許されぬ想い
更新しない間も、評価して下さってありがとうございます。
書きたいことは溢れているものの、なかなか進めませ~ん(涙)
時間は作るもの。頑張ります。
階下が再び、騒がしくなった。
迎えが、来たらしい。
可哀想だが、熟睡しているフェリクスを起こさねば。
そっと揺するが、フェリクスはかすかに眉をひそめて、私の髪を握りなおしただけで、目を覚まさない。
ーかあさま
小さな声と寝息の後ろに、階段を駈け上がってくる足音が、聞こえる。
もう一度、腕の中の子を揺すろうと腕に力を込めた瞬間、
「やめろ!落ち着け!」
怒声と同時に、美しい彫刻を施した堅い木の間にさらに鉄を挟んだ頑丈な扉が、蹴破られた。
飛び込んできた男は、私の腕の中にフェリクスを見つけたことで、さらに怒りを燃え上がらせ剣に手をかける。
「疲れて、眠っているだけだ。
大丈夫だ。落ち着け、アウトゥール。」
私に刃をむけようとした男を、後ろから羽交い締めにして止め、塔の管理人は何度もそう繰り返す。
かあさま、どうしたの?
寝起きの、かすれた声にそう聞かれて、驚きと緊張で強張っていた身体から、力がぬける。
咄嗟に扉に背を向け、胸に強く抱き込んだため、フェリクスは苦しそうだ。
「おはよう、フェリクス。
お父様がお迎えに、来て下さったのよ。
さあ、心配をかけたことをきちんと謝りなさい。」
そう、告げると
ーはい。母上。
先ほどまで《かあさま》と、甘えていた子は、驚くほど大人びた顔をして私の膝からおり、父の前に膝をついた。
そして
「このたびは、私の勝手な行動で、皆に迷惑と心配をかけたことを、お詫び申し上げます。
すべては、私のわがままです。
近衛やクリストフ、そして母上は巻き込まれただけですので、どうかお怒りにならないで下さい。」
父上、お願いです。
そう言って、頭を垂れる我が子を見る陛下の優しい目は、悲しみに縁取られているように、見える。
蝋燭の光に浮かび上がるフェリクスの見事な金髪に、同じ色を持った人を
ーかつて深く愛し、亡くした今も愛し続けている人を
思い出したのだろう。
「…無事で、良かった。
帰るぞ、フェリクス。」
はい、父上。
立ち上がったフェリクスは、外へと促す父の目を見て、
「母上に、お別れとお詫びを。」
と言う。
不承不承、といった苦い顔で陛下がうなずく。
こちらを睨み付ける陛下の前で、短い別れを交わす。
合わせた額を震える手で、離す。その手をギュッと握りしめて、フェリクスは出ていった。
せめて塔を出るところまで、小さな背中を見送りたい。部屋を出ようとした私の前を、黒い腕がふさいだ。
「必要ない。でしゃばるな。」
冷たい声は、続ける。
ー忘れるな。
お前は、フェリクスの母親ではない。
…そんなことは、言われなくてもわかっている。
けれど…
この身で育てた子でなければ、傍にいることも、愛し慈しむことも。
遠くから想うことさえ、許されないのか。