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アートバンビーノ  作者: 凩夏明野
第四章-殺人-
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艱難辛苦

「……やっと此処まで来てやったぜ。」


「ええ。」


屋根を走り出して約30分。

全速力で走って、結局心配していた邪魔も入らなかったのでかなり早く着けた。

俺達は今バンビーノ日本支部の向かいにある一軒家の屋根の上に身を潜めている。


「さてと、どうやって入るか。格好よく正面から討ち入りってのもありっちゃありなんだが。」


「それでは何のために屋根の上を走ってきたのか分からなくなりますね。」


「……ですよね。」


極力体力は温存しておきたい。

これから戦うであろう奴の事を考えるとな。

イニーツィオは言わずもがな、まだ俺が知らないアート使いがいるはずだし。


「……これは本当に最低最悪のケースなんだが、クレアとサエッタが手品木の野郎のせいで操られたり、って事も有り得るかもしれん。」


「有り得ない、とは確かに言えませんね。相手にはヴィツィオもいますから、トラウマを抉った後、手品木一心のアートを使えば、大抵の人間はその思い込ませに従ってしまうでしょう。」


アリスさんの様に、そう付け加えて紳は少しだけばつの悪そうな顔をした。


「アリスの事は俺の責任だ。あんたが気にする事じゃない。」


「……しかし一人であまり抱え込まないで下さい。人一人が背負える物の大きさは、限られていますから。」


そうかもしれない。

だがそれは背負わなくていい理由にはならない。

抱え込んで、背負って、その果てに俺が潰れようとも、それでも俺は構わない。

そんな物を負わなくてはならない時点で、俺はどうしようもなく終わっているんだから。


「……さて、それでどうするよ参謀。」


「私も大層な役になってしまいましたね。オーソドックスに裏口か、若しくは何処か空き部屋の窓から侵入し、後は通風口を使って中を移動するというのがプランA。或いは正面から行って全てを蹴散らすのがプランB。プランCとして屋上からの侵入もありますが、これには屋上へ行くための手段もいりますからあまり現実的ではありませんね。」


「そうだな。」


となると、プランAが一番危険性もなく加えて早く行けるか。


「よし、プランAでいこう。」


「承知しました。では取り敢えず此処から降りましょう。」


特に苦もなく此処まで来てしまい、侵入方法も決まって、言い訳したくないが少し気が緩んでいたんだろう。

いやしかし、何をどう言い繕うとやはりどうかしていたとしか思えない。

こいつの存在を、というよりはこいつの力を忘れていたなんて。


「中々いい反応だぞコード剣。此処までの道中で更に磨きが掛かった様だ。」


「……てめえの力の事を完全に忘れてたんだ。その褒め言葉はゴミ箱にでも捨てておいてくれイニーツィオ・テッラ。」


「……迂闊でした。私も失念しているとは。」


目の前に又ぞろイニーツィオが現れた。

唐突に、前触れも無く、風の様に、何食わぬ顔で。

俺は忘れていた。

こいつがこの地上で起きる事を把握出来ているという可能性について。

最悪のケースについて想定して潰しておく?

こんな事を見逃しておいてなに馬鹿な事言ってんだ俺は。


「事実ならまだしも、事実かどうか分からぬ事だ。致し方あるまい。」


「心を読むんじゃねえぞ糞野郎。それは雨の専売特許だ。使用料が発生するぞボケ。」


「それら困る。しかし仕方ないだろう。出来ない事をするなと言われるなら分かるが、出来る事をするなと言われるのは理解出来ないからな。」


「てめえとごちゃごちゃお喋りしてられる程俺は暇じゃねえし心が広くもねえんだよ。今俺は、てめえを、バラバラに切り刻みたいのを抑えてるんだからな……!」


「それは心を読まなくても分かる。コード剣は『凪』を構えているし、紳士は『素魚』の銃口をこちらに向けているからな。」


当たり前だろ。

敵が目の前にいて、それに刀を向けるのも銃口を向けるのも。


「別段我慢する必要はないだろコード剣。解き放ってみろ、その抑圧された欲求を。性欲にも似たお前の殺人欲を。」


「俺にそんなもんはねえよ。」


いや嘘だ。

現に俺はこいつを殺したがっている訳だし。

だけど、俺は快楽殺人者何かじゃない。


「そう思っていられる内は、まだ時ではないな。」


「何の話だ!」


「時が来ればお前にも分かるさ。」


「……話す気がねえならさっさとしろよ。どうせまた俺達を移動させる気なんだろうが。」


「いや、そんな気は更々ない。移動は既に終わっているからな。」


「何?……ち!そういう事か!」


「どうやら我々は、楽に此処まで来れたのではなく、来させられた様ですね。」


イニーツィオの言葉よりも前に、紳は既に気付いていた様だ。

俺達の眼下に広がる光景に。


「ではこれで失礼する。くれぐれも俺達を失望させるなよコード剣。それに紳士もな。」


「待て!」


よく聞く間抜けな台詞を口にしてしまったが、俺の場合もやはり他と同じだった。

イニーツィオは待たず、現れた時と同じ様に消えた。


「消えた人の事を考えても仕方ありません。先ずはあれらをどう切り抜けるか、それを考えましょう。」


「……考える?残念だが紳、参謀の出番はないぜ。力ずくしかないからな。」


「そうですね。では作戦はプランBに変更という事でいきましょう。」



「ああ。そうしてくれ。覚悟はいいか?」


「在り来たりですが、とっくに出来ていますよ。貴方を守ると決めた時から。」


「そうかい。なら、行こうぜ。」


そう言って俺は足を一歩前に出し、屋根から飛び降りた。

地上にいる敵を蹴散らすために。

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