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アートバンビーノ  作者: 凩夏明野
第一章-病-
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邂逅

バンビーノに所属してから一週間が経った。

そして手元には纏まった金、具体的な金額を言えば十七万円がある。

一回の殺しにつき、まあ相手の危険度にも依るが、大体三万円程支給される。


「人の命は今の時代だとたった三万円の価値しかない、って事を暗に示してるよねこれ。」


ココアに乗っかった生クリームを突きながら雨は言う。


「そうだな。全く以てけったくそ悪い話だ。」


対して俺はグラスに入ったオレンジジュースをストローで掻き混ぜる。

何て事はない日常風景だ。

目の前の金を除けば。


「でもさぁ、何にしても凄いねそー君。一週間で十七万も稼いじゃうなんて。おとーさんより稼いでるんじゃない?」


「月給に直せば大体七十万だからな。確かに稼いでる。」


……別に俺は金が欲しい訳じゃない。

人を殺して金を貰うなんて、それこそけったくそ悪い話だ。

労働に対する正当な対価だなんて思いたくもねえ。


「十七万か……どうすりゃいいんだこんなもん。」


「どうすりゃって、何か買えばいいんじゃないかなぁ。あたしに何か買ってくれてもいいよー。」


「別にそれはそれで構わねえけど。」


「冗談だよ冗談。使い道がないなら貯金でもすればいいんじゃないかなぁ。」


それもそうか。

使わなきゃならねえ訳でもないし。


「そうだな。よっしゃ、そうと決まったら貯金だ貯金。銀行に行くか。」


「行こう行こう。って、そー君口座持ってるの?」


「……持ってねえな。」


「なら一回お家帰って印鑑持って来なきゃね。」


印鑑か……。

自分の印鑑なんて持ってたっけか俺。


「まあいいか。んじゃ一回戻ろうぜ。」


「はいはーい♪」


オレンジジュースを飲み干して、伝票をもってレジに向かう。

別に女には男が奢るなんて考え方持っちゃいねえが、まあ此処は俺が支払っておこう。


「ごちそーさまでした♪」


「はいはいどう致しまして。」


雨の感謝に適当に返事をしながら店から出る。


「じゃあお家に向かってレッツラゴー!」


「……元気な奴だな。おいおい走るなよ!転ける―――」


「Mi dispiace.」


「へ?」


雨に声を掛けている途中で割り込む女の声が一つ。

みでぃすぴーす?


「Per Bambino non dice che cosa devo fare?」


「えー……あ、アーハン?」


何を言っているんだこの女。

此処は日本だ。

郷に入れば郷に従え。

日本では日本語を話せ。

せめて英語にしてくれ。


「んー?どうしたのそー君。」


「おお助けてくれ雨。この人が何か言ってんだがさっぱり分からねえんだ。」


「うーん……。Se ci andate 1 km a est di qui, se il Bambino.」


「Grazie ragazzo!Nessuna donna conosciuta italiano.」


「Devo dire.」


さっぱり分からない俺を置いて、雨は目の前の女と話している。

これが雨の本領発揮。

相手の心を読めるんで、外国の言葉も覚えられちまう。

らしい。

仕組みはよく分からねえがな。


「Cosi si incontreranno di nuovo la signorina.Ragazzi e la.」


「Si.Compra e vendi.」


どうやら会話は終わったらしく、女は去って行った。


「ふー。ったく、日本に来たなら日本語で喋れっての。」


「あの人日本語話せたみたい。」


「は?そうなのか?」


「うん。そー君をからかったみたいだねーあははぁ。」


……何て奴だ初対面の人間をからかうなんて。

日本人はな、いきなり知らねえ言葉で話し掛けられるとびびっちまう人種なんだよ畜生。


「初対面かぁ。どうだろなぁ。」


「はあ?何がどうだろなんだ?」


「あの人バンビーノの一人みたいなのよ。だからぁ、もしかしたらあの人はそー君を見た事あるのかもって事。」


「成る程。」


確かにバンビーノがどうのこうの言ってやがったな。


「名前はアックアーリョ・アリスレット、17歳。名前を訳すと『水瓶座のアリスレット』だねー。」


「やっぱ知らねえな。それに知る事もねえだろうぜ。」


俺はバンビーノだと言っても独立暗殺部隊の一人だ。

一人で行動する事を許されている。

……勝手な自己満足だが、殺人者に堕ちても、殺人者と馴れ合うなんて事はしたくない。


「……そうだね。身内贔屓って言うとちょっと違うかもだけど、あたしはそー君の事いい子だと思ってるから。絶対に味方だから。だから……あんまり考え過ぎないで。」


「雨……?」


何時もあっけらかんとしている雨が真剣な事を言っている。

熱でもあるんだろうか。


「もう茶化さないでよー!」


「ははは、悪い悪い。さ、無駄話はこの辺にして早く家に帰るぞ。」


「あ、ちょっと待ってー!」


走り出す。

そう、立ち止まってなんかいられないんだ。

目的を果たすまで、俺は立ち止まっちゃいけない。

最終的にそれが利己的だと罵られようと。


「……あたしはずっと、そー君の味方だからね。貴方のおかげであたしは……。」


雨が何か言った気がしたが、切り開いた風が邪魔して聞こえはしなかった。

イタリア語の翻訳は某先生を使っているので適当ですごめんなさい

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