塔の小鳥
沢山の方の《お気に入り》に入れて頂けて、嬉しさのあまり変な踊りを踊ってしまいそうです(笑)
《じれじれ》地点まで、なかなか到達しませんが、気長にお付き合い下さると、大変ありがたいです。
正式には【エシャリウスの塔】というこの塔は、7代ほど前の王によって、はるばる遠い北の国から嫁いできた王妃のための離宮として建てられた。
故郷を懐かしむ王妃の心を慰めるため、かの国の建築様式で造られたため、ランバルディアはもちろん、大陸では見られない珍しい建物だ。
元々は、代々の王妃に受け継がれていたが、100年程前の内戦のおり傷付いた兵士のために、時の王妃が医療設備を整えてからは、王族のための療養施設として使われている。
だが、今は主に“療養”が必要と判断された、【高貴な囚人】の収容施設として使われている。
ーつまり、私のような。
中庭を囲むように丸く部屋の並ぶ、この塔の最上階がこれからの私の《鳥籠》だ。
思っていたとおり、部屋は既に暖められ、居心地よくしつらえられていた。
蝋燭の光が揺れて、もう外が暗くなり始めている事に気づく。
「ありがとう、エリノア。
こんなに急がなくても良かったのよ。大変だったでしょう?」
そう礼を言うと、エリノアは左眉をひょいとあげて
「大したことではありません。
それに、ここの管理人がしっかりと仕事をしておりましたので。」
と、素っ気ない返事を返してよこす。
「それはそうと、なにかお召し上がりになりますか?
それとも、もうお休みになられますか?」
「塔の中を、ひととおり見ておき…」
たいんだけど。と、続く筈だった言葉はエリノアの氷のような微笑の前に、喉の奥に自発的にするすると下がっていった。
「妃殿下。塔までの道中、ご病弱のお体では、さぞやお疲れになられたことでしょう。
ごゆるりと、お休み下さいませ。」
…そうでした。
私は、“病弱で儚げな”王妃という設定なんでした。
「…儚げかどうかは、存じ上げませんが。
一体、貴女は何時間寝ていないと思っているのですか!
とっととベッドにお入り下さい。」
凄みのあるエリノアの声に押されるように、急いで夜着に着替えてベッドに入る。
ほら、いい子にしたわよ?と、エリノアを見上げた途端。
静かな部屋に、私のお腹の小鳥(ええ、小鳥ですとも。決して虫なんかじゃなくってよ!)の声が盛大に鳴り響いた。
部屋の隅に控えていたセラフィナに、用意していた軽食をこちらへ運ぶよう指示をするエリノアの口元が、ひくひくと震えている。
「…セラフィナ、こぼすよ。」
スープを給仕するセラフィナの手も、震えている。
「二人とも。
笑いたいなら、しっかりお笑いなさい。」
はい。妃殿下。
二人は、恭しく膝を折って返事をした後。
では、仰せのままに。
と、遠慮の欠片もなく笑い転げる。
ーまったく。
しかめっ面でスープをすくいながら、私は昨日から力を入れ続けて固まっていた肩と心がほぐれてゆくのを、感じていた。




