温かな朝
塔の日々は、穏やかに過ぎてゆく。
食事に毒が入っていることも、物が忽然と姿を消すことも、侍女達に悲鳴をあげさせるような不気味な贈り物が届くことも、ない。
襲撃はあるにはあったが、騎士達と、恐らくはマリウス殿が手配してくれたらしい【黒狼】と思われる者達の守りの堅さに、相手方に怪我人を出すのみにとどまっている。
ーランバルディアに来てから初めての、《平穏》と言ってもよい日々。
「本日5回目になりますが…。
妃殿下、おはようございます。
爽やかな朝でございます。お目覚め下さいませ。」
…そろそろ、限界か?(←エリノアの)
でも、寒いの。
暖かいアリオストにいた時も、朝は苦手だったの。
ランバルディアは、寒いからもっとにが…
「いい加減になさいませ!!」
ご、ごめんなさいぃ…。
怒り狂ったエリノアに、ベッドから引きずり出された上に、夜着もひっぺがされた。
あまりの扱いに
「あのね、エリノア。
知ってると思うけど…私、王妃様。」
小声で、抗議してみるも
「立派な王妃様は、何度も起こされたり、侍女にベッドから力ずくで引きずり出される前に、お目覚めになられます。」
…確かに。
その通りでございます。侍女長殿。
「今までのお疲れが出て、お身体がだるいのはわかります。
でも、せめて3回くらいで起きて下さいませ。
早く、お飲みになって下さい。」
差し出された薬湯は、甘く温かかった。
のどかな日々。
こんな日が、いつまでも続かない事は、よくわかっている。
まだ、戦いは続いているのだ。
気を弛めて、しくじる事は許されない。
雪が、降ってきた。
ニルダが弾む足取りで、朝食を運んでくる。
ランバルディアより寒い北国に生まれたニルダには、これくらいの寒さは寒さのうちには入らないらしい。
「レティシア様、雪が降ってきました。
初雪は、素敵な贈り物を運んでくるんですよ。
私がレティシア様に助けて頂いたのも、初雪が降った日でした。
きっと、今日は良いことがあります。」
外は、寒い。
状況の厳しさも、変わらない。
だが、こうして温かい心が私を包み、支えてくれる。
良い朝だ。
ーそして
確かに、初雪は私の宝物を運んできた。
ただし…大騒動と、一緒に。




