和気藹々
「ほえー此処がイタリアかー。良い匂いが凄くするね。」
開口一番、クレアが感嘆?の声を上げた。
確かに良い匂いはする。
チーズやらトマトやらオリーブオイルの香りかな。
「……ん?なあマラッティーア。」
「何かな?」
「クレアはイタリア人だろ?何で初めて来たようなリアクションなんだ?」
「……彼女がイタリア人ではないからだよ。」
イタリア人じゃない?
確かクレアツィオーネはイタリア語だよな。
「クレアツィオーネ・マテリアはイタリア語で創造の物質だよ。」
「……お前まで心を読む様な事するの止めてくれよ。」
「ごめんごめん。クレアに名前を付けたのは僕なんだ。」
「え。それってつまり……。」
「無論僕とクレアが親子だとかそういう落ちではないからね。」
何だ違うのか。
「じゃあ何でお前が名前を?」
「詳しい事は省くよ。彼女のプライバシーだからね。僕が彼女を拾った。だから名前を付けた。ただそれだけの詰まらない話さ。」
そう言いながらマラッティーアはクレアの背中を見つめた。
その目には怒りだとか同情だとか、とにかくあまり良い感じではない感情が宿っている様に見える。
……ま、適当な事を言ってるけど。
「ねーねーリーダー!お昼ご飯食べよーよ!」
「そうだね。お腹も減ったしそうしよう。」
無邪気に、何時もは全く感じさせない子供っぽさを全開にしてクレアは笑顔を振り撒いて、マラッティーアはそれに笑顔で返す。
歳は一つしか違わない筈なのに、それだけ見ているとまるで親子みてえだ。
「血の繋がりより深い物を、あの二人は持っているわ。」
「……アリスレット。お前まで心を読むみたいな事しないでくれ。」
「あらごめんなさい。爽が優しい目をしていたのでつい。いえ、優しいというよりは生暖かいかしらね。」
一言多い。
「とにかくあの子はボスに絶対の信頼を寄せているのよ。こんな殺しばかりの世界に置かれる事になったっていうのにね。それでも、あの子が以前いた世界に比べれば100億倍はマシなんでしょうけど。」
「そんなに酷い世界にいたのか。」
「……まあそうね。話せば確実に同情させる事が出来ると思うわ。だから話さないけど。」
「そうか。」
ま、無理に聞き出そうとは思わない。
誰にだって触れられたくねえ傷はあるだろう。
「おーいアリス!そーう!早くおいでよ!」
「おう!……普段からあんな感じだったら可愛いのにな。」
「あら、それでは普段のクレアは可愛くないと。後で言っておくわね。」
「そういう意味じゃない。年相応にしてればいいのにって話だ。」
「私だって出来ればそんな風に生きてくれたらと思うわよ。でも、あの子が選んだ生き方だもの。」
……それもそうか。
他人の生き方に口出し出来る程俺達は偉くないし、そんな事をしていい様な生き方もしていない。
何たって殺しを生業にしているんだからな。
そんな事を考えながら、俺は半分寝ている雨を引っ張ってマラッティーア達の方に向かった。