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塔の魔女妃  作者: 美遥
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仕掛けた罠(Side:マリウス)

 ちっとも話が進まないという、違う意味での《じれじれ》が続いているにも関わらず、読んで下さる方。評価して下さる方。お気に入りに入れて下さる方。

本当に、感謝しています!

 力不足なワタクシですが、精一杯頭をひねって正しい《じれじれ》地帯に辿り着けるよう(笑)頑張りますので、引き続きよろしくお願い致します。

 「今、戻った。」


 すっかり暗くなった執務室で、灯りもつけず窓の外を眺める背中に、声をかける。


 灯りをつけるこちらの手元を、じっと見ていたアウトゥールは、机上の小さな仕掛けを押して小姓を呼ぶ。二人がかりで、手際よく夜のしつらえを整えた小姓達は、酒の支度をして、下がっていった。

 「主の顔色を見て、茶ではなく酒を用意するとは。よく仕込まれていることだ。」


 そう冷やかすと、ようやくアウトゥールの頬に薄く笑みがのる。

 随分と疲れた顔をしていると、友を気遣うと、『ーお前も、な』と、言われてしまった。


 「ただでさえ忙しいお前を、使いたくはなかったんだが。すまない。」

 「これはこれは。

陛下に謝罪を頂くのは、【おやつ窃盗事件】の身代わりになった8才の時以来でしょうか。

 あの時は、陛下の代わりに陛下の御好きなクリームたっぷりの…」


 向かいに座るアウトゥールが、私に口を閉じさせようと、投げてきたクッションをにやりと笑い、投げ返す。


 「その話は、やめろ。

というか、頼むからもういい加減やめてくれ。」

 苦笑いを浮かべ、アウトゥールは酒をあおるように流し込む。



 「わかった。

なら、お前も謝るな。」


アウトゥールがうなずいたのを見て、本題に入る。


 「罠は、なんとか仕掛けてきたぞ。

 後は、あちらの出方次第だ。些細な動きも見逃さず、しっかり証拠を掴まなくてはならない。

 さすがのエルベルトも、今回ばかりはやりにくそうだったが…。あいつのやることだ。まず、大丈夫だろう。」


 「手と金が足りないなら、遠慮なく言うように伝えてくれ。

 エルベルトには、辛い仕事だ。なるべく早く、終わせたいものだ。」



 そうだな、とうなずくこちらを見ていたアウトゥールは

 「あれは、どうしていた?」

と、ついでのように聞く


 何を聞かれたかは、すぐにわかった。だが、惚けて首を傾げて見せると、従兄弟殿は深いため息をついて


 「お前が無邪気なふりをしても、ちっとも可愛くないぞ、マリウス。むしろ気持ちが悪い。」

なぞと、ぬかしやがった。

これ以上からかうと、本気で怒られそうな気配を感じて、懐に入れていたものをアウトゥールの前に出す。


 「報告通りの、慎ましい静かな暮らしだった。質素な恰好でも、美しい女は美しいものだし、王族の威厳は薄れもしないものなのだな。


 それは、もうすぐ産まれるエルベルトとビアンカの子のためにと、王妃が編んだものをちょっと《借りて》きた。」


 「それは、正しくはくすねてきた、というのではないのか。」


 アウトゥールの突っ込みは聞かなかったことにして、続ける。


 「なんとか『そちらが、そう望まれるなら』と、計画通りにしてくれることにはなったが…国庫に収めたものを一時的に借りるから、新しいドレスはもちろん装飾品も一切、いらないそうだ。


 何か欲しいものは、と聞いたら苦笑いされた。」



 『今まで、果たすことを許されなかった【王妃の当然の務め】を、果たすだけのこと。

 当然の務めに、報酬をねだるほど、愚かで強欲だと思われていたわけですか。』


 そう言って、静かに笑った横顔を、信じるべきか疑い続けるべきか迷うアウトゥールに見せたかった。


 だが、それはできない。

だから、この手袋を懐に入れてきた。


 柔らかく細い糸で丁寧に編まれた、小さな小さな手袋を。こういったものに疎い私にも、美しい模様が手の込んだものだと、深い愛情が込められているものだと、わかる。

 誰かに見せて、アピールするためのものではない、愛情が。


 「それにしても本当に、手強かったぞ。

この俺が、説得出来ないで帰るはめになるのではないか、と思ったくらいだ。

 『死んだも同じ王妃を駆り出さねばならぬほど、ランバルディア王家に手が足らないとは思えませんが』と言うなり、オリヴィエラ様を中心にした完璧な組織を、凄まじい早さで組み立てられて見ろ。流石の俺も、直ぐには言葉が出て来なかった。 

 交渉も国政も…あれは大勢を動かすことに慣れている上に、相当な《手練れ》だ。

 男なら、さぞや立派な皇太子だっただろう。」


 ーそうか。レアンドロはあれの弟だったな。



 アウトゥールと二人、しばし無言で考え込む。

 仕掛けた罠が、正しく獲物を捉える事が出来たなら。


 その日、あの王妃は何を言うのだろう。


 私達は、何か言うことが許されるだろうのか。




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