚かない自身があった。というか、すでに「そういうモノ」がこの世界に存在していることには驚かなくなったぐらいの耐性は得ている。
数馬に自覚はそれほどないが、千尋に出会ってから価値観を一度破壊されているので、そっち方面ではドラゴンが出ようが地底人がわこうが、「へー。そんなも居たのか」で済ませてしまうだろう。
「とりあえず、情報収集のために現場へ行くぞ」
「ういっす。じゃ、店は臨時休業っすね」
「そうなるな」
「本当になんで潰れないんすか?この店」
「あまり細かいことは気にするな」
「給料がきちんと出て、俺がいるあいだに潰れなかったら気にしませんけど」
「……私が言うのもアレだが、君も大概に"イイ性格"をしているな」
「たぶん千尋さんの影響っすね」
「口の減らない丁稚だ」
互いに軽口を叩きながら閉店作業を始める千尋と数馬はどこから見ても似たもの同士で仲が良かった。
2015/04/20 リメイク版投稿