8話:あだ名の付け方
テスト勉強の合間に投稿です。
かなり更新に間隔が開きました、申し訳ございません。
次はテストの終わった水曜日夜に更新できると思います。
皆さまどうぞ次もよろしくお願いします。
ミユ、スイと時間帯をずらして家を出たせいでいつもより早めに登校する羽目になってしまっていた。
こういうのは普通、家主である俺が後から出るべきなのだがスイがまだ寝ぼけて歯ブラシの柄の方に歯磨き粉を付けて歯を磨いているというカオス極まりない状況だったので、後のことはミユに任せてさっさと俺は出ていったわけである。
あのまま待っていると、時間帯をずらした時に遅刻になる可能性があったからな……。
出来るだけ悪い印象は他生徒や先生に与えたくない。 俺だって真面目に学校生活を送っているんだ。
それに、前の噂の件もあるしな…。
そんなことを考えつつ歩いていると、昨日のコンビニが見えてきた。
あぁ、……あの不良達って普段何してんだろうな。ここで待ってたりしないよな? っていうか、うちの生徒ではなかった気がするんだけど。
そのとき、ザッ と昨日俺が様子を窺うために隠れていた街路樹の後ろから人影が現れた。
「!? ほんとに昨日の奴らが現れて───────」
いなかった。
以外にも、木陰から現れたのは昨日俺がここで助けた芹川結穂だった。
「何してんだお前」
そう呼びかけると、彼女はビクッと身体を震わせてこちらを窺うようにして見つめてきた。
「べ、別に……」
「それ昨日も言ってただろ」
「昨日ここで朝浦にあったから、ここに居たら会えるかなって思ったの!」
「は?」
「へ?」
この通学&通勤時間帯の交通量の少なくない通りの真ん中で彼女は何を言っているのでしょうか?
ほ、ほら。 昨日とは違うコンビニの店員も何事かとこっちを見ているじゃないか。
通りすがる女子中学生がにやにやしながらこちらを指差しているじゃないか!
「お、お前は一体何を……」
「違う! そういう意味じゃなくって。 お、お礼を……言おうとしただけなんだからっ!」
彼女は頬を赤らめながらそう叫ぶと、走り去っていってしまった。
わけが分からない。 っていうか、お礼なら昨日の夜にそれっぽいことを言ってくれた気がするが?
それにしてもなんなんだ、わざわざこんなところで待っていなくても学校で言うなりすればいいものを。
くっ。今度はコンビニの店員がにやにやしてやがる……。
周りの不可解な笑みに包まれながらも、俺は学校に遅れないよう歩みを速めるのであった。
いつもよりだいぶ早く教室についてしまったので、特にすることもなく机に突っ伏していたところ、
あれ、なんで隣のクラスの学級委員長がここに? だとか、相変わらず美しいなァ……といった声が色々な方向から聞こえてくるので顔を上げてみると、そこに今朝の彼女がいた。
何故か赤い顔をして。
「なんだ、まだなんか用があんのか?」
「え、えっと……。 昨日は助かったわ、朝浦のおかげで……何事もなかったわ」
「俺は何事かあったけどな」
「だ、だから。あの……その……今日の……」
「シカト? 」
「だ、だからっ!」
「おぅ!?」
芹川が何かを言わんとしたところで教室のドアが思いっきり開き、これもよく分からないのだが元気いっぱいの歌音が入ってきた。
「おっはよー! あれ? 結穂ちゃん、このクラスで何してるの?」
その後ろからはミユとスイが並んでいた。 どうやら一緒に登校してきたらしい。
まあ、歌音のことだから元気いっぱいなのは『転校生と一層仲良くなれたから』だろうと察しはつく。
それにしても、一気に騒がしくなったな……。
早めに話を付けるため、芹川に先を促す。
「んで、なんだって芹川?」
「や、やっぱりなんでもないっ!」
芹川はやはり叫ぶようにして台詞を吐きその場から退散する。
それを今朝と同じように見送ってしまう俺。 さっきからループしてね? これ。
「あれ? 結穂ちゃん、結穂ちゃーん!?」
友達がいきなり爆走したとしたら流石に驚くだろう。 歌音も目を丸くしていた。
っていうか、なんでお礼ごときでこんなに遠回りになってるわけですか?
別にいい、って今朝も言ったはずなんだけどなぁ。
「はっはーん。分かった、これは……昨日だねっ!」
急に歌音が何かを悟ったようで、笑顔のまま俺に人差し指を向けてきた。
ビシッ、っと突きつけられたその指に俺はたじろぎつつも、訊いてみる。
「な、何が昨日なんだよ?」
昨日は確かに芹川を助けたが………それがどうした。
「そう、結穂ちゃん………そうなんだね☆」
「おうぅ!? なんだお前、いきなりテンション上げんな! 朝から本当にどうした……」
「おはようございます、鈍感朝浦さん。 相変わらず極悪人面のくせに青春を謳歌していると思うと吐き気と鳥肌が一気に襲ってきますね」
「ちょちょ、ちょっとまてお前! なんで俺はそんなに罵られなきゃいけねぇんだよ!」
「ふ、ふん。 おはようだぜ、朝浦。 ………きょきょきょ、今日も、ごご……」
「お前は無理に言わなくてもいい」
強烈な毒舌をふるってくるミユと、今日も悪魔っぽく振舞おうとしているスイ。
いつも通りの日常のように感じられるが、違う。なんか違う。
「これは……何が起きている?」
俺には理解できそうもなかった。
「それよりも歌音。 えらくご機嫌だよな」
「え、うん。 美由ちゃんと優美ちゃんと登校してきたんだよー!」
やはりそうだったか。 人と仲良くなることで幸せになるってお気楽な奴だよな。
「それにしても美由ちゃんと優美ちゃんて名前似てるよねー。たまに間違えちゃいそうだよ、だってひっくり返しただけだもんね。あだ名つけようよ、あだ名。 仲良くなった記念にねー!」
俺も思っていた。学校でミユ、スイ、と呼ぶことはできないし何かいい方法は……あった!
ミユ、スイと俺があだ名をつけてしまうことである。
「俺が、あだ名をつけてやろう」
「お断りします」
息継ぎの一瞬の隙間をついてこいつは断りやがったっ………!?
「待て、いいあだ名かもしれんぞ」
「そもそも朝浦さんとはお友達になった覚えがありません。他人からあだ名をつけられるときは辱められるときだけと相場は決まっています」
「美由ちゃん……それはひどいんじゃあ?」
「いいえ、万年発情期の犯罪者面にまともな名前を名づけられるはずがありません」
「泣いてもいいはずだ。 これは俺、泣いてもいいはずだ……」
がっくりと肩を落とす俺の頭を撫でつつ歌音は、
「い、一応聞いてみようよ、朝浦君が一生懸命考えてくれたのかもしれないしっ」
焦ったようにフォローを入れた。 それにしぶしぶといった感じでミユは頷き、スイは何故かふんぞり返っていた。
「天崎はそのままミユ、黒崎はスイ。なんかでどうだ?」
その言葉に天使と悪魔は硬直し、逆に歌音は頭の上に疑問符を浮かべていた。
「なるほど、朝浦さんも猿並みには知能が回るそうですね。 それがいいでしょう」
「ナイスアイディアじゃん! ……じゃなくって、仕方ねぇな!」
「素直に褒められんのか!? それにお前は話すことを決めてから口に出せや! もう滅茶苦茶だぞ」
「ねーねー、なんで優美ちゃんが『スイ』なのかなー?」
次はこちらが硬直する番だった。
なんで? なんでってそれは……本当の名前だから、ってこれは答えにならないし。盲点だったっ!
どどどど、どうすればっ!
「そ、それはアタシが水が好きだからだっ!」
「え、そうなの?」
「そんなんだ! いつもご飯の時にはお水飲んでるでしょ?」
そう言えばスイは何かと水を飲みたがる。お茶は何か濁っていって嫌なのだという。というか、それはお茶の全てを否定していないか? まぁ、そんなことで水が好きらしい。 前に透明度がどうとか言っていたが忘れた。
「そーだったね。 でも、なんで朝浦君が知ってるの……?」
第二波の攻撃が飛んできたとき、ちょうどチャイムが鳴った。
「よ、よし、歌音。 授業が始まるぞ、用意しないとな!」
「そうですね。ここばかりは菌類さんに従っておきましょう。 あと、スイ。ないすでした」
「え、え! 私よかった!? 良かったのかぁ~………って違う!?」
違うじゃねぇよ……と突っ込む前に担任がクラスに入ってきた。
全て、計画通りっ!ではないが、とりあえずは誤魔化せたのでよしとしよう。
それにしても、スイも役に立つ時があったな……いつもバカにしていたが、今日は助かったぞ。
そして俺は歌音にばれないようにそっと汗を拭うのだった。