見えない心~4~(Side;マリウス)
ー調べたい事が、ある。
少し時間をくれないか。
そう頼むと、アウトゥールは
「わかった。
…だが、無意味な事に思えるがな。」
渋い顔をしながらも、あっさり許してくれた。
ー疲れた顔をしている。夕方の報告の時間まで休め。
リッツォ、お前もだ。
アウトゥールは、一度懐にいれた人間には驚くほど優しい。
一応、臣下の退出の礼をとってから部屋を出ようとしたところで、大切な事を忘れていたことに気付いて、振り返る。
「王妃から、今回の処遇について感謝している、と礼を言われたぞ。
自分が俺達の計画には、もう少しの間必要な【駒】だとはいえ、ランバルディアとアリオストの間に遺恨を残さない方法をとってくれたことに、感謝するそうだ。
何かの機会があったらでよいから、陛下にもそう伝えて欲しいと頼まれた。」
固まったアウトゥールを残して、部屋を出る。
ー昨夜、ここを彼女はどんな気持ちで歩いたのだろう。
俺達の計画は、彼女にとっては残酷なものだ。
それをほぼ全て、わかった上でいつも微笑んでいたというのか。
もし、彼女が無実だとしたらー
昨日までは、考えもしなかった可能性が頭をよぎる。
徹夜明けの妙に冴えた頭が、めまぐるしく様々な仮定や可能性を生み出す。
説明のつかない感情の乱れに、苛つきを抑える事が出来ず、思わず舌打ちをしていた。
普段、ほとんど感情をあらわにしない私の舌打ちに驚いたらしい秘書官のリッツォが
「殿下、いかがなさいましたか?」
と、聞いてくる。
なんでもない、と答えて振り返ると、元は私の教育係だった男はじっと私の目を見て
「殿下。わたくしは、殿下が策謀に長けた人物になるよう様々な訓練を致しました。
国益のためなら、陛下のためなら冷酷とも言える判断を下せるように、と。
ですが…」
白いものが混じり始めた眉を額に皺を寄せて目一杯持ち上げ
「殿下。
《正義》と言われる事が、常に正しいとは、限らない。
と、時折この年寄りは思う事がございます。」
と、言った。
ーわかっている。
だから、今私の心は曇っているのだ。
今はまだ、王妃の心も、真実も。
すべては、深い霧の中。




