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塔の魔女妃  作者: 美遥
12/19

小さな客人

午後も遅くなって、雪はやんだ。

見渡す限り、美しい白銀に包まれている。

 ニルダは、手際よく井戸周りの雪の始末をした後

「レティシア様のために、ノルフォッサを作ります!」

と、張り切って出て行った。

 ノルフォッサとは、ニルダの国の雪の神らしい。

雪で作ったノルフォッサを、門の前に飾ると幸福をもたらすという言い伝えがあるのだそうだ。



 夕食の支度までには、大きなノルフォッサを仕上げて見せます。

と、ニルダが出ていってしばらく後、階下が騒がしくなった。


ニルダが怪我でもしたのかしら?それとも…

管理人夫妻やルチアナの慌てたような声も、聞こえてくる。


襲撃の可能性もあるので、迂闊にターゲットである私が部屋から出る事は、許されない。

様子を見に行ったセラフィナは、すぐに戻ってきた。


 「フェリクス様が、お出でになられました。」


 一瞬、聞き違いかと思った。


 「フェリクス様が、お一人でいらっしゃいました。」


私の、理解出来ない という顔を見て、セラフィナがもう一度繰り返す。


 頭は固まったままで、足だけが勝手に動いた。

螺旋階段を、一気に駆け降りる。

たくしあげたドレスの裾が、それでも足に絡んで転びそうになるが、スピードを緩めはしない。


つんのめるように下り立った、一階の広間。

そこに


 ー私の宝物がいた。


 振り返って私をみつけるなり、飛び付いてきた小さな身体は、冷えきっていた。

ー言葉なぞ、出てこない。

ただ、抱きしめ、頬を包んで暖め、涙の後に口付ける。

 夢ではない。今、本当に私の腕の中にフェリクスがいる。


 ニルダ、本当に初雪は素敵な贈り物を運んでくるのね。


 フェリクスのものらしい外套を持って、立ち尽くしているニルダにそう言うと、ニルダは顔を真っ赤にしてうなずき、声をあげて泣き出した。

ルチアナが、ニルダを宥めながら隅の椅子に座らせる。


「ニルダ、大丈夫?」

心配そうに、二人を目で追うフェリクスの頬に手をあて、こちらを向かせる。


「ここに来ることを、お父様か先生に話しましたか?」

フェリクスは私に両頬を持たれたまま、気まずそうに目だけ、下に向ける。


思ったとおり、こっそり抜け出してきたらしい。

隊長に、早馬を出してフェリクスが塔に来ていることを宮殿に伝えてくれるよう、頼む。

 あらためてフェリクスに目をやると、大人の緊迫したやりとりに事の重大さを感じたらしく、すっかり肩を落として小さくなっている。

 額をこつりと合わせると、陛下と同じ翡翠の瞳から、ぽろぽろ涙が零れてくる。

 「ごめんなさい。でも、どうしても母上に逢いたくてたまらなかったの。」


小さな声で、ごめんなさいと何度も繰り返す子を、強く抱きしめる。


ー無事で、良かった。


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