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アートバンビーノ  作者: 凩夏明野
第一章-病-
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再度邂逅

邂逅の意味は思いがけなく出会う事。

俺はこいつらにまた会うとか会いたいなんて思っていなかったのに会っちまったんだから、やっぱこれは邂逅であっていると思う。

手が腹を貫通したのを見て、情けない事ではあるが俺は気絶してしまった。

意識を取り戻すと、俺は華美な装飾を施された椅子に座らされていた。

そして、同じく白い長机を前に椅子に座っている奴が三人。

一人はさっき俺の腹を貫いた僕っ子。

一人は先日イタリア語で話し掛けてきた女の子、たしかアリスレットとか言ったかな。

そしてあと一人。


「……そうか。どっかで聞いたとは思ってたんだよ。」


「ごほ。……ん?何の話だい?」


「田中が言ってたんだよ。『これはエボラ出血熱という現象そのものだ』って。」


「へえごほ。中々どうして流石は太一だ。」


あと一人、それは俺の試験をしたマラッティーア・ウォーモ。


「田中と知り合いなのか……えっと、マラッティーア。」


「おやごほ。まさか名前を覚えられたとはごほごほ思わなかったよ。知り合いと言えばそうなるかな。年はかなり違うし立場もかなり違うけど、それは知り合わない理由にはならないからね。」


「成る程。」


つまりさっき田中を殺そうと『エボラ出血熱』を使ったのはマラッティーアって訳か。

……さっきなんて使ったが、実際はどうなんだ。

あれからどれくらい時間が経ってるんだ。


「一時間も経ってないからさっきで良いと思うよー。」


「そうか。……ん?」


「やっほーそー君。」


「雨!?お前が何でこんな所にいるんだ?!」


雨はバンビーノじゃない。

だが他の三人はバンビーノ。

そして俺もバンビーノ。

三人から俺なら分かる。

だが三人から雨は分からない。

……三人の対象が雨とかそういう事か?

なら仕方ないと、俺は椅子に体を預ける事を止めて立ち上がった。

雨を殺させる訳にはいかない。

命令されたのは俺ではないのだから、何とか言い訳すればどうにかなる。

……ならなかったらその時だ。


「……分かった。雨、お前は下がってろ。」


「んー?違うよそー君。」


「ああだから俺から離れて、何だって?」


「だから違うんだよそー君。この三人はあたしの事を殺そうとしてる訳じゃないの。」


「……は?」


話が見えてこない。

雨は三人のターゲットじゃない。

じゃあ何で雨は此処にいるんだ。


「あたしもね、なったんだよ。」


「なった?……お前。」


「うん。バンビーノになったんだよ。」


……最悪だ。

こいつだけはどんな手を使ってでもバンビーノから遠ざけておきたかった。

入ってほしくなかった。

こんな組織に関わってほしくなかった。

人を殺す組織。

そんなもんに入っちまったら、人間の汚い部分を沢山知る羽目になる。

そうなったら……お前は!


「大丈夫。あたしは何時までもあの頃のままじゃないから。」


「それは!……確かにそうかもしれないが。」


「何か盛り上がってるとこ悪いんだけどさ、何時まで続く訳あんた達のメロドラマ。日本に来てからそういうのばっか見てたからいい加減嫌になってきてるのよ。」


「嫌になるってのには僕も同意見ね。ま、そういうのばっか見てるのはアリスが悪いけど。」


「だってお昼にテレビつけると何時もやってるんだもん。もう少し面白みのある物作れないのかしらね日本人は。」


「あーそれ言えてるかも。」


……向こうで勝手に話が始まっている。

口が開けないじゃないか。


「アリス、クレア、二人共静かにげほ。話が相当ずれてるよ。」


「あらごめんなさい。あんまり長いからさ。私が喋るの好きなの知ってるでしょボス。」


「僕だってどちらかと言えば沈黙は嫌いなんだよリーダー。」


「いい加減呼び方は統一してほしいね。」


「……おい。」


「ん?ああ悪いね爽君。」


本当に悪いと思ってんのかこいつは。


「とにかくさ、そー君。」


と、俺同様話せずにいた雨が俺に言う。


「あたしは大丈夫だから。それに、こうやってバンビーノにいればそー君はあたしの事守ってくれるんでしょ?」


「いなくても守ってやる。大体俺は独立部隊だから―――」


「ああ、その点なら心配しなくていいよ爽君。」


「は?どういう意味だマラッティーア。」


「君は今日から雨君と同じ『バンビーノ本部第一小隊』に配属になったから。」


「……はい?」


バンビーノ本部第一小隊?

なんだそれは?

バンビーノに入る条件として独立部隊に入れる事ってのを俺は出した筈だ。

こんなのは契約違反じゃないのか?


「あたしがバンビーノに入る時の『契約』としてね、そー君と一緒を書いておいたの。」


「……いやいやいや。俺の方は何で守られてないんだよ!」


「ごほ。そこはレディーファーストだよ。それとは関係無しに僕の権限を使ったけど。」


「権限だと?」


そんなに偉い奴だったのかこいつ。

俺より若いのに。


「あれ?言ってなかったかな。……ああいや、言いかけて止めたんだった。じゃあ改めて自己紹介を。僕はイタリア本部第一小隊隊長、『病』ことマラッティーア・ウォーモだ。今日から君に命令を下せる立場になった……違うね。君は僕から命令を受ける立場になったからよろしく。」


「……は?」


はあああああああ?!

おいおい何だそれは!

俺は言ったぞ言った筈だ。

殺人者と馴れ合いたくないから独立部隊に入れろって。

殺人に直接関わる奴より間接的に関わる奴から命令を受けた方がまだマシという低い妥協点、元い自己満足で無理矢理落ち着けたというのに。


「ホントに低いねー。」


「うるさい。マラッティーア、俺は納得出来ない。だから第一小隊とやらには入れない。」


「あーごほ。残念ながら君に拒否権は無いよ。もし拒否するなら、君をこの場で殺す権利を僕らは持っている。勿論、雨君も。」


「な……!」


その言葉に身構える。

雨が俺を殺そうとするとは思えない。

いや、思いたくはない。

雨を差し引いて相手は三人。

病気を操るであろうマラッティーア、タネは分からないが人の体を貫けるクレアとか言う女。

そして能力が分からないアリスレット。

圧倒的に……?

クレアがいな―――


「ぐ……!また……こいつ!」


「だから言ったんだよリーダー。書類の上でしか知らない奴を小隊に入れるのは反対だって。」


いつのまにか背後に回っていたクレアが俺の腹を又ぞろその腕で貫いた。

いきなり終わりそうじゃねえか……!

どういう仕組みか全く分からねえが、出血とかはしていない。

すぐ死ぬ事はなさそうだが、腕を抜かれたらどの道終わりか。

なら……。


「ダメそー君!」


「な!?」


「なら一矢報いるまでだ!」


ロッカーから『凪』を取り出して自らの腹に突き刺す。

そのまま貫通させ、後ろにいるクレアも突き刺す。

『凪』の切れ味はこの世のどんな刃物より素晴らしい。

そこに『剣』を加えれば、人を突き刺すなんて簡単だ。


「くそ痛えが……お前のせいだぜクレアとか言う女。」


「はあ。全く、あんた頭おかしいんじゃない?助かりそうにないからって自分を刺すとか。僕が制御しなきゃあんたホントに死んでたよ?」


「制御だ……?んなもんしようが……ってあれ?」


……痛くない?

腹を刀と腕が貫通しているのに、よく考えると全く痛くない。


「あれ?」


「金属の制御とか、怖いからあまりやりたくなかったのに。早いとこ抜いてくれないかな。」


「あ、ああ?」


言われるがままに『凪』を腹から抜く。

僅かな抵抗を感じたが、思いの外簡単に抜けた。

そして、血は一滴も出ず、『凪』にも血は付いていなかった。


「そー君、良い子だから大人しくして。ね?」


「あ、ああ。」


「さっきから『あ』しか言ってないわよあんた。もう少し面白い事言えないの?」


刀を抜いた俺に次いで、クレアは腕を抜いた。

相変わらず血は出ねえし、クレアの腕に血は付いていない。

何なんだ一体。


「さてごほげほ。雨君と約束したよね『大人しくする』って。その言葉通り、大人しく椅子に座ってくれないかな。ちゃんとお話ししよう。」


「……ああ。」


ったく、面白くない。

それに意味が分からない。

……何にしても約束は約束だ。

大人しく椅子に座ってやる。


「さて、君を小隊に入れようとしているのは、別に伊達や酔狂ではないんだよ。」


「は。ちゃんとした理由があるってか。ならそれをさっさと拝聴してえもんだな。」


「ごほ。そうだねさっさと話そう。端的に言えば狩りをするためさ。」


「狩り?」


「そう狩りだ。現在確認されているアート使いは、田中太一みたいな異端を合わせて100人弱。その全てがバンビーノに属しているという訳じゃない。ごほごほ。大体その半分くらいだね。」


アートを使えると確認された奴は、バンビーノから勧告が来る。

殺しに長けた力が多い故だ。


「バンビーノからの勧告を受ければ、まあ大体の人はそれを受け入れる。勧告というのは体裁で、実際は命令みたいな物だけど、それは置いておこう。さて、ここで問題になってくるのがその勧告を受け入れない人がいるって事だ。」


「そんな奴がいるんだな。」


「まあね。何故それが問題かと言えば、そういう連中がバンビーノに反旗を翻しているからだ。最近バンビーノに属している人が結構殺されている。これは由々しき事態だ。」


「……因果応報じゃねえのかそれ。」


「手厳しいね。その通りではあるんだけど、まあやっぱりね。それじゃ面目が立たないんだ。そこで、そういう連中を排除する事をバンビーノの上層部は決定した。」


「それで俺みたいな独立部隊を纏めようとしてる訳か。」


「そういう事。ごほ。だから従ってもらうよ爽君。」


「意趣返しをしろって事か?俺とは何の関係も無い殺人者のために?」


「意趣返し?」


と、今まで見せた事の無い、嘲る様な顔をしてマラッティーアは笑った。


「意趣返しじゃないよ。君も言ったじゃないか。因果応報だ。殺しという悪い事をした奴に報いを与えるだけ。意趣返しとは全く違う。」


「神にでもなったつもりか。報いなんて人が与えるもんじゃねえだろ。」


「そんな怖い声を出さないでよ爽君。君が意趣返しだと思いたいならそれで良いよ。何にしても従ってもらうからね。……バンビーノを狙っているんだ。当然、雨君だって狙われる可能性がある。」


「……てめえ。」


何て奴だ。

俺を無理矢理にでも小隊に入れるために、その話をし、雨を小隊に入れたってのか。


「分かった。入ってやるよ第一小隊とか言うのにな。」


「そうかい?そうしてくれると非常に助かるよ。」


「……一つだけ言わせてもらうが、俺はてめえが大嫌いだ。」


「そうかい。じゃあ話は終わりだ。明日から討伐任務に入る事になるから、今日はゆっくり休むといい。」


「言われなくともそうさせてもらう。行くぞ雨。」


「あ、ちょっと待ってよそー君!」


……胸糞悪い。

今日は眠れそうにねえってくらいの胸糞悪さだ。


「うわ?!そー君?どしたの?」


「……何でもない。」


追い付いた雨の手を強く握り、俺は部屋を後にした。

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