試験
簡単なとは言ったが、さてどうするか。
確かに簡単は簡単だ。
今校舎に残っている奴は多分俺とその試験官だけ。
教室を一つ残さず調べりゃ見つかるだろうが、それはさすがに面倒だ。
「面倒だって言えばこの教室だな。しきたりだかなんだか知らねえがさっさと片しちまえばいいのに。」
この学校では卒業式の時、生徒が自分達のこれからについて黒板に一言ずつ書いていく習わしがあるらしい。
俺は書いてないから、さっきクラスの奴に聞くまで知らなかったが。
そしてそれは新学期まで消さずに取っておくらしい。
何でも生徒のこれからが簡単に消えないようにとか言う願掛けみたいなもん……らしい。
……確かに、こんな世の中じゃ『これから』なんてのは簡単に消えちまうからな。
可愛い生徒達を思う気持ちでこんな事を始めたんだろうな。
卒業式に使った体育館なんかもそれと同じ意味で新学期まで保管する……らしい。
さっきかららしい連発ですげえ間抜けみたいだな俺……。
「あ……なら教室で試験なんて有り得ねえか。」
間違って黒板に傷でも付いたら大変だし。
……となると、教室並に広い部屋を探せば良い訳だ。
「となりゃ、此処しかねえよな試験官さん?って、お前が試験官?」
「ごほ……。よく分かったね此処。僕が君の試験官さん。」
会議室くらいしか広くて動ける部屋ねえよ。
ご丁寧に机も寄せてあるし、やっぱ見せろって事だな。
いやそれより……。
「お前俺より若いんじゃねえか?」
「ごほごほ。良く分かったね正解。げほごほ。一つ下だよ君の。」
「……調子悪いのか?」
「いや別に。ただのエボラ出血熱だよ。まあそのせいで頭痛やら鼻血やら酷いけど気にしないで。」
……いやいやいやいや!
「気にするわ!エボラ出血熱とか死ぬだろお前!」
「ああ、大丈夫だし君にも移さないから。でもあんまり気持ちの良い物じゃないから、早く見せてもらっていいかな。」
「……。」
移さないとか本当かよ。
……まあいいが、やっぱり考えた通りだったか。
見つけて終わりなんて試験でも何でもねえからな。
「分かった見せてやるよ俺の『アート』。」
「うん話が早くて助かる、ごほ。」
「ったく、マジで移すなよ?……『凪』。」
何も無い空間から日本刀の一振りを抜く。
「ふむ……空間を弄る系が君の力?」
「違う。よく見とけよ。」
『剣』発動。
「……!」
今までぼけっとしていた試験官の目も一瞬くらいは驚きの色を浮かべただろうな。
見てないから分からんが。
「どうだ?見ての通りこれが俺の力。刃物をそれが持つ以上の力を発揮させる事が出来て、尚且つ刃物をその道のプロより上手く扱える。それが俺のアート、『剣』だ。」
「成るごっほ。よく分かったよ。良いでしょう合格。おめでとう君も今日から『バンビーノ』の一員だ。」
……だから、別に祝う様な事じゃない。
殺人集団の一員になる事なんて。
「依頼とかはごほ。明日か若しくはそれ以降から来る筈だから。」
「随分アバウトだな。」
「仕方ないよ。僕は日本支部の一人って訳じゃないんだし。」
「そうだよなやっぱ。帰る前に聞いてみようと思ってたんだけどよ、お前何処の国の人間なんだ?」
見た目からしてアジア系ではないだろう。
明るい茶髪にコバルトブルーの瞳だし。
「ああ、確かにこっちだけ一方的に君の情報を知っているというのは、中々に卑怯臭いね。僕はイタリア本部……まあいいか。イタリア本部のマラッティーア・ウォーモ。17歳だ。よろしく。」
「マラッティーア・ウォーモね。」
長ったらしい名前だこと。
「イタリア本部の人間の割に日本語がえらく上手いな。日本通とかか。」
「ごほ。確かに日本は好きだけど通かと言われればそこまでではないね。まあ細かい事は良いじゃないか。僕はエボラ出血熱が本格的になってきたから帰るよ。」
「あ、ああ。お大事に。」
「Grazie。」
最後だけイタリア語を話し、マラッティーアは出て行った。
……しかし本当に長え名前だな。
「とまあそれより、取りあえず目的に一つ近付けた事だけ祝っておくかな。」
おめでとう、これで真実までの道は縮まった。
始まりだ。
……蛇足ではあるが、マラッティーア・ウォーモについて雨に話した所知っていた。
その名はイタリア語で『病の男』を意味しているらしい。