会議
「た、だいま……帰りました……。」
力尽きる寸前のアリスレットが扉を開き部屋に入ってきた。
「がくっ。」
あ、力尽きた。
「あーお疲れアリス。サエッタ、悪いけどアイスコーヒーを淹れてくれるかな。」
「ああ。ミルクにスティックシュガーを3つ……だったかな。」
「そうだよ。さ、アリス。床に寝そべってないでこっちに来てテーブルについてくれ。アイスコーヒーが待ってるよ。」
「あいす……こふぃー……。」
ゾンビみたいにずるずると床を這いずりながらこちらにやって来るアリスレット。
本当に死にかけみたいだな。
サエッタが持ってきたアイスコーヒーに手をぷるぷるさせながら砂糖を3つ入れると、これまた震える手でコーヒーを口に含んだ。
「ん……。んまい!いやー生き返ったよ。」
「それは良かった。じゃあ支部から受け取って来た書類を見せてもらおうかな。」
「はいはーい。」
軽い返事をしてアリスレットは床に置いていたアルミケースを机の上に上げた。
「こんな物を取りに行かせるためだけに私を熱砂にほっぽるなんて、ボスはホント意地悪よね。」
「ははは。おや、書類の他に手紙が入っているね。……まあこれは置いておくとして、皆見てくれないかな。」
アリスレットの恨み言をさらっとスルーしたマラッティーアが、書類を机の上に広げた。
「これは……ジェニトーレの奴らの情報か。」
「そうだね。人物に関する写真付きの物が3枚。それとジェニトーレ、つまり組織自体の情報が書かれた物が数枚。わざわざこれだけを取りに来させるなんて意地悪な人もいたもんだね。」
「……私って別に弄られキャラじゃないわよね?」
「僕に聞かれても分からないよ。」
マラッティーアの皮肉?は置いておくとして、確かにこれっぽっちの情報を取りに来させるのは意地悪と言える。
こんなもんメールとかファックスを使えば済んだんじゃねえのか。
「情報が漏洩してるって事が漏洩するのを防ぐためだよ多分。こっちが情報を手に入れている事を知ったら、ガード固めるだろうから。」
「成る程一理ありそうだ。」
雨が俺の疑問に答えてくれた。
能力を理解している俺にとっては便利な物だが……いや物なんて言っちゃいけないか。
とにもかくにも、便利だが、知らない奴にとってはただただ恐怖でしかない。
何だかなあ……。
「主母吏人、千石勝汰、デネイス・ベルナルド。何この情報。ねーリーダー、このジェニトーレのメンバーの情報の内二人はしんでるじゃん。」
「ん?……おやおや確かに。主母君は僕が倒した人だね。その他二人は知らないけど。」
「この筋肉さんは僕こと―――」
「む?クレアよ『っ子』が抜けて……いる気がするような。」
絶妙な突っ込みだサエッタ。
こいつもさりげに日本通なんだろうか。
「煩いよサエッタ!僕ことクレアツィオーネが空港で成敗してやったの。」
「あら、やるわね。圧勝したのかしら。」
「うん。僕が圧倒的力の差とかいうのを見せ付けて圧勝したの。」
「へー凄いじゃ、ってクレア。その紙、そうそれ、その一番下にあるのちょっと取って。」
「んー?ああこれね。」
何かに気付いたのか、アリスレットはクレアから一枚の書類を受け取った。
「……。」
「どうしたんだいアリス?」
「……やっぱりだ。このデネイス・ベルナルドって男、さっき私を殺そうとした奴だわ。ちゃんと名前があったのね。」
「殺そうとって襲われたのかよ。」
「まあね。」
随分軽く言いよるなこいつ。
怪我をしてない所を見ると、どうやら完勝してきた様だが。
いやそれよりだ、問題なのは……。
「やれやれ。奴さんの情報収集能力も侮れないね。まさかもう僕らの所在地を突き止めているとは。遅かれ早かれとは思っていたけど随分早いな。」
そう、それが問題だ。
俺達が此処、つまりアフリカに来ている事を知っている奴は少ない。
マラッティーアは直接命令を下された。
つまりパソコンなどの機械にはその情報が登録されていない。
だというのにジェニトーレは情報を持っていた。
いくら高い情報収集能力を持っているにしても、スパンが殆ど無いのはさすがにおかしくねえか。
「確かに早いね。僕が空港で襲われたくらいだしねーあはは。」
「あははじゃないでしょもう。まあいいわ。ボス、一応この事上に報告した方がいいんじゃないかしら。敵の情報が時代遅れになってる事も合わせてね。」
至極当然の提案をアリスレットはした。
俺もそう思ったが、マラッティーアはそうじゃないらしい。
「いや。それは止めた方がいい。あまり突っ込むと僕らの、いや君達の立場が危うい。文書にも、データにも起こされていないこの指令。それをこうも早く手に入れられるという事は、分かるね?」
「……あ。」
「うん。それでいいよアリス。沈黙は金、雄弁は銀だ。この事は取りあえず気付いていない体で行く。さて、では僕は書類に目を通しておくから君達は各自休む様に。」
そう言いマラッティーアは書類を持って自分の部屋へと戻っていった。
……情報を集めるか、それとも情報が齎されるか。
問題なのはそれだ。
確かにこれは、安易に突っ込むのは危険過ぎる問題だな。
もしかしたら、狙う側から狙われる側になるのかもしれないんだから。




