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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

かなりやクルエルティ

作者: ヒビキ



目の前にはぎらぎらと光るナイフ。

向けられている凶器は恐ろしいと思うより、なぜこんなものがあるんだろうとしか思えなかったわけだが。


ところで、僕の幼馴染の話を聴いてもらえないだろうか。

『かなりや』。

その名を聴いたことのない日本人はいないと思う。

僕の幼馴染である彼女は、今そこに所属している。

彼の悪名高き最悪の部隊。

あの子が言うには私たちなどまだまだなのだそうだけれど。


「それで怯んで逃げると思っているのか?」

「いや別に」


なんとなく、ただなんとなく、そのナイフのきらめきが幼馴染をちょっと思い出させるだけだ。

途方もない暴力性と残虐性が。

けれど理不尽でないところが。


「僕が見てはいけないものを見てしまったということは分かってるから、あなたがそうするのは義務で僕がそうなるのは自業自得みたいなものなんだろうけど」

「そうだよ、お前が悪いんだ。

 全く一体どこから入って来たのか知らないが……」


そして彼はようやく違和感に気付いた。

厳重に警備されたこの敷地内。

どこから見てもただの高校生(僕が学ランを着ているせいもある)が、一体、どうやって、セキュリティをかいくぐって来たのか。

お互い粗忽すぎる、っていう話なだけかもしれない。

でも目の前で起きていることが異常すぎると脳がまともに機能しないのはよくあることだ。

僕が、まさにそうだ。

何だっていつも、普通に歩いているだけなのに。


「かなりやが、騒ぎそうな場所だねえ」


僕が普通で標準的な目であることは検査結果からも分かっている。

この現代における、標準値だ。

その標準値に置いても逸脱している光景なのだから、犯罪行為ではあるのだろう。

周りにあるのは死体の山。

老若男女構わず、と言いたいところだけれどやや女性が多いだろうか。

積まれていたりして、正確なことは言えないけれど。

そして、なんの感慨もわかないけれど。

それが、人間の死体であるってことを分かっているだけだ。

きっと、この目の前で僕にナイフを向ける彼の目は。


「0.15くらい、ってとこ?」

「そんな数字になんの意味があるんだ?」


全くその通りだ。標準だとか、以下だとか。なんの平均だって話だ。

人間の目が変わり始めて、一部の人間を人間として見れなくなった。

そうは思ってない、人は昔もいたらしいが、現代人の僕らは形としても認識できていない。ぼんやりしたかたまりだったり、人形とかぬいぐるみに見えたり。酷い場合だと無機物になるんだとか。

僕のような正常の範囲内だと家族と、友達。それだけが人間の形をしている。

だから横にある死体の山も人間なんだけれど、僕の家族でも友達でもないのでただの死体だ。臭いだけは気になるが。

僕にとっても目の前の彼は人でなしだけれど、彼にとっても僕は人でなしだ。

とても、お互い様で。

ただただプライベートなことなだけで。



そんな個人的な見え方にまでちょっかいを出す団体がいる。

それが、かなりや。

僕の幼馴染がいるところ。

彼女は僕の友達のようで家族のような存在だ。

だからどんなに暴力的で残虐で非道だと思えても、憎めない。

かなりやは、目ではなく、音で僕ら人間を理解している。

人間の音をしている。だからみんな人間なんだ、って。

彼女はそう言って、怒って、人間を殺す人間を半殺しにした。許せないと、泣いていた彼女の手も血みどろだ。

そんなに痛んで悲しんで、この先、生きていけるのかと思っていたところでかなりやに入隊した。

僕の前でも見せない笑顔で入れたことを喜んでいたのが、少し悔しかったのを覚えている。


さて、種明かしをしよう。


「僕をどうしてあなたが殺さないのか、殺せないのか。考えた?」

「お前みたいな奴は、何時だって殺せる」

「殺せる、けれども殺していない。

 ちゃんと理由があるんだよ。

 記憶違い、ってしたことない?思い込みだとか、そういうの、あると思うけど。

 僕はどうやら記憶違いを起こされやすいらしい。

 特に、僕を人間と認識できない相手にとっては」


 いきなり言ったところで理解できないし、僕の言葉もそのうち『記憶違い』でわけのわからない言葉にすり替えられるだろう。


「僕は、あなたが気のせいって思うほど、つまらない人間だってこと」


 そんなの、自分でも分かっている。だから言いもする。

 けれど、ねえ。

 つまらない、って思われて、無視されて、いい気持ちがするわけでもない。

 だから、僕の言いたこと、わかるだろ?

 人でなしなあなたにも。

 僕の唯一の友達だった彼女を奪ったかなりやも、今は僕の友達だ。

 友達は、増えるということを僕は初めて知った。



 歌うような声がどこからか聞こえる。

 さながら鳥の鳴き声のようにきれいな、かなりやの声。

 さあ、彼女たちがやってくる。

 きれいな声を連れて。

 暴力と痛みと血を引き連れて。




ヒロインが一言もしゃべらないまま終わってしまったのは不可抗力というやつではないでしょうか。

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