筋肉加速
「……。」
歓喜のほうこーを上げたいのを必死に我慢する。
決まった、決まったよ僕。
さいこーにカッコイイ!
日本に来て勉強してホントに良かった。
僕って言うのがカッコイイってのも知れたし、こんなカッコイイ台詞も覚えられたし。
日本のアニメって奴は凄いね。
「今のは第五話だな!」
「あんたもライターザン好きなの?好きな物が一緒の人を殺すのは心苦しいけど、リーダーを狙うなら生かしてはおけない。」
「ふむ!一体何者だマラッティーア・ウォーモとは!そこまでの求心力!ただ事ではないぞ!」
「……。」
しかし煩いなこの人。
キャラ作ってるってやつなのかな。
痛々しい。
「リーダーはリーダーだよ。僕達が世界で心を許せる人の一人。あんたは許せる人には入らない。だから殺す。」
「うむ!俺も殺そうとしているんだ!それは当然だろう!」
見た所武器は持っていない。
徒手空拳の近接格闘タイプっぽいね。
そーいうキャラ嫌いじゃない。
「でもやっぱり殺す。『チェッルラ』。」
「おお!消えた!」
消えたというのは少し違う。
僕はただ『同化』しただけだ。
空港の床に。
現実にはコンクリート製の床を素手でぶち抜ける奴はいない。
つまりもう勝負は決まっているのだ。
後は後ろに回ってセンゴクなんたらの体を突き破ればいいだけだもんね。
「すぅぅぅぅう!『筋肉』ぅぅぅぅぅう!」
息を吸うのにもエクスクラメーションマーク付けるとか、ホントに何なのこの人……やば!
「どぅりゃああああああ!」
正に『一げきひっさつ』。
そんな一撃をセンゴクは床に放った。
いや、正確に言うならそんな一撃で床をぶち抜いた。
「む!てっきり床にでも逃げたと思ったが!違った様だな!」
違わないし。
床に出来た穴。
そして罅割れは僕の目と鼻の先まで来ている。
もう少し気付くのが遅かったら危なかった。
素手で床ってぶち抜けるんだね。
……いや怖すぎでしょこの人。
「ならあああああ!壁かあああああ!」
次いで壁に一撃。
衝撃を受けた箇所から放射状に皹が生え、そして瓦解する。
……あんなのまともにくらったら死ぬよ。
「此処でもないか!なら天井か!」
天井を殴るためにセンゴクなんたらが飛び上がったのを見て、僕は床から飛び出した。
右手を原子レベルで再構築。
骨を、肉を、皮膚を、鉄に換え刃とす。
「何!」
「はああああ!」
紫電一閃、文字通りの手刀で、センゴクなんたらの左足の膝から下を切り落とす。
「ぐおおおお!痛い!」
「……。」
突っ込みたい。
けどそんな事したら負けだよ。
「これで終わりじゃないよ!」
馬鹿正直に正面から袈裟斬りを仕掛ける。
「え……。ちょっと何これ。」
「ふむ!さっきは不意を突かれたから遅れを取った!そんな鈍では俺の筋肉は斬られん!」
普通に体……じゃないのかな。
筋肉で止められた。
刃と筋肉がせめぎあってる。
「ぶ……ぷくく……。」
面白過ぎるよこの構図……!
「次は俺が放つ番だ!」
「わわわ!?」
センゴクなんたらが放つ右ストレートを紙一重で躱す。
「とっ、ととっ……。」
「ほう!そんな簡単に躱されるとは!少しショックだぞ!」
何が簡単よ。
床に膝を付いて左耳を押さえる。
拳圧……って言うのかな。
触れられてもないのに、それのせいで耳がおかしくなった。
鼓膜が傷付けられたか、破れてるかも。
「……あれ。あんた、何で血が出てないのよ。」
「止血くらい筋肉で十分だ!」
「いやもうホントに意味わか―――」
僕の言葉はそこで途切れた。
別にセンゴクなんたらが攻撃してきた訳じゃない。
ただ、床にポトリと雫が落ちた。
それは王冠を形成した後、床に痕を付けた。
そう、僕には見えたんだよ。
ミルククラウンじゃない、跡じゃなくて痕を残すそれが。
「僕ね、女の子。」
「ん?」
いきなり過ぎたのか、センゴクなんたらの台詞から初めてエクスクラメーションマークが消えた。
けど、床からは消えない。
血痕が。
そして、僕の頬の傷から床に落ちる為に作られた血の痕は。
「女の子の顔に傷を付けた。」
ふらふらと立ち上がる。
下を向いたまま。
「……殺す。」
「―――!」
……その後は覚えてない。
ただ、元人間の残骸が目の前に残っただけだった。
「お、いたいた。おーいごほ。クレア。」
「……リーダー?」
「全く、何していたんだい?」
「……ちょっと正義の鉄槌を下してた。」
「そうかい。じゃあ行こうアフリカへ。」
クレアが迷子になるとは思わなかった。
こういうのは雨がやると思ってたんだがな。
……いやそれは置いといて。
マラッティーアの奴は何故突っ込まないんだ。
空港の壁に、筋肉ムキムキの銅像がある事を。
そんな疑問を抱えながら、俺はやっとアフリカ行きの飛行機に乗った。
人物:バンビーノ
人物:ジェニトーレ
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