真相究明
「いっ……!?」
「ふむ。どうやらフレイルチェストを起こしている様だね。息がしにくいだろう?」
「ま、マラッティーア……!」
「話をする前に先ず君の応急手当をしよう。じゃないとまともに話せないだろう?」
「痛え!な、何しやがる……!」
患部を思いっきり押される。
めちゃくちゃ痛い。
「この程度で騒がないでくれ。……肋が三本程折れているね。この程度なら10分くらいで治るかな。」
「アホか……折れた、骨がそんな……短時間で……。」
「はいはいだから喋らないで。はい終わり。」
「っ……!?」
特に何かをやっていた様には見えなかったが終わったらしい。
次は押されるんじゃなくて叩かれた。
「痛えって言ってんのに……またまた、何しやがるんだよお前は……!」
「ごめんごめん。でも、さっきまでよりは楽になったんじゃないかな。」
「……言われてみれば、確かに。」
息をすると感じていた痛みが大分和らいでいる。
「それでもまだ痛いと言うなら、痛覚を切断したらどうかな?」
「……知ってんのかお前。俺のアートが、切る事にのみ特化しているのを。」
「知っているよ。だから勧めたんだ。」
「答えろマラッティーア。お前は一体何なんだ。」
「おや、いきなり僕の核心に迫ってきたね。」
当然だ。
家族の様な存在だったアリスとクレアを俺に殺させ、そしてサエッタに死ねと命じた。
どうしてそんな事が出来る。
どうしてそんな事をする必要がある。
俺はそれを聞かなければならない。
殺してしまった、そして死んでしまったあいつらの為にも。
「まあいいさ。どの道僕の知っている事は全て君に伝えるつもりだったんだからね。僕はジェニトーレ側の人間として行動していた。僕に関してはただそれだけだ。問題は君、爽君だ。全ては用意されていた。仕組まれていたと言ってもいいね。」
「……何時からだ。」
「始めから、さ。君という……いや、最高の殺人者を生み出すために、クレアツィオーネ・マテリアを拾い、アックアーリョ・アリスレットを作り、サエッタ・ディチェンブレを攫い、御剣爽を手に入れた。そしてクレアを殺させ、アリスを殺させ、サエッタを殺させ、君という存在を作り上げた。ま、完全にとはいかなかった。サエッタに関して言えば、君は殺せなかったからね。君の行動を見て確信したよ。爽君は不完全、出来損ないだ。最高の殺人者にはなれなかった。」
「何が最高の殺人者だ。不完全、出来損ないで大いに結構。そんなもんにはなりたくねえし、なったとしても切り捨てる。」
「だろうね。君はそういう人だ。そういう君が相手だから僕は……。」
そこでマラッティーアは言い淀み、そして宙を仰いだ。
その表情は前髪で隠され読めない。
「人を殺せば、それは必ず自分に帰ってくる。殺人者は死ぬんじゃない、殺されるんだ。それが報いという物だからね。僕は大勢殺してきたよ。何人もの人を病に陥れる事で。でも、直接的に殺してきた彼や彼女達の死を考えるより、どうしてだろう。アリス達の事しか考えられない。」
そう言ってマラッティーアは涙を流す。
雫は頬を伝って落ち、畳を濡らした。
「それは、ぐ……。お前があいつらを大切に思っていたからだろうが。」
「……そうだね。それでも僕は彼女達を殺した。言われた通り、結局無意識に残虐だった。」
「言っとくが、泣いたってお前を許しはしない。」
「分かっているよ。自分の役割だって分かっている。」
自分の仲間、家族を殺させる事が役割、か。
同情の余地なんていうある筈のない物が、それでも見えてしまう。
それは本当に間違いなんだろうが、同時に俺が人間性を欠落していない証明。
俺は、殺人者になんてなれない。
その証明だ。
「僕の役割は、家族を見殺しにする事。そのために家族を誘導する事。完璧にこなした。だから、最後に残ったこの役割も果たす。」
「く……。俺の番、って訳だ。」
痛む体を無理矢理稼動させて立ち上がる。
彼女達を殺してきたせいで、体は勿論、精神もずたぼろだ。
だが、立ち上がらない訳にはいかない。
俺にもまだ役割が残っているんだから。
「悪いが、役割は果たさせない。」
「……それは無理だよ爽君。僕はもう、君に対する勤めを終えている。」
「……何?」
「僕が病気という事象を使える事を忘れたのかい?」
「う……?」
マラッティーアの声を引き金に、激しい眠気に襲われる。
臭いも、色も、何も感じさせぬままに病気、を……。
「くそ……が……。」
「……安心してくれ爽君。僕はちゃんと役割を果たす。」
そこで意識が途切れ、俺は倒れ込んだ。