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塔の魔女妃  作者: 美遥
11/19

温かな朝

 塔の日々は、穏やかに過ぎてゆく。

食事に毒が入っていることも、物が忽然と姿を消すことも、侍女達に悲鳴をあげさせるような不気味な贈り物が届くことも、ない。


 襲撃はあるにはあったが、騎士達と、恐らくはマリウス殿が手配してくれたらしい【黒狼】と思われる者達の守りの堅さに、相手方に怪我人を出すのみにとどまっている。


 ーランバルディアに来てから初めての、《平穏》と言ってもよい日々。


 「本日5回目になりますが…。

妃殿下、おはようございます。

爽やかな朝でございます。お目覚め下さいませ。」


 …そろそろ、限界か?(←エリノアの)

でも、寒いの。

暖かいアリオストにいた時も、朝は苦手だったの。

ランバルディアは、寒いからもっとにが…


 「いい加減になさいませ!!」


ご、ごめんなさいぃ…。

怒り狂ったエリノアに、ベッドから引きずり出された上に、夜着もひっぺがされた。

あまりの扱いに

「あのね、エリノア。

知ってると思うけど…私、王妃様。」

小声で、抗議してみるも


 「立派な王妃様は、何度も起こされたり、侍女にベッドから力ずくで引きずり出される前に、お目覚めになられます。」


 …確かに。

その通りでございます。侍女長殿。


 「今までのお疲れが出て、お身体がだるいのはわかります。

でも、せめて3回くらいで起きて下さいませ。

早く、お飲みになって下さい。」

 差し出された薬湯は、甘く温かかった。


 のどかな日々。

こんな日が、いつまでも続かない事は、よくわかっている。


まだ、戦いは続いているのだ。

気を弛めて、しくじる事は許されない。



 雪が、降ってきた。


 ニルダが弾む足取りで、朝食を運んでくる。

ランバルディアより寒い北国に生まれたニルダには、これくらいの寒さは寒さのうちには入らないらしい。


 「レティシア様、雪が降ってきました。

初雪は、素敵な贈り物を運んでくるんですよ。

 私がレティシア様に助けて頂いたのも、初雪が降った日でした。

 きっと、今日は良いことがあります。」



 外は、寒い。

状況の厳しさも、変わらない。

だが、こうして温かい心が私を包み、支えてくれる。

 良い朝だ。


 ーそして

確かに、初雪は私の宝物を運んできた。


ただし…大騒動と、一緒に。





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