倒懸之急
「ぐおっ!?」
「悪いが寝ててもらうぜ。」
最後の一人を気絶させて、無名の刀を鞘にしまう。
「さて、先ずは検問突破完了だな。」
「ええ。かなり荒っぽくなってしましたが仕方ありませんね。」
しかしまあなんだ。
こいつ懐に入ってくるタイプが苦手とか言ってたけど、近接戦闘も普通に出来るじゃねえか。
格闘は俺と同等か、若しくはそれ以上だ。
「どうかしましたか爽君?」
「いや何でも。」
「そうですか?なら早く車を入手しましょう。買いますか?それともその辺の車を拝借しますか?」
「買う……と言いたい所だけどそこまでの金あったかな……。」
バンビーノの仕事で稼いだ金は殆ど貯金してある。
殺しだったり、存在しない事を隠していた組織の殲滅だったりで、かなりの金額を貰ってた筈だから、多分車一台分くらいなら即金ではら……。
「って、金は全部通帳の中じゃねえか!」
通帳何て持ち歩いてねえし、銀行のカードも持ってねえ!
今思い出したけど財布にしたって、イタリアに置いてきちまった!
無一文!
「……仕方ない気は進まねえけど車を盗むか。」
「いえ、やはり人様の車を勝手にお借りするのはいけません。私が買いますよ。」
「買いますよって言うけど、いや言うって事は聞くまでもないんだろうけどよ、金はあんのか?」
「ええ。ロッカーの中に常に200万程入れてありますから。車一台くらいならすぐ買えます。」
……あー。
ロッカーか。
俺も持ってるんだからそうしときゃよかった。
武器を入れておく事しか考えてなかった。
かくかくしかじかで俺達は車を手に入れ、東京に向かい走り出した。
俺はまだ免許を持っていないので運転は紳がしている。
「しかし車屋の店員驚いてたな。」
「普通展示品の車を買う人はいませんからね。中古でも良かったのですが、やはり新品の方が気持ちがいいですね。」
「それには同意だ。」
そんなこんなで車を走らせる事3時間。
あの街以降、検問はなかった。
少し休憩をという事でサービスエリアに寄ったが、やはり特に何もない。
「イニーツィオがこの世界で起こっている事なら何でも分かるってのはマジかもな。」
「ええ。あの街以降検問がないという事はそういう意味でしょうね。確認レベルの物だったと考えるべきです。」
「ち、嘗めた事してくれるじゃねえかあの野郎。」
「逆に考えましょう。そのお陰で楽に東京まで行けると考えましょう。」
「……まあそうなんだけど。」
それでも何かイラっとするな。
さっさと行けるに越した事はないから良いんだけど。
良いんだけど、やっぱりムカつく。
「じゃあその嘗めた奴をぶん殴る為にさっさと行こうぜ。休憩は……どうした?」
「……いえ。休憩は十分取れました。それより、前言撤回しますよ。どうやら楽に行けたのは此処までの様です。」
「どういう事だ?」
「あれを見れば分かります。」
「あれって、テレビか。」
紳が指差す方を見ると、テレビが設置してあった。
何処にでもある普通のテレビだ。
えー何々、凶悪な殺人犯二人が逃走中?
中々珍しいテロップだな今時。
殺人犯何て今じゃ警察だって追いやしねえってのに。
「あれが何なんだ?」
「LIVE、つまりは生中継なんです。」
「ん?ああ確かにそうみたいだな。」
右上にアンテナのマークとLIVEという文字がある。
生中継、生放送を意味する事くらいまあ分かるだろう。
「……んん?何か見た事ある様な風景だな。」
ヘリから撮っている上空からの風景だ。
でかい駐車場、その隣には高速道路がある。
ありゃサービスエリアだな。
……サービスエリア。
「ってあれ俺達が今いるサービスエリアじゃねえか!」
「はい。そして、二人の殺人犯。端的に言って我々の事ですね。」
「晒し者って訳か。」
バンビーノの糞共が……。
検問突破された事に対する意趣返しのつもりか?
「ま、晒された所で特に問題はないか。どうせイニーツィオには何処にいるかばれてんだろうし。」
「それはそうですが、問題は別にあります。」
「まだ何かあるのかよ。」
「爽君はさっきアナウンサーが言っていた事を聞き逃してしまった様ですね。」
確かに聞き逃したけど、中々グサっとくる言い方だ。
「一人頭一千万の賞金が懸けられている、と言っていましたね。デッドオアアライブ、つまりは生死問わずという訳です。」
「へえ。俺達賞金首になっちまった訳か。……はあ!?賞金首!?時代錯誤も甚だしいだろ!」
「確かにそうですが、しかし事実です。」
「一千万か……中々の大物って訳だ。」
「はい。ですから楽にはいかないでしょう。」
目の色変えて襲ってくる奴らがいるんだろうな。
何て考えてる内に、俺達は囲まれていた。
「……相談なんだが、道を空けてくれねえかな?」
「一千万を前にしてか?そんな馬鹿な事する奴はアホだな。」
「確かに言えてる。」
俺達を囲んでいる奴らは13人。
屈強な男だったり、へらへらした若い奴だったり、携帯で俺達の写真を撮っていたり。
……こいつらは全員アート使いじゃなさそうだな。
だとすると、力づくで突破ってのはあまり気が乗らん。
「あんたらさ、俺達が何だか分かってんの?殺人犯だよ殺人犯。ほら、テレビでも言われてるし。」
「知ってんだよバーカ。だからお前らを囲んでんだろうが。」
「いや怖くないの?あんたら死ぬかもしれないよ?」
「は。俺はな、昔プロボクサーだったんだぜ?喧嘩に関して言やあ百戦百勝だ。お前みたいなガキには負けねえよ。」
……鬱陶しい。
こいつは俺達が丸腰だから、強気に出れるんだろう。
だろうけど、馬鹿だなこいつ。
そもそも俺達が何をどう使って人を殺したのかってのを分かっていないのに、どうしててめえの方が強いって思えるのかね。
判断する材料何てなんもねえじゃん。
仕方ない、此処は適当な刀を出してびびら―――
「ぐあああああ!?い、痛えええ!」
せようかな、何て考えてたのに。
「……お前意外と酷い奴だな。」
「言って聞かせても分からないなら、やってみせるしかないでしょう。」
元プロボクサーの脚を、紳は一瞬も躊躇わず拳銃で撃ち抜いた。
リボルバーだったら下手すると片脚吹っ飛んでたな。
運の良い奴だ。
「さ、他の方々も撃たれたくなければ道を空けて下さい。言っておきますが、更に邪魔する様なら殺します。」
「ひあいい!」
泣いてんのかびびってんのか、まあ多分両方か。
情けない声を上げながら元プロボクサーは血が流れ出る脚を押さえながら後ろに下がった。
他の奴もそらに釣られる様に下がり、車までの道が空いた。
「懸命な判断をして頂けて私も救われました。さあ爽君、東京へ急ぎましょう。」
「そうだな。」
……尤も、この先もこういくかは微妙だ。
一千万なんて聞いたら、バンビーノに所属してねえアート使いも襲いにきそうだし。
ま、相手が誰だろうと邪魔するなら蹴散らすだけだが。
「行きますよ爽君。車に乗ってください。」
「ああ。」
そう言って俺は車に乗り込んだ。




