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アートバンビーノ  作者: 凩夏明野
第二章-狩-
16/68

披露

「か。覚悟しろだぁ?馬鹿かてめえ。知ってんだぜ糞ガキ。マラッティーア・ウォーモ。」


「うん。間抜けの割には物覚えが良いね。」


「ちっ。てめえのアートも知ってる。それにサエッタとか言う凄え奴がボディーガードにいるってのもな。だが何だかかか。今そいついねえじゃん。つまりてめえ殺すくらい余裕なんだよ。」


彼はそう言うと首に刺さった爪を抜いた。


「まああれだよ。所詮君と僕じゃ格が違う。サエッタがいようといまいと何の関係も無い。君を倒すのは爪を切るくらい簡単な事なんだ。」


「ち。ムカつく奴しかいねえのかよバンビーノにはよぉ。勧誘してきた野郎もかなりムカつく奴だったぞコラ。」


「そうかい。さ、話はこれくらいでいいんじゃないかな毒使いさん。」


相手はナイフ。

ならこっちは……これかな。


「え……?まー君も『ロッカー』持ってるの?」


「ん?まあね。」


ロッカーから『白鳥(しらとり)』を取り出す。

ただ美しいだけの日本刀。

切れ味普通、強度普通、見た目最上級。

見た目だけに完璧を求めそれ以外は全てを無視した刀。


「雨君にも知らない事があったとはね。少し驚いた。」


「あたしは別に全知全能じゃないよ。」


「おいてめえら何勝手にべらべらくっちゃべってんだよ。」


「ああ失敬。では戦おう。」


手にした『白鳥』を軽く振るってみる。

……まあ大丈夫かな。


「いくぜぇ!」


「……。」


わざわざ掛け声を出してくるなんて。

別に試合じゃないんだから勝手に襲ってくればいい物を。

主母のナイフ捌きはそこそこ。

上手い訳でもなく下手な訳でもない。

避けるのは非常に簡単だけど。


「か。逃げるのは上手えみたいだなてめえ。まそうでなきゃ詰まんねえからいいんだけどよ。」


「……君は今まで随分楽な殺しをしてきたんだね。」


「あ?そりゃどういう意味だ?」


主母がナイフを振り回すのを止めて質問してきた。


「それだよ正に。僕と君は今殺し合いをしているんだ。話すだけならいざ知らず、手を止めるのは感心出来ないね。今までそれがまかり通って、君が生きているという事は、楽な殺し合いしかしていないのを意味してるんだよ。」


「か。とか言ってるてめえだってべらべら話してんじゃねえかカス。」


「ふ。圧倒的に差がある相手を真似て馬鹿にする事の何が悪いんだい?」


「ムカつく野郎だなてめえはよぉぉぉ!」


馬鹿に刃物とはよく言った物だ。

振り回して危ない。

……そろそろ時間かな。


「はい。」


「ぐ!?」


振り下ろされるのに合わせてナイフを『白鳥』で打つ。

主母は無様にもナイフを取り落とし、馬鹿は刃物を失った。


「終わりかな主母君。」


「……マジムカつくガキだなてめえ。『毒使い』。」


「おや。まだ出来るみたいだね。」


主母の両手が紫色に染まっていく。

成る程『毒手』という訳か。


「しかし大丈夫なのかな?毒手は確かに強力ではあるけれど、使用者の体をかなり傷付けるだろ?」


「か。てめえもアート使えるなら分かってんだろうが。俺だって地獄を見てきたんだ。大丈夫じゃねえがやれるんだよ!」


「!」


ナイフを使っていた時とは動きが違う。

早い。

こちらは刀を使っているのに不用意に仕掛けられない。


「当たったら死んじまうぞ!」


「分かっているよそんな事は。」


おまけに攻撃しながら話してくるし。

どうやら拳法か何かを使えるらしい。

表情にもかなり余裕が出て来た。

まあそれはそれとして。


「やっぱり君は僕の敵じゃない。」


「ぐう!?あああああ!」


手刀の形になっていた右手への斬撃。

指を正確に捉え、主母の中指、人差し指、薬指は斜めに切断された。


「く……てめえ……!」


「刀を持っている相手に、毒を持っているからといって徒手空拳で挑むなんて。君ってやっぱり馬鹿なんじゃない?」


「喧しい……!」


左手で傷口を押さえているけど、いいのかな。

彼気付いてないよね。


「そーね。馬鹿だから気付いてないわね。」


「あ、やっぱり。」


「はあ……?てめえら何言ってやがる!何だか知らねえがもう許さねえ……。生皮剥いで筋繊維を一本ずつぶち切ってやる。」


「ふむ。それは困るから良いことを教えてあげるよ。君の左手も毒手だよ。」


「……あ。」


本当に気付いてなかったんだね。

傷口に毒を塗るなんて、唐辛子を塗るより洒落にならないよ。


「……なーんちゃって。馬鹿はてめえらだよボケが!俺には毒なんて効かねえんだよばーか!あっひゃっはっはっは……は……?」


「確かにただの毒は効かないだろうね。でも、その傷を作ったのは僕の『白鳥』。君が毒を使うのに、僕は何も使わないとでも思ったのかい?」


「てめえ……う!?足が……。」


「やっと効きはじめたんだね。やれやれ、やはりもう少し改良しないと使い物にならないかな。」


彼の足は、いや足だけでなく全身は今麻痺しかけている。

運動神経を破壊したんだ、こうなるのは当然の話さ。


「『Amyotrophic Lateral Sclerosis』所謂筋萎縮性側索硬化症ってやつさ。簡単に説明するとこの病気は運動神経をずたずたに破壊する。そして全身が麻痺し、食事や話す事が出来なくなる。悪ければ呼吸が不可能になる。」


「……な、ぽ。」


「どうやら話せなくなる段階まで行った様だね可哀相に。そんなんじゃ止血も出来ないだろ?あ、ちなみに君にALSを仕込んだのはさっき斬った時じゃないよ。」


すっと人差し指を上げて主母に見せてやる。

深爪になった人差し指が主母には見えたはずだ。


「あらかじめ爪に仕込んでおいてね。それを君の首筋に突き立ててあげた訳さ。これはまだまだ未完成で、効きはじめるまでに時間が掛かる。……ふ、だから始まる前に刺しておいてあげたんだ。」


「―――、―――!」


最早声を出す事は不可能らしい。

全身麻痺に加えて体中を毒が駆け巡る激痛に襲われているからか、主母は涙をボロボロ流して顔を苦痛の色に染めている。


「ちなみにさっき『白鳥』に仕込んだ病気は僕が独自に生み出した物でね。これも簡単に説明してあげるよ。栄養など摂取した物を過剰に吸収する病気なんだ。数値にすると大体10倍だね。少しの栄養でも生きられる様に作った物なんだけど、君みたいに毒に耐性がある人間にもとても有効みたいだね。君が耐えられる毒がどれくらいかは知らないけど、人を死に至らしめる程の毒を、10倍も吸収したらそれは耐えられないよね。」


「……あ。」


「おや、まだ話せたのか。それは中々意外……って。」


跪いている主母の背中を押してみる。

何の抵抗も示さないまま主母の体は倒れた。

その顔は―――


「あーもーストップ!ストップストップストーップ!」


「うわ。どうしたんだい雨君。」


「どうしたじゃないよ。そんな気持ち悪いモノローグいらない。」


「……あ。ああそうかごめんごめん。」


…………。


「無意識に残虐かー。ぴったりかもね。」


「え?今僕そんな事考えてた?」


「うんまあ、考えてたね。」


……言われた通り僕って残虐なのかも。


「……まあそれは置いといて、雨君を探していたのはこれを渡すためだったんだ。」


雨君にプリントを渡しながらそんな事を考える僕であったとさ。

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