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塔の魔女妃  作者: 美遥
9/19

サヴィルヌーヴの森

 空が、高い。


 様々な赤に色づくサヴィルヌーヴの森の中を、馬車はゆっくりと進む。


 先に出発したエリノアは、もう塔について、今頃はもう荷ほどきを初めている事だろう。

 少しでも早く、私が寛いで疲れを癒せるように、と。

徹夜明けの疲れも見せず、恐ろしい手際の良さでセラフィナとニルダ、そして恐らく…いや確実に騎士達もこきつかっているに違いない。


 ー全ては、私のために。


 私は、エリノアに甘えてばかりだ。

彼女は、私の乳姉妹だったばかりに、苦労の多い人生を歩むはめになった。《普通の幸せ》からは、遥か遠く離れた人生を。



 時折、今自分のしていることが酷く愚かで、全く意味のない事に思えてくる。


 ー遠い昔の、幼い日の約束。

恐らくは、忘れられた約束。


 そのために【駒】になる。

それが、決して楽しい日々にはなりえないことを覚悟の上で、ランバルディアに来たのは私の我儘、自己満足だ。

エリノアは、その我儘に全てを捨てて、ついてきてくれた。


せめて、私の【役目】が終わった後、エリノアが幸せになれるように。

きちんと、手配しておかなければ。



 窓の外、燃えるような赤はまだ続いている。この広い森を抜けると、私は実に5年ぶりに《サヴィルヌーヴ宮殿領》を出ることになる。

 同乗していたルチアナが、寒くはないかと聞いてくる。

大丈夫よ、と短く答えたのを、私が打ち沈んでいると判断したらしく

 「レティシア様。塔の管理人夫妻は、料理上手で有名なのです。 特に、夫の方は大陸中を旅したとかで、あらゆる国の料理をつくる事ができるそうです。

 アリオストの懐かしい味も、お召し上がり頂けるかと。

きっと、毎日。

美しい景色と、美味しい料理が楽しめますわ。」

と、一生懸命慰めてくれる。


 …ルチアナ。

貴女の中で、《王妃=食いしん坊=心を慰めるには、美味しいもの》という方程式が出来上がっているのが、よ〜くわかりました。

 …否定は、出来ない。


 「それは楽しみね。

どちらかが焼き菓子が上手だと、さらに嬉しいのだけど」


 反応した私に、ほっとしたように

 「ご安心下さい。

妻のほうは、ランバルディアで一番有名な菓子屋の娘だったのです。彼女が兄達を押さえて、跡取りになるのでは、と言われていたくらいですから、腕前は相当なものです。


 実家の菓子屋で一番人気なのは…」

ルチアナは、話し続ける。


 それでは、ルチアナのイチオシ

(…というか、推察するに恐らくルチアナ本人の大好物だと思われる)

黒スグリとリンゴのタルトを、一番最初に頼んでみよう、ということで話しはまとまった。

 「絶対、レティシア様ももう一切れ食べたい、と思われるはずです!」


「わかったわ。

ちなみに貴女には、大好物なようだから、最初から二切れ渡るように手配しておくわね。」


 そう言うと、ルチアナは真っ赤になって

あ、いえ。確かに、好物ですが。あの…。

などと、もごもご言っている。

ふふふ。かわいい。


 ーありがとう。ルチアナ。

貴女とセラフィナが、【監視】という本来の役目を越えて、私を【保護】してくれているのは、よくわかっています。

 それが、貴女とセラフィナの立場を危うくしかねない、危険な行為であることも。


 口に出しては言ってはならない感謝の想いを込めて、ルチアナに微笑む。


 ハッと目を見開いたルチアナは、小さく首を振った。

感謝されることでは、無いのだ。と、いうように。そして

「いつも…いつも、お側におります。」

普段より低い声で、言う。


 わかっている。

と、頷いて再び窓の外に目をやる。



 ー塔が、見えてきた。


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